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お客様を無事に帰国させよ!! 異世界ツアーコンダクター かがやまちの場合  作者: 家具付


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9/9

すったもんだはあれやこれ

世界各国に突如として現れたのは、地球とは異なった土地に通じる”門”であった。世界各国は”門”の向こうの世界と交流を行い始め、そしてそれは日本でも同じ事が言えたのだ。そして世界的に現在、”門”の向こうへの旅行が一大ブームを巻き起こし、私ことかがやまちは、異世界専門添乗員として、とある小さな旅行会社で働いているのである……

異世界という物を私はなめてかかっていた部分が多分あった。

なめていたなんて言いたくは無いが、そんなきてれつな事は起きないだろうと予測してしまったが、私の敗因の一つだったに違いなかったのだ。


……そう、まさか地球と”門”でつながった異世界というものが、地球の何と軽く二十倍の大きさを誇る惑星で、地球二十個分の文明が存在していて、私がしていた乙ゲー対策本部が飛んでいた異世界全てが、その星だけで収まっていたなんて、本当に信じたくないけれど真実だったのだ。

その惑星の大きさを聞いて正直に言うと納得した。そりゃ神様がそれだけいっぱい居るはずだ。日本だけでも八百万と言われるほどの神様が存在しているのだし、地球の二十倍の面積の惑星だったら、その二十倍以上の神様が存在していて、あれこれと行っていてもおかしくない。

そう、私が所属していた、崩壊する異世界を救う仕事というのは、大きな惑星の一部地域をなんとか破綻させないようにするという事だったのだ。

それでも相当に頑張ったのは間違いないし、命がけだった部分を否定されたくはない。

だがしかし。そんな惑星だったとは思いもしなかった私は、あの運命の日、やっと企画担当が契約に成功しそうだった中級クラスのホテルを、実際に確認するために企画担当と一緒にこのワルドにやってきて……企画担当の男性と一緒に、ホテルの部屋の一つをチェックするつもりで宿泊した。やましいところは一切無い。なんで相部屋だったのかと言うと、一人一部屋で泊まった場合に、何かしらの不測の事態が起きて合流できなくなる、と言う事を避けるためだった。幸旅は私が来る前の異世界旅行で、添乗員が一人部屋だった事から起きた強姦未遂事件を、とても警戒していたのだ。

普通に警戒する中身だから、私もおかしいとは思わない。……偶然、その未遂事件が未遂で終わる事に関与できたのは私だ。






あの時は、アメニティの事で泣いている若い女の子が、一人で暗い廊下を歩けないと、私の部屋の扉を叩いて泣きついてきたから……隣の部屋だったんだ……一緒に添乗員さんの泊まる、一番そのホテルのランクの低い一階の部屋に行ったのだ。

そこの扉は鍵開けの技術で開けられていて、何も深く考えなかった私達が見たのは、抑え込まれて間一髪の添乗員さん。猿ぐつわをはめられて涙涙で、一瞬で危機アラートが頭の中で鳴り響くレベルだった。

私はその時何をしたか。

大きく息を吸い込み、怒鳴ったのだ。


「やーだー!! 意気地無しが夜這いを仕掛けているわ!! 皆来てー、意気地無しの粗チンのわいせつ物陳列を見ましょうよー!」


……おわかりだろうか。私は瞬時に襲っている男達が、やべー変態だと思う台詞で吼えたのだ。

添乗員さんが目を見開いていたが、私はにっこにこと近付いて、粗チンをぶら下げている連中を見て、手を広げて口元に当てて、きゃーとわざとらしく叫び、こうも言ったのである。


「やーだー!! お兄さん達、地球の人達のこどもより小さい! やーねーそんなもの自慢げにぶら下げちゃって!! ちょっと赤ちゃんの時からやり直してよ! そんなちんまりしたのでお姉さんの事、気持ちよくさせられるってわけないじゃない!」


この大声の芝居を聞いて、がやがやとやってきたのは……ホテルに併設されていた、深夜営業の酒場で面白い事を探していた、お客さん達だった。

そしてお客さん達の方が、異常事態だって気付いた様な対応で、私に向かって突っ込んだのだ。


「おちびちゃん! これは警邏が来る大事件だ! その変態集団から離れなさい!」


「お前ら! 寝込みの女性を大勢で襲うなんてなんて事をしているんだ!」


「ホテルが当局に睨まれて営業停止になったら、あたし達はどこでお酒を楽しめば良いのよ! もうちょっと考えて行動しなさいよ!」


私は騒ぎになったそのすきに、添乗員さんを救助し、猿ぐつわを外し、彼女を抱きしめ、こう言った。


「これでもう大丈夫です。これだけ人が集まっていれば、あの連中もただじゃすみません。……変な芝居をしてすみません」


「添乗員さん、大丈夫ですか!! お姉さん、一緒に添乗員さんも部屋に行きましょう!」


アメニティの不具合をすっかり忘れた女の子は、泣きじゃくる添乗員さんの背中を撫でてそう提案し、私達は三人で一つの部屋に泊まり……翌朝ホテルの関係者がひたすらに謝ってきたのだ。

