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【完結済】Juwel Hexe  作者: タラノリオ
紫水晶の章
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第18話 情報提供

 アリリオのポケットからジェンティアの声が聞こえてきたのは、昼食時のことだった。


『テオさーん! ニコラさーん! アリリオさーん! 聞こえますか! ジェンティアですよ!』

「ジェンティ!?」


 慌ててアリリオが連絡石を取り出す。久しぶりに聞いた声にテオドールはあのネイプルの陽気な街の雰囲気と、ジェンティアの笑顔を思い出す。あれから随分経ったものだ。


「久しぶりだな、元気だったか?」

『はい! 皆さんはお元気ですか?』

「俺たちは元気だよ。ジェンティは?」

『それはもう! 絶好調ですよ!』

「…………彼女が、ネイプルの?」


 テオドールの隣でハイドが不思議そうな顔をして尋ねた。彼は連絡石を見るのは初めてだ。そして、ジェンティアの声を聞くのも。

 ロルバッハ家に電話機があったという話は聞いていたので、テオドールは連絡石も同じようなものだと教えてやった。連絡石は科学技術ではなく魔法で動いているだけで、役割はほとんど電話機と同じだ。ただ、連絡石は持ち運びができるという点でやはり電話機よりも優れているのかもしれない。


「なるほど、ネイプルにいる彼女の声がここに聞こえているんだな。初めまして、ザフィーアの所持者、ハイドという者だ」

『宿屋チェーロの管理人、白マフィアアーラファミリーボスの娘、ジェンティアです。よろしくお願いします、ハイドさん』

「うん、よろしく」

『ザフィーアの所持者ですか。となると、そちらもがかなり進んでいたみたいですね』

「ん? 『も』ってどういう……」

『そうなんです、それを報告したくて!』


 ジェンティアの明るい声が続く。


『実はですね、テレーノファミリーを尋問している中でムハンマド家に宝石眼所持者がいるかも知れないという情報を得まして。ムハンマド商会に探りを入れてみたんです。そうしたら……いえ、こうして話すよりも直接行ってもらったほうが良いかもしれません』

「でも、アラブリアってほぼムハンマドの自治区だよね? 行くっていっても……」

『ふふ、安心してください。既に手配してありますから』


 アーラファミリーはムハンマド商会にとって、物資や情報をやり取りする相手の一つに過ぎなかった。しかしジェンティアが宝石眼についての話を出した瞬間、相手が目の色を変えて詳しく聞いてきたという。

 もちろんジェンティアは簡単にテオドールたちのことを話すなどということはしなかった。宝石眼所持者の存在とそれを集めている者がいるとだけ伝え……その情報の対価として、テオドールたちのアラブリア地区での調査許可を得たのだ。


「さすがジェンティですね」

『交渉は得意なんですよ、私。とにかくアラブリア地区の関所で私の名前を出してもらえばすぐに通してもらえると思います。ただ、その前にラハブ様に会ってほしいとのことでした』

「ラハブ? 誰だそれ」


 テオドールは怪訝な顔をする。ムハンマド家の現当主の名前だろうか。


『ラハブ様はムハンマド家の初代当主の生まれ変わりだとかなんとかで、今の当主とは別に存在する方らしいんです』

「生まれ変わり?」


 また訝しげに聞き返すテオドールに、ニコラウスが「死んじゃった人が別の人間としてもう一度生まれ直すことだよ」と説明した。旧文明時代のヒノモト地区で信じられていた考え方らしい。


「信じらんねえな、死んじまった人間がそんな……」

「でも俺はわかるな、そう考えたくなるんだよ。大事な人が死んじゃったら、どんな形であれまた会いたいって思うんじゃない?」


 ニコラウスの言葉に、テオドールは義父を思い出した。優しかった義父。エドゥアルトと同じように自分を扱ってくれた、事故で死んだ義父も、今ごろどこかで別の人間として生を受けているのだろうか。


『きっとそういう思いから生まれたんでしょうね。でももっと大事なのは、彼らが今のラハブ様を初代当主の生まれ変わりとした根拠です』

「根拠? 体の特徴が似ていたとか?」

『ええ。……初代当主は炎のような深紅の瞳の持ち主で、その瞳はムハンマドに仇なす者全てを焼き尽くすとされていたらしいです。そして今のラハブ様もその瞳の持ち主であると』

