第5話 白銀の魔法使い
チェーロに戻ったテオドールとニコラウス、そしてアリリオはテレーノファミリーの「片付け」の残りを済ませると言って再び出ていったジェンティアを待っていた。
「あの、助けてくれてありがとな。俺、テオドール」
「ええ、ジェンティがテオさんと呼んでいましたね。俺はアリリオ。こちらの方は?」
「俺はニコラウス。ニコラでいいよ」
アリリオはニコラウスに頷いたあと、テオドールの目をじっと見つめた。
「それにしてもこれが呪われた宝石眼ですか……」
「知ってるのか、これのこと」
おそらくアリリオが、ジェンティアの言っていた「旧文明に詳しい知り合い」なのだろう。それに、彼は魔法を使っていた。現在人々は使えないはずの、魔法を。
「順を追って話しますね。まず、俺は旧スバニア帝国の皇族の末裔です」
「皇帝の子孫ってことか!?」
「なるほど、銀髪銀眼はそういうことだね」
ニコラウス曰く、旧スバニア帝国の皇帝は代々銀髪銀眼だったそうだ。神聖な魔法の力を持つ証だとも言われていたらしい。
旧帝国の皇帝の子孫なら、知られていない情報を知っているかもしれない。期待に胸を膨らませるテオドールに、アリリオは続けた。
「知っているでしょうが、スバニアは百年前に魔女によって滅ぼされました。それから、度々厄災が起こっていますね。実はそれらは皇帝のものである魔宝石を狙って、魔女が引き起こしたものなんです。旧皇家、つまり俺の家は代々魔宝石を守っていたのですが、十七年ほど前……現状最後の厄災において、ついに魔宝石は魔女に奪われてしまった」
「それで、魔女がそれを使って俺たちに呪いをかけたってことか」
「魔宝石がもともと魔女のものだったって説は棄却されたってことかあ」
「ええ、魔宝石は元は皇家のものです。ですが、最初に皇家がどこからどのように魔宝石を手に入れたのかは教えてもらえませんでしたから……もしかしたら本当の本当は魔女のものなのかもしれません」
教えて「もらえなかった」という言い方は、テオドールの心に引っかかった。アリリオは誰からそのことを教えてもらったのだろう。その誰かは一体どこまでを知っているのだろう。
ニコラウスも同じ疑問を抱いたらしい。
「誰から聞いたの? 俺たちもその人に会うこと、できる?」
「預言です。おそらく先祖が魔法で残したものでしょう、不定期に過去のことを教えてくれていて、俺も人生で一回しか聞いたことがないので……調査に使うには向かないかと」
「なるほどね」
「貴方達のことも預言で知っていましたよ。とはいえ、宝石眼の所持者の一人が呪いを解くためにネイプルを訪れるということくらいですが」
「すげえじゃねえか、その預言」
ということは、アリリオと出会ったのは偶然ではないということだ。そしてアリリオも、テオドールたちの目的を知っている。
「貴方達の目的を果たすには、まずその所持者を全員集めるべきです。それから宝石の魔女を倒す……これが、呪いを解く方法です」
「所持者全員……っつーとあと三人か? だだっ広いラーマ帝国でそんなピンポイントで見つかるわけ」
「大丈夫ですよテオさん、私も手伝います」
明るい声にテオドールが振り向くと、ジェンティアが戻ってきていた。すっきりしたような顔をしているのは気のせいだろうか。白マフィアとはいえあの時のジェンティアの迫力はすごかった。敵に回してはいけない。テオドールは心底そう思ったのだ。もちろん敵に回す気など最初からないわけだが。
「アーラの人脈は広いですよ! まずはイグリシア地区に出張している弟に連絡を取ってみますね。宝石みたいな目をした人を探してくれって」
「頼んでいいか?」
「任せてください!」
テオドールは改めて、ジェンティアにも宝石眼について話しておいた。旧皇帝の持っていた魔宝石に由来するため、おそらく青、赤、金の宝石眼がいるだろうということ、所持者の苦しみに応じて呪いが発動すること、宝石の魔女そのものではないということ。
とは言ったものの、宝石の魔女が呪われた人間の側に擬態している可能性も無いことはないかもしれない。魔女は魔法が使えるのだ。加えて今の人間は魔法についてほとんど知らない。科学に限界があることは知っているが、魔法に限界はあったのだろうか? そもそも、旧文明はどこまで魔法を発達させたのだろうか?