なんでもホテルの方の異世界観光宿泊客リストが、第三者に見られて、添乗員さんがセキュリティの低い、侵入の簡単な一階に宿泊する事を知られた結果、あの未遂事件が起きたのだという。

これを聞いて、やっぱりそう言う観光の経験が無い異世界では、ありがちな事の一つであったのだなと私は実感した。






さて、そういう未遂事件が起きた事から、確認のために現地入りする際には、女性だけで寝泊まりはさせられないという方針になったのである。

そして、既婚者が仕事とは言え異性と、相部屋になるのは非常に配偶者の方に対して申し訳ないと言う事から、現地入りは独身のみと会社の方針で決定し、未遂事件の際にとても冷静に、相手が刃物などを使う前に無力化した私が、情熱と好奇心ごりっごりな企画担当の男性と相部屋になったわけである。

その際には、ツアー客の皆様を泊める、ホテルの上位ランク、つまりスイートルームに宿泊した。ホテルの人達にもしっかりと、そこに泊まる趣旨を説明し、確かに現地慣れしていない人達を泊めるなら、スイートルームくらい色々しっかりした部屋の方が、お互いのためだと理解を得られた。値段はまとめて泊まる事でちょっと値下げ気味で出来ると、話し合いの際にも匂わせられたので、私達は徹底的にあら探しをした。安全にお客様を泊めるためのあら探しなので許して欲しい。

そしてこれくらいなら、問題は無いだろうと企画担当と意見を一致させた私はその日、ちゃんと別々の寝台で寝て……刺す虫も居なかったから合格……スイートルームを出て、階段を降りて、フロントに向かったのだ。

向かって、そして、ホテルのオーナーである人とにこやかに商談を開始する予定だった。


「異世界からの面白い企画という事で、このワルド諸島を統治する総督も、この商談をお聞きになりたいとの事ですので、同席してもかまいませんか?」


「もちろんです、私達のツアー旅行の良さを、是非総督にもお話しさせてください! きっと総督も面白いと思っていただけます!」


オーナーがにこやかに企画担当に提案し、企画担当は異世界での強力なコネが手に入るチャンスと身を乗り出し、私はとりあえずやばくならなければ良いと思って頷いた。

ホテルの応接室で待っていた男を見て、逃げようと考えたくなったわけだったが。


「は?」


「あ?」


応接室で、誰よりもえらそうに座っていた男を見て、私は背中を向けて逃げだそうとした。企画担当の事を忘れかけたくらいで、相手は隻眼を見開いていた。そして立ち上がり、うっかり企画担当の背後に隠れそうになった私に、ずかずかと近付いて、やおら手を伸ばして私の顎をひっつかみ……


「つくづくお前は運のない女だなァ? 千里眼。それとも俺の豪運が極まっているだけか?」


ひっつかんで、当たり前にする事のように私に一瞬深いキスなんかをしやがり、私は顎の手を振り払い、もうやべえ、ダメだ逃げるが勝ちだと踵を返しかけ……企画担当に叫ばれたのだ。


「あなたがどっか行ったら、俺どうやって安全に夜をこの土地で過ごせば良いんですか! 無責任な事しようなんて考えないでください!!」


これのせいで私は逃げ遅れた。企画担当ががっちりと私の手を掴んだせいでもある。

そして総督は企画担当をちらりと見て問いかけた。


「おい、お前、千里眼の何だ?」


「彼女の事でしょうか? はい、仕事仲間です! はい、私はこのような身の上の者です! お初お目にかかります総督! お会いできてとてもうれしく思っております! この度は私どものパッケージツアーの概要その他も是非ともお聞きください!!」


