表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
240/242

【源頼光】アンドヴァラナウト

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「はは……まったく、虎熊と初めて闘った時の事を思い出すわ」


 うまいこと草木の中に隠れることが出来た私は、薄く積もった雪の中に光を放つ緋緋色金ヒヒイロカネの靴底を隠して息をひそめた。


 幸いなことに金熊童子は気配を探るのは苦手みたいで、キョロキョロと視線を動かして私の事を探してる様子。てか、普通に空飛んでるんだけどなんなの?


 さて……月明かりがあるとはいえ、周りには薪のひとつも無し。火車が点けた屋敷の青い火もすっかり勢いがなくなってる。そりゃ死体だけを燃やす聖炎とかなんとかいう、実在の火なわけじゃないから仕方ない。


 そうなるとこの緋緋色金はかなり目立つのよねえ……。さっきまで覆ってた布もボロボロに千切れちゃったし、いっそ服を脱いでそれに隠す? それか脱いで衣嚢いのうの中に仕舞っちゃうか。


 でもそうしたら全力で走った途端、足の裏がずるむけになるし、冬の夜中に裸で長時間いたら凍死しかねないのがなあ……。


 可能性を探るなら、さっき足裏で受け止めようとしたときに、動きを止めたところかしら。その理由が分かれば――――……。


「………………やば」


 うん、可能性を探ろうとした結果、頭に浮かんだひとつ目が多分答え。いや、アレが金属気違いって言うなら、まず間違いないっていう自信がある。


 何のことはない、金熊童子の持つ斧は緋緋色金製。達人が刀を振るえば、同じ素材でできた相手の刀を真っ二つにできるように、金熊童子ならその斧で私の足裏の緋緋色金を破壊する自信があったに違いない。


「欲しがってるものを壊すなんて笑い話にもならないからねえ……いつもみたいに受け止めるのは無しってのを、直感で分かってたってことかしらね」


 普段なら初手で試しそうな相手の攻撃を受け止める行動だけど、頼親みたいにそれが通じない相手がいるってのを勘が覚えてたらしい。


「ともかく、今は1手でもいいから打てる手を増やすのが良いわね」


 あと私の手札にあるのは万里起雲煙くらいか。土蜘蛛たちの改造で大分使い勝手が変わってるけど、火球を打ち出せるのなら目くらましくらいにはなるかもしれない。


 虎熊から耳が良いとは聞いてるから、金熊童子に気づかれないように様子を見ながらゆっくり衣嚢の留め金を外す中、視線の先の金熊童子が右腕を挙げた。


『物質を黄金に変える腕(アンドヴァラナウト)輪』


「は?」


 何かを呟き、腕輪が光ったと思った次の瞬間に周囲の世界が一変した。


 地面に薄く積もった雪、葉の落ちた木、冬であっても青々とした葉を茂らす身を隠してる低木。その全てが冷たい光を放つ鉱石――――陸奥にいた時、川の底を攫って取った黄金へと変わった。


『見ぃつけたあああああああああああ!!!!』


「!?」


 慌てて金に替わった地面から足を抜いて横薙ぎされた斧をかがんで躱し、追撃に繰り出された尻尾による1撃を跳んで躱す!