第24話 森の家の大掃除
「……ってことで、大掃除を始める」
腹ごしらえも完璧、情報共有も完了したところでテオドールはそう宣言した。
もちろんただの大掃除なんかではない。この家の中でも、使っている部屋はハイドのおかげでホコリ一つないのだから。今回のメインはこの家に隠された旧文明の手がかりを探ることだ。
「隠し扉があったりとかして」
「地下室があるかもですよ! それか魔法陣があってワープしちゃったりとか」
「そんなわけ……とも言い切れねえか」
担当を決めて、定刻になったら気になるところを共有する……そう決めてテオドールたちは各々動き出そうとした。
問題はキョースケだ。
「お前一人で調査とか無理だよな」
「僕ハイドと一緒がいい!」
キョースケはずっとハイドにくっついて離れない。彼が夕食を作っているときも、担当を決めているときも、ずっと「僕とハイドは一心同体だけど?」という顔で隣にいる。
「キョースケお前なあ、あんまりずっとくっついてるとハイドが困るだろ」
「大丈夫だよ。キョースケ、二人で二階を調べようか」
「うん! 行くぞー!」
「あ、階段は走ると危ないよ……じゃあテオドール、オレも行ってくる」
「ん」
駆け出すキョースケを追って、ハイドも二階へと上がっていった。
「キョースケはハイドにべったりですね」
「俺たちのところに来てくれてもいいのに」
「ま、ちびにも考えがあるんだろ」
アドムは庭へと向かっていった。テオドールも二階に上がり、ハイドとキョースケが向かった東とは反対側へと向かった。
現状空き部屋は二つある。階段が遠いせいか、皆端の部屋は使わないらしい。西の空き部屋にテオドールが入ると、自分の部屋と同じレイアウトが出迎える。
シェルフ、ベッド下、くまなく探してみるが特に目立ったものは無い。期待はしていなかったがやはり残念だ。
しかたない、とテオドールは部屋を出た。
「…………ん?」
部屋に入る時には気付かなかったが、廊下に出たテオドールが視線を少し上に上げると、天井の色が違う部分があることに気がついた。ちょうど正方形に近い形に、色あせた部分があるのだ。
もしかしたら、屋根裏があるのかもしれない。テオドールは後で報告しなければと思い、ノートにメモを取っておいた。
☆☆☆
経過報告の時間となり、一行はダイニングに集まった。ニコラウスはぼろぼろの紙を持っている。
「あ、テオお疲れ。見てよ、手紙? みたいなのを見つけたんだ」
「へえ。何語だそれ」
「うーん、旧イグリシア語かな?」
紙には見たことのない文字が書いてあった。テオドールはその文字にどこか見覚えがあるような気もしたが、だからといって読めるわけでもなかった。
そうこうしているうちにアリリオ、アドム、ハイドとキョースケがやってくる。
「皆揃いましたね、なにか見つかりましたか?」
「はいはいっ! 僕とハイドはね、何も見つけられなかったよ!」
「…………すまない」
ハイドが申し訳なさそうにそう言う。
テオドールが二階の西で調査を続けている中、キョースケのはしゃぐ声がずっと聞こえていた。あれではハイドも調査が進まないだろう。彼はキョースケを放って調査を続けるなんてできないだろうから。
「気にするなザフィーア、おれも何も見つけてない」
「俺もですよ。なんだか痕跡が全部消されてるみたいでちょっと不気味です」
旧文明の終わりとともに、この家もすっかりリセットされてしまったのかもしれない。
「俺は手紙みたいなものを見つけたけど…………旧言語で書かれててわからないね。今度翻訳してみるよ」
「俺は二階の西端の天井に色がおかしいところを見つけたぜ。屋根裏があるかもな」
とはいえ、屋根裏があるとしたらなぜ梯子がないのだろうか? やはりかつての住人は旧文明時代の人間だったから、魔法で屋根裏へと行けたのだろうか? それにしては不便すぎはしないだろうか?
