No.3 長すぎた春
車は住宅街に入っていく。
そして、少し横道に逸れたような隠れ家的な居酒屋でとまった。
「お前にはまだ早いけどな」
そう言って車を降りた。
コランコロン
「いらっしゃいませ」
小綺麗な奥様風の店員さんが笑顔で対応する。
「あらちゃん、いらっしゃい」
カウンターの中から いかにもママさんという感じの和服の女将さんが声をかけてきた。
「ノンアルコールとオレンジジュース。あとテキトーに何か作って」
「可愛い子 連れてるじゃない。娘?」
ガーン!!
「んな訳ないっしょ。こいつ地味に傷ついてるから やめてやって」
「あらら。ごめんね、冗談きつかったかしら?」
「い、いえ。慣れてます…」
そう言うと新垣さんが吹き出した。
くそ!!
二人で空いている座敷に座ると、隣のひと顔見知りなのかかるく
会釈された。
な、なんか大人の空間て感じだな!!
と、密かに感動的する。
「どうした?」
「は、初めてきたので…」
「これから どんどん来るようになる」
それが新垣さんと一緒ならいいなぁ。
「新垣さんの好きなモノで良かったかしら?」
小綺麗な奥様風の店員さんが唐揚げと野菜炒めを持ってきた。
「祐子さん ありがとう。大丈夫、こいつ何でも食うから」
いい笑顔で答える新垣さん…。
殴ってもいいですか?
「お、お腹いっぱい、です…」
「まあ、こんだけ食えばな…」
出される料理はどれも美味しくて、気がつけば かなりの量を食べてた。
「俺と味覚が一緒だから、お前に合うんじゃないかとは思ってたけどな」
そう言って笑った。
「さて、帰るか」
ええ!?
「んだよ、その不満そうな顔は!!明日、学校
あんだろ?」
あるけど…あるけど!!
「新垣さんちに泊まりたい、です」
「無理」
わ、わ〜(泣)
バッサリ切りやがった!!
半べその私に少し困った顔をした。
「あいつが来るかもしれんだろ?」
あ…
さっきまでの楽しかった気持ちが嘘のように消えた。
「そんな顔するな…」
優しく頭をなでられて、店の外に出た。
車に乗り込むと、新垣さんはエンジンをかけず黙り込んでいた。
私もなんだか声がかけれなくて静かにしていた。
「あいつに言ったから…」
「え…」
「別れたいって言った」
「は、はい…」
新垣さんの一言 一言に体が震える。
「でも、4月まで待ってほしいと言われたよ」
「え?」
「今あいつは俺との結婚を許してもらうために あるプロジェクトを成功させなきゃいけないらしい」
「プロジェクト…?
」
「ああ。そこまで待ってくれないと、仕事も親の信頼も失うって言われた」
「親の信頼って?」
「親の会社に勤めてるからな」
わ、わ〜(泣)
「お嬢様じゃないですか!!」
「だから、あいつは そんなタイプじゃね〜よ」
ふんわりしたお嬢様だってオバチャンズが言ってたな…。
やっぱり少し考えてしまう。
新垣さんはアタシでいいのかな?
今は結婚を反対されてるから、疲れちゃってただけじゃないのかな。
チラリと横顔を見つめた。
「んな顔するなよ」
ポンポンと頭を叩く。
「10年は長すぎたんだよ…」
そういうもんなのかな…。
私は目を閉じて新垣さんの肩にもたれた。




