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【完結済】Juwel Hexe  作者: タラノリオ
柘榴石の章
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第38話 違和感

「……おまえたちにこのまま作らせていたらそのうち毒物ができるんじゃないか」

「ニコラにも言いましたけど、文句言うなら次から手伝ってください! どうせアドムだってまともなご飯作れないくせに」

「皇子よりはまともなものを作るぞ」

「まあまあ、簡単なやつから始めようよ。今度図書館で料理本借りてくるからさ」


 塩味の強すぎる朝食に不満を漏らしながらも、アドムは大人しくそれを食べていた。


「それで、これからどうするんだアメテュスト」

「え」

「あんなセットクの仕方をしておいて、まさか何も考えていないわけではあるまいな」

「あー……」


 ちょっと待ってろと言ってテオドールは自分のノートと、あの日イグリシアで買った新しいペンを持ってきた。

 まずは情報を整理しなければならない。キョースケが、ハイドとアドムが、隠していたことを踏まえれば前提が変わるはずだ。


「まず、キョースケ。お前ツィトリンの所持者に会ったってのは」

「……嘘、です」

「だろうな。ってことは伝言も無かったってことだ。そいつが俺らと会えない状況にいるかどうかもわかんねえ。裏を返せば、合流できる可能性があるっつーことだ」


 当面の目的はツィトリンの所持者を探すことになりそうだ。

 それから、テオドールはノートのページを一枚めくった。


「あと、ケインズの家にあった三つの名前だな。ナジフ・ムハンマド、デイヴィッド・ラザフォード……セオドア・ケインズ」


 セオドア。ニコラウスが幼い頃に会ったというツィトリンの所持者は「セオドア」の所へ行こうとしていたらしい。しかしニコラウスが幼い頃とはいえども新文明時代の範囲内だ。ナジフの手記にもその名はあったが、旧文明時代の建物であるケインズの家でもムハンマド家初代当主の名前と共に刻まれているとは。


「なあアドム、ムハンマドの初代当主が生きてたのっていつだっけ?」

「旧文明時代末期から新文明時代初期だな。最初の厄災が起こった頃だ」

「だよなあ……」


 考えられる可能性は二つ。一つはツィトリンの所持者の探していたセオドアとケインズの家に名を刻まれていたセオドアは同じ名前の別人であるというもの。そしてもう一つは以前推測したようにツィトリンの所持者……「生」の呪いを持つ者がナジフの時代から生き続けていること。

 キョースケから聞いた伝言が嘘だったのならば、向こうがこちらを避けていることは無いかもしれない。


「それと、大事な情報はまだあるな。……俺たちの呪いは、他者の苦しみを取り込む性質がある」


 ハイドがアドムという共犯者にだけ伝えた、自身を蝕む呪いの力の本質。ロルバッハ家での実験でわかったという事実。

 アドムが静かに頷く。


「こっちが呪いさえハツドウさせなければその効果も出てこないはずだと、あやつは言っていた」

「ねえでもそれってやっぱり魔宝石の性質だよね? ほら、旧文明のユートピア計画って人の苦しみを全部魔宝石に請け負わせるって」


 ニコラウスがそう言って立ち上がった。

 旧皇帝がユートピア計画に使おうとしていた魔宝石。アリリオ曰くそれは少し前まで皇家のもので、本来どちらのものかはわからないが、ニコラウスの研究では確かに宝石眼は魔宝石に由来しているという結論が出ている。だからこそこちらも宝石眼の色と対応した呪いの種類を知ることができた。

 しかしハイドが残した情報が事実なら、宝石眼は単に魔宝石に由来したものではないのかもしれない。


 魔宝石の代わりか、あるいは、そのもの。


「……魔女が何をしたいのかますますわかんねえな」

「ユートピア計画を自分で壊しておいて、自分は似たようなことをやっているんでしょうか? 魔女は本当は皇帝に成り代わりたかったとか?」

「そうかもね。でも、それだとおかしい」

「どうして」


 テオドールが尋ねると、ニコラウスは真面目な顔をして考え出した。


「最初の厄災とそれ以降の厄災は規模が全然違う。もちろん新文明では魔法に対抗する手段、すなわち科学が現れたっていうのも大きいけどね。でも決定的なのは、新文明になってから魔女は皇家を傷つけていないこと。つまり現皇帝陛下を狙っていないわけだ」