「屋根裏かあ、まさに何か隠されてそうだね」
「おう。見てみてくれよ」
テオドールは先程の場所へと皆を連れて行く。もう一度見に行ったら無くなっていた、なんてことがあったらどうしようかと思ったがそんなことはなかった。もちろんテオドールにだけ見えているわけでもない。ニコラウスもアリリオも、ハイドもキョースケもアドムもその天井の異質な角を認識できていた。
「どう考えてもこのままじゃ届きませんよね。明日あたりにでも梯子を買ってきますか? 気になります」
「うむ、ならばおれは良い子にお留守番をしているとしよう」
「留守番かよ!」
「何人もで行くものじゃないだろ」
「あはは、それもそうだね。じゃあ俺は図書館でイグリシアの固有名詞について調べてできるところまで翻訳してみるよ」
「ん? プレンシアに図書館なんてあったか?」
テオドールが首をかしげる。ニコラウスはレンズの向こうの目を大きく見開いた。
「知らないの? プレンシアの図書館って結構最近できた綺麗なところだよ」
「知らねえよ、こっちは森暮らしなんだ」
「ごめんなさいニコラ、俺も知りませんでした」
「おれもだぞ」
「オレも知らなかった」
「ねえハイド、トショカンってなあに? 面白いところ?」
どうやらテオドール以外もプレンシア図書館のことを知らなかったらしい。エドゥアルトが聞いたら頭を抱えるかもしれない。テオドールは心の中で義兄に謝った。
「せっかくだし明日は皆で図書館に行ってみる? アドムも留守番なんて言わないでさ、それで帰りに梯子を買って、帰ってから天井裏を調べようか」
「わあい! トショカン、トショカン!」
「喜んでいるところ申し訳ないですが図書館は美味しいものじゃありませんよ、キョースケ」
「アリリオ、別にキョースケはお前ほどの食いしん坊じゃねえよ」
テオドールの言葉にキョースケは「そうだよう」と頬を膨らませてアリリオに不服を訴えた。
結局明日は皆で図書館に行くことになりそうだ。テオドールは初めてプレンシアの図書館に行く。もっと言えばニコラウス以外は全員初だ。
「旧言語の辞典なんかもあったりするか?」
「ちゃんとした辞典はないよ、あったら俺の研究は百倍は楽だったね。ああでもナジフの手記も持っていこう。固有名詞の辞典……案外各地区の名付けの手引書なんかは旧言語翻訳に役立つからさ」
「ニコラお前本当に大変だったんだな……」
名付けの手引書を手に真面目な顔でナジフの手記を翻訳するニコラウスを想像して、テオドールは思わず笑ってしまった。
図書館というものがどこまで可能性を孕んでいるのかはわからないが、少なくともこれから行くことになるイグリシアについて事前調査はできるはずだ。あるいは危険区域である北の雪山についても何かしら知ることができるかもしれない。あの場所に手がかりがありそうなら何かしらの方法を使って入り現地で調査をしたいが、何も手がかりが無いところに行っても寒さと危険に無意味に身をさらすはめになるだけだ。せめて文献を探して見ておこう。テオドールはそう決めておいた。
「ちょっと楽しみだな、図書館」
「おっ、テオも図書館の面白さがわかりそう? 図書館は良いよ! 本当は首都の図書館が一番色々揃ってるけど、居心地はプレンシアの図書館が一番! あ、図書館内は基本的に静かにね。飲食も禁止。特にアリリオ」
「さすがにそれくらい知ってます!」
「ごめんごめん、とにかく明日はちょっと早起きして図書館に行こう」
ニコラウスが笑う。
朝が早い。それを聞いたテオドールはあまり早起きが得意ではないので今日は早く寝ることにした。いっそ今から寝よう。そうしよう。
「俺先に寝るな。おやすみ」
「うん、おやすみ……ってまだ夕方だよテオ! 夕飯! 夕飯!」
その叫びに引き返しておとなしくダイニングに座るテオドール。ヴァイスヴァルトに数人分の笑い声が響いた。




