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【完結済】Juwel Hexe  作者: タラノリオ
蒼玉の章
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36/81

とある少年の話

 復讐のために近づいた。それ以上でも以下でもない。本当は、演技をするのも反吐が出るほど嫌だった。



 伊藤恭介はヒノモト地区のナガト村に住んでいた。家族もそこにいた。全部全部、奪ったのはあの男。海の目をした男。


「ねえねえ、お兄さんの名前は?」

「……オレ?」


 知ってるよ。お前が僕の村に呪いを振りまいたって。こんな優しそうな人たちに囲まれてぬくぬく過ごしながら、僕らを嘲笑っているんだって。


 ……なんて、言わなかった。伊藤恭介はただひとりぼっちの可哀想な幼子「キョースケ」を演じなければならない。復讐のため。


「オレはハイド。よろしくな、キョースケ」

「……うん! ハイド!」


 この男は敵だ。家族を奪った、憎き仇。

 なのに、名前を呼ばれただけでどこか嬉しそうな様子にひどく腹が立った。わざわざしゃがんで、その呪われた海の目を見せつけてくるのも。


(……まあ、いいや。油断させて、こいつが一番幸せな時……絶望の底に落としてやる)


 少し距離を置いて冷めた目を向けてくるアラブリアの「ラハブ」は少しだけ気がかりだったが、止めてくる素振りもなかったので今は放っておくことにした。




 それからの生活は全部全部嘘で塗り固められた偽り……そのはずだった。


「君がまだ食べられるなら半分どうぞ」


「二人で二階を調べようか」


 ハイドという人間は、いとも簡単に孤独な少年の心を溶かしてしまった。演技で口にしていたはずの「ハイドがいい」が、抵抗なく口から出てしまうほどに……キョースケは、ハイドに懐いてしまった。

 いつしか彼は、家族のことを思い出さなくなってしまう自分がいることに気がついた。毎日のように考えていたはずの父と弟。村のこと。復讐に燃えていたはずの心がこんなにも穏やかだ。


 それが、怖かった。


 仇であるはずの人間に絆されている自分が、もう自分ではなくなってしまうようで怖かった。父に、弟に、申し訳がなかった。


「早く、早くあいつを殺さないと。あいつは村の仇。優しいのも、僕と遊んでくれるのも、哀れな被害者を嘲笑っているだけ。心の中ではきっとどうとも思ってない。なんならヒノモトのことなんか、覚えてもいないんだ」


 本当に?


「……っ、殺さなきゃ」


 復讐という目的を失ったら、一体何を目印に生きていけば良いのだろう。ここに来た意味だってないじゃないか。

 可愛らしい「キョースケ」は復讐のためだけに存在しているのだから。



 そんな中で、イグリシア行きが決まった。この旅で殺してしまおうと思った。早く成し遂げて、楽になってしまおう。イグリシアの時計台で、キョースケはわざとハイドの手を離して駆け出した。一人で追ってきたハイドを、人ごみに紛れて殺すためだ。


 殺れる。そう思った、瞬間だった。


「わあ、危ないよ。そんなもの持ってたら」


 なんでもないように、その人は言った。微笑。ただ、キョースケにはその笑顔がひどく不気味に感じた。堂々とできない身分なのかみすぼらしいローブに身を包んでいるが、佇まいから見て取れる余裕が只者ではないという空気を醸し出していた。


「……っ、誰」

「先に質問に答えてよ。キミが狙ってるのは、青い目をしている?」

「!」


 やっぱりね、とつぶやいた男の目線の先……それは遠く向こうだが、そこにはキョースケを探しているのであろうハイドがいた。


「…………何者?」

「しーっ……ボクはジキル。ジキル・ロルバッハだ。ロルバッハ公爵家はわかるでしょ?」

「公爵家」


 知らないはずがない。この帝国で皇帝と四大公爵家を知らない民などいないはずだ。だいたい、キョースケの近くにはそのうち二つの家の者……テオドールとアドムがいる。


「あの子には、ボクも苦労したんだよ。キミはヒノモトの子かな? あれも酷いものだった」

「! 知っているんですか」

「もちろん。全部あの子がねえ……ボクも『危険だから』探していたのさ」


 やれやれ、とジキルはため息をつく。


「そうだ、手を組まないかい? キミはヒノモトの惨劇の復讐をしたい、ボクは彼を止めたい。互いに利益はあるんじゃない?」

「っ」


 揺らいでいた。


 復讐……ハイドを殺して、何が残る? 今回こんな回りくどい方法を選んで殺そうとしたのも、まだ迷いがあったからではないか? ハイドという人間は、悪い人ではないのではないか?


 だが、そんな思いはジキルの言葉により断ち切られた。


「ヒノモトもハーグリアも、全部あの子の独断さ」

「……」


 ああ、やっぱりそうだったのか。


 幼い復讐者の心に、再び炎が燃え上がった。


「…………この後、土産を買ってから帰る」

「うん」

「帰りの船で……僕はあいつを刺して、悪事を洗いざらい吐いてやる」

「そう。協力しよう」


 そしてキョースケはついに気づかなかったのだ。全ての糸を引いている存在に。

キョースケ側の色々です。また後ほど村のことなど出てくるのでよろしくお願いいたします。

やっぱりジキルさんが悪いですね。


次回から三章・柘榴石の章に入ります! 


ブックマーク、評価、リアクションなどいただけると大変励みになります! よろしくお願いいたします!


タラノリオ(2026.8.18)

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