「宝石の魔女についても情報を集めておきますね。アリリオさんの話で言えば魔女は魔宝石を取り戻したのだからきっとしばらくおとなしいでしょう。今のうちに色々知っておいたほうが良さそうです」
「何から何までありがとうジェンティ。やったねテオ、今日だけでかなりの進歩だよ!」
「ああ、そうだな」
呪いを解かなければならないのはテオドールだというのに、ニコラウスは己のことのように喜んでくれる。友達というのはこんな感じなのだろうか、とテオドールは少しくすぐったいような気持ちになった。
「では、これから二人は宝石眼の所持者を探すんですね」
「ああ。もともとそのつもりでネイプルに来たが、お前のお陰で自信持って進められる。ありがとうな」
「……なら、俺も一緒に連れて行ってください」
アリリオがそう言って、テオドールとニコラウスに改めて向き直った。
「預言で、俺も言われたんです。宝石眼の所持者を集めて、魔女を倒せと。厄災を終わらせろと。目的は一緒でしょう?」
「いいのか、今回みたいに危険な目に遭うんじゃ」
「忘れました? 俺、魔法が使えるんですよ?」
そう言われてはっとした。アリリオはテオドールのような制御不能の呪いではなく、自らの意思で魔法を使える。
それに、危険な目に遭うのはニコラウスも一緒だ。ならばアリリオがいてくれたほうが、全員安全に目的を果たせるのではないだろうか。
「ああ、行こう。一緒に魔女を倒そう」
「はい。よろしくお願いしますね、テオ、ニコラ」
「よろしく、アリリオ」
ジェンティアはネイプルに残って情報収集をしてくれるとのことだ。心強い仲間が二人も増えてテオドールとしてはありがたい限りだ。
さらに。何かわかったときに連絡ができるようにとアリリオは自分の持っていた石に何か魔法をかけた。曰く、音声を転送する魔法をかけたらしい。物だけでなく音も移動させることができるなんて、魔法は便利だ。無論テオドールは初めて見たわけだが、もっと興奮しているのはニコラウスだった。
「わああすごい! 本物の魔法だ! ね、一回試してみてよ! ちょっと離れてさ!」
「大げさですね。でもいいですよ、俺が外に出て話してみるのでちゃんと届くか確認してください」
興味津々のニコラウスが嬉しかったのか、アリリオは満更でもない様子で外へ出ていった。三人は静かにアリリオの声が届く時を待つ。
少しすると、石から声が聞こえてきた。
『聞こえますか?』
音質はあまり良くないが、間違いなくアリリオの声だ。聞こえてきた瞬間、室内が驚きと興奮で満ちた。
「すご! すごい!」
「本当に届くんですね!」
「これが魔法……」
アリリオが部屋へと戻って来ると、ニコラウスは大はしゃぎでアリリオに詰め寄った。
「あの石は普通の石? それとも魔宝石?」
「あれはただの石ですよ。ネイプルにあった石と、俺がもともと持っていた連絡石です」
「物を送るのもできる?」
「軽くて小さい物を短距離なら……そうそう、この声は保存しておくことはできないので聞き逃すことはあるかもしれません。それと、ネイプルから離れるなら多少時間のズレが発生します。ちょっとだけ遅れて聞こえるってことですね。とにかく、これをジェンティに渡しておきますから、何かわかったら使ってください」
「ありがとうございますアリリオさん。では、何かわかったら連絡しますね。魔女のこと、魔宝石のこと、宝石眼のこと……それから、ロルバッハ家についても調べてみます」
ロルバッハ家。テレーノファミリーに、おそらく「アメテュストの所持者として」テオドールを攫うよう指示をした、四大公爵家の一つ。
彼らは少なくとも、テオドールを宝石の魔女本人だと勘違いしているわけではないようだった。あくまで宝石眼の所持者として、魔女とは区別した言い方をしていたから。慈善事業に投資しているとは聞いていたが、それも関係しているのだろうか?
どちらにせよ、直接聞くことは今のテオドールに公的な立場がない以上不可能だろう。ジェンティアに任せることにして、テオドールは「ありがとう」と言った。