「確かに。皇帝の座を狙うなら現皇帝陛下だって狙われますよね」

「そ。ってことは魔女は旧皇家及び彼らが築いた文明に何らかの因縁があるはずだ。でもアリリオ、君は特に狙われていないよね」


 皆の視線がアリリオに集中する。旧皇帝の直系の証である銀眼が揺れた。


「……確かに、俺は狙われていませんね。旧皇家を破滅させるような動きもされたことがありません」

「そこだよ、そこ。違和感あるよね。俺もそう思ってたんだ。それで、色々考えた。俺はこう思う……魔女の因縁の相手は、当時の旧皇帝個人だって」


 なるほど、個人が対象なら確かにアリリオが狙われないのも納得がいく。しかしそれでは辻褄が合わない点があるはずだ。


「ならば問おう、メガネ。最後の厄災において旧皇帝はもうこの世にいないはずだが?」


 アドムの赤い瞳が光る。ニコラウスは少し歩いて、座っているアドムの背もたれの後ろに回った。それから得意げに話し出す。


「言ったでしょ、最初の厄災とその後の厄災では規模が違う。最初の厄災の方がずっと大きかった。なんせ文明一個滅ぼしちゃったんだ。その時点で旧皇帝個人との因縁から生まれた魔女の当初の目的は達成。ならなぜその後も厄災が起こったのか? なぜ規模が違うのか? …………目的が違うからだと考えたら?」


 レンズの向こう側で、ニコラウスの目が少し細められる。


「ね、アリリオ。アリリオがネイプルで教えてくれた、厄災の原因って何だった?」

「それは、皇家の持つ魔宝石を狙って魔女が……って、そうだ、そうでした。最初から魔女は、皇家の魔宝石を……」


『それから、度々厄災が起こっていますね。実はそれらは皇帝のものである魔宝石を狙って、魔女が引き起こしたものなんです』


 それはアリリオ自身がネイプルでテオドールたちに語った話だった。テオドールも、アリリオ自身も、どうして今まで忘れていたのだろう。


「情報は増えれば増えるほど、古いほうから消えていくものさ。とにかく、魔女は最初は旧皇帝個人への因縁による厄災、それ以降は魔宝石を奪うために厄災を起こした。そして魔宝石を手に入れた。となると宝石眼は魔宝石の代用というより魔宝石そのものの可能性が高い。あるいは旧皇家に見つからないための隠し場所、かな」

「……俺らは魔女にどっかからさらわれて、魔宝石の容れ物にされたってことか?」

「その可能性は高いね。そもそも魔宝石は最初から人を容れ物にする必要があったのかもしれない。ナジフはグラナートを持っていたんでしょ? そしてその時代にユートピア計画があった」

「…………なるほどな。なかなかセットクリョクがあるなメガネ」


 アドムに褒められてニコラウスは照れたように笑った。

 宝石眼と、その呪いの正体がだんだんとわかってきた気がする。だが、何かを見落としている気がする。どうしても全てが噛み合わないような、そんな感覚。テオドールは記憶の欠片を必死に探すが何も思い出せない。いや、そもそも自分が何を忘れているのか、なぜこんな感覚になるのかもわからない。

 とにかく何かが足りないのだ。


(もう一度思考を整理しよう。最初の厄災当時の旧皇帝と魔女は対立関係があった。魔女は皇帝のユートピア計画を旧文明ごと破壊して、それから新文明ができて、魔女は魔宝石を奪うための厄災を起こした。十七年前に魔宝石を手に入れて、俺たちが呪われた……)


 よく考えてみれば、魔宝石を巡る旧皇家と魔女との対立についてはアリリオが最初から言っていたはずだ。どうして忘れていたのだろう。


 この感覚を、テオドールは知っている気がした。

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