「炎のような、深紅の瞳」


 残る宝石眼の色は赤と金だ。可能性は無いこともない、とテオドールは考えた。とはいえ初代当主が同じ瞳を持っていたのだとしたら、テオドールたちの前にも魔女に呪われた存在がいるということになる。

 ニコラウスと話した時、テオドールは宝石眼所持者が厄災の「生贄」となる可能性に気づいた。過去に厄災は何度か起こっている。それらの厄災にも生贄がいたとすれば、テオドールたちの前に呪われた存在がいても何らおかしくはない。ただ、呪いの力の源であろう魔宝石が魔女の手に渡ったのは現状最後である厄災の時であるはずだ。そこだけは腑に落ちなかった。ラハブという人間に会えば、何かわかるかもしれない。


『ムハンマド商会の方はその他に紫色の瞳と青色の瞳、金色の瞳の持ち主を探していました。もしかしたら宝石眼のことかもしれません。もちろん彼らはロルバッハと違い利用目的で探しているわけではありません。詳しくは教えてもらえませんでしたが、危害を加える意思は無いというのは確かでした』

「なるほどね、ラハブ様か……グラナートかもしれない。そうじゃなかったとしても何か関係はあるはずだよ」

「ああ。ジェンティ、ありがとう。アラブリアに行ってみるよ」

『ええ、でしたら護衛をつけましょう。ムハンマド家は商人にとって大切なもの、契約と対価を重んじているので信用していないわけではありませんが、万が一前回のロルバッハのようなことがあったらいけませんから』


 私は行けないので残念ですが、とジェンティアは付け加える。

 現在ネイプルでは黒マフィアの動きが目立っているらしく、ジェンティアたち白マフィアはその処理に忙しいらしい。特にアーラファミリーは白マフィアの中でも力を持っており、ジェンティアはその指導者の一人だ。現地を離れることはできない。


『それもロルバッハ家が関わっているかもしれなくて。ほら、テレーノを尋問したときにロルバッハ家がテレーノ以外にも宝石眼所持者を捕まえろという指示をしていたことがわかったんです。そういう黒マフィアが宝石眼所持者を探し出すって名目で好き勝手やってるみたいで。全くこっちのことも考えてほしいものですよね』

「もう一地区を混乱させた罪で爵位剥奪しても良いのでは?」

『まったくです。とはいえ四大公爵家に直接手出しはできませんからね、まずは黒マフィアどもを潰して、証拠集めです。それで皆さんはいつごろ出発しますか?』


 エドゥアルトの話によればヴァイスヴァルトの家の調査はまだしばらくかかりそうだ。そうなると、先にアラブリアに行っておいたほうが良いかもしれない。それこそ、いつロルバッハ家がアラブリアにまで勢力を広げるかわからないのだから。


「すぐにでも行こう。義兄上には伝えておく」

『わかりました。ではこちらも準備がありますので、二日後にプレンシアの駅で護衛の者と合流してもらってもいいですか?』

「おう、二日後だな」

『はい!』


 そうして、ジェンティアの声は聞こえなくなった。

 思いもよらずアラブリアでの調査が可能になったことにテオドールは驚きを隠せないでいたが、それは幸運なことだった。とにかくまずはエドゥアルトにアラブリアへ向かう旨を伝えなくては。

 アラブリアには、テオドールたちの知らない手がかりがあるかもしれない。少なくともムハンマド商会が宝石眼に対応する色の瞳の持ち主を探している以上、互いに有益な情報を交換できるだろう。

 そしてもしもグラナートの所持者に会えれば、それはテオドールたちにとって一番良いことだ。これで四人のうち三人が揃うのだから。最初の目的である「宝石眼所持者を全員集める」が達成できて……魔女に挑むことができるかもしれない。


「よし、まずは義兄上に報告だな」


 テオドールは期待に満ちた気分で、エドゥアルトのところに向かうことにした。

読んでくださってありがとうございます!


ニコラウスさん、動機がしっかり私情で面白い男です。そして義兄上が協力してくれることで行動範囲がかなり広まりました……! 引き続き見守っていただけると嬉しいです!


また、この度新作品『君とこの世界に黎明を』も公開いたしましたのでこちらも何卒よろしくお願いいたします!

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