「あれは?」


「彼女は異世界でも絶対に安全に帰還できると言う事で、同伴してもらった添乗員予定の者です! ええと、総督閣下とお知り合いでしたか? どこでお会いに……?」


「俺の女だ」


「……はあ!? 聞いてない、聞いてないぞ!! そんな大きなコネどうして黙ってんだあほーーーー!!」


「こいつがいるなんて思ってなかったんだよちくしょーーー!!」


この叫び声を聞いて、総督が爆笑し、……結果。


「こいつを泊めるならこのランクは気に入らねえ。こっちにしろ。紹介状は書いてやる」


「これは二の島最高の設備のホテル!! でもツアー予算的には収まらないです……」


「俺の持ち物だ。泊める値段は俺が好きに出来る。幅くらいは聞いてやるぜ?」


「はい、これです!!」


「じゃあ間を取ってこれくらいだな。そっちの物価の動きで多少上下できるようにしておくぜ」


「ありがとうございます!! 添乗員さん、これでお客様が最高の思い出を作れるぞ!!」


「アハハハハ……」


という事で、破格の金額でシンズホテルのスイートルームにお客様も添乗員も宿泊できる事になり。


「ツアー内容を見せてもらったぜ、なかなか面白いルートを行くな。だがここに入るならこれを見た方が異世界って事で面白いだろう」


「最初の企画案の時はそうでしたが、それを見るための許可証を手に入れる事が叶わなかったんです」


「ふうん。……だったらこのルートなら俺の伝手で話を通してやれるぜ?」


「いいんですか!!!! 最初の案よりも素晴らしい見学ツアーに!!」


「そのかわり、それが出来るのはそいつが来る時だけだからな?」


「上に掛け合わさせていただきます!!! すばらしすぎる!! 現在形でどこの旅行会社も出来ない最高の見学ツアーになります!!」


「モウカンベンシテ」


私はにっこにこの笑顔で、総督の膝の上に座るように企画担当に言われ、断ったら企画担当の首が物理でなくなる可能性から従い、終始機嫌の良い総督が、破格の提案をしてくれる事に、むせび泣くほど喜ぶ企画担当と一緒にツアー内容を作り替えてしまい……精神的にとても疲弊した状態で、ツアーの契約を完成させるに至ったのである。

そのために何度も現地入りしたんだが……絶対に私同伴だったので、私の精神はゴリゴリと削られた。添乗員がどうして接待に近い事を……と思いつつ、来ないと総督の機嫌を損ねると言う、会社的に社運のかかったパッケージツアー作成に不都合な事が起きるため、社長に


「特別ボーナスはずむから!! 頼む!!」


と拝み倒され、とっても頑張ったのであった。


総督……キャプテン・シンは何度も私に、夜の誘いというものを持ちかけてきた男だが、私はそれに乗ったら”門”に入るための時間を逃す可能性が高いと、実体験で知っていたから、全部断っていたのだ。

乙ゲー対策本部に居た頃、キャプテン・シンと一晩を過ごすと大体半日以上体力を消耗した結果動けなくなっていた事が、理由である。その半日の間に”門”で帰るための申請書が時間切れになってしまう。

企画のためにワルドに来ていた私は、つめっつめのスケジュールだったので、余裕はなかったから、あらゆる誘いを断ってきたのである。

キャプテン・シンは、私が手元にちょくちょく来るようになった事で、あれこれと使いの人をよこすようになったが……使いの人がこっそり言っていた。


「シン様の機嫌がここのところとても落ち着いていらして……恋人に二度と会えないわけじゃないって、すごいんですねえ……」


と。


そんなあれこれすったもんだがあったから、この、他の会社を凌駕する上等な内容で格安のパッケージツアーが出来上がったのである。


そして現在。上機嫌の男をみやった私は、そうか、誕生日だから、子供じゃなくてもお祝いの何かが欲しいのか、と合点した。

……彼には非常に融通を利かせてもらっている。恋人でも何でも無い、ただ気に入っているだけのちびだったはずの私が、居ると言う事で。

会社的にとてもうはうは、彼が動いた事で更にツアー内容を増やせるかもしれない程度に、他の領主から誘いの手紙も来ると言う好循環。

上等な菓子折の世界だけれど……そんなのをこの男は好まない。この男が欲しいのは、多分。


「……二ヶ月の間に、有給とってこっちに来るから」


私は男の耳元でぼそりと言った。最大の譲歩である。そもそも私はこの男が死ぬほど嫌いな仇敵というわけじゃない。どっちかというと好ましい側に振れる相手だから、まあ、有給取って個人的に会いに来てやってもいい。誕生日プレゼントは大盤振る舞いでいいだろう。

しかし。


「……来なかったら、添乗員でもさらっちまうぞ?」


耳元で笑うように囁かれ……あ、逃げる道を塞いじまった、と自分に対して殴りたくなったのであった。

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