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この恋に殉ずる  作者: 冷暖房完備
研修ちゅ
54/55

No.10 揺れる思い

「心ここにあらずって感じだな…」

暗闇の中で新垣さんのため息が聞こえた。

「あ、ごめんなさ…」

「何があった?」

体を起こして、私の頭をその腕に乗せる。

そして、額に優しく口付ける。

「初めてだから怖い、とかって雰囲気でもないな」

抱き寄せるように寄り添う。

「あ、あの…」

何か言おうとして、何も言えない事に気づいて口を閉じたる。

「俺が紳士で良かったな」

そう言うと少し笑った。

「もう寝よう」

その日は何もせず、裸で抱き合って眠った。


うっすらと夜が明けるのをカーテン越しに見つめてる。

結局 一睡も出来なかったな……

隣で寝息をたてる端正な横顔を見る。

この顔を並木さんも見たんだ。

そう思った瞬間、身体中をドス黒いものが渦巻く。

ハァァ…

大きく息を吐く。

そうすれば、それが全部吐き出されるとでもいうように。

でも、そんな事はなく、ズッスリと重い何かに押し潰されそうだった。


仲良くしようと笑ってくれた並木さんが、まだ好きだと号泣してた。

人の不幸の上に私の幸せがあるのだとしたら、それはなんて罪深い事だろう。

それでも私は新垣さんの手を離せないでいる。


私だって好きなの。

大好きなんだ。

絶対に手に入らないと諦めていた彼が今 私の横で幸せそうに寝ている。


私は地獄に落ちるだろう。

それでも この手を離したくない!!

瞬間、涙が溢れたが新垣さんの胸元に擦り寄って堪えた。

一緒にいる事のできる貴重な時間を大切にしたい。




「ねえ飛山さん、週末あいてる?」

班長の神谷さんが声をかけてきた。

「空いてますけど…」

たしか新垣さんは仕事だ。

「良かった!!寮の皆で忘年会やるんだよ。良かったら来て」

あ……

「空いてるんだしOKでしょ?」

妊婦の佳世さんがやってきた。

「なら、出席にマルしとくね」

「あ、あの……」

二人は私の声なんか聞こえてないのか楽しそうに話し始めてしまった。

もうこれは行くしかないのか……



会いたくないな……

と、思っていても時間は流れてしまう。

「かんぱ〜い!!」

景気のイイ声とともに宴会は始まった。

「神楽ちゃん、飲んでる?」

笑顔で語りかけてくる並木さんに愛想笑いで答える。

「飛山さんが飲んでたらマズイだろ」

妊婦の佳世さんが突っ込む。

いつもの光景だ。

「まぁまぁ。ジュースじゃ割り勘負けするから、いっぱい食べてくのよ?」

よしよしと頭を撫でてくれる。

「あ、ありがとうございます」

私が答えると満足そうに笑って自分の席に戻った。

今日の並木さん可愛らしいな……。

ひっつめ髪をおろしてふんわりとしたガーリーなワンピースを着ていた。

仕事中と真逆だけど、元々 好みはこっちなのかな。


オバチャンズが新垣さんの彼女がお嬢様みたいだと言ったのも頷ける。

こんな可愛くて優しい人を振って、私の元に来てくれたのは なんでなんだろう。

私が男なら絶対 並木さんの方がイイよ。

「飛山さん、デザート頼む?」

神谷さんが隣に座る。

「あ、いえ。まだ……」

「そう?」

ニッコリ笑う神谷さんに思いきって聞いてみた。

「な、並木さんて彼氏さんと長かったって聞きましたけど……」

「ああ、元カレ?確か10年以上とか言ってたかな」

「そ、そんなに長いのに別れちゃったんですか?」

「長すぎた春ってヤツだわね。あの二人ほど お似合いのカップルもいなかったもん」

「そ、そうなんですか?」

聞いといて傷つくなんて……。

「彼氏かなりキツい性格だったけど智恵子といる時は穏やかだったしね。まぁ智恵子は更にキツかったから勝てなかったんかもだけど、このまま二人は結婚すると誰も疑ってなかったから別れたって聞いてビックリしたわよ」

「そ、そうですよね……」

私はオレンジジュースを一口飲んだ。

「まぁ、原因は女だろうね」

びくっ!!

「自分が優位に立てるような安い女に引っ掛かって夢見ちゃってんだよ。でも時間がたてば誰が一番自分に合ってるか気づくはずだよ」



それは死刑宣告のような言葉だった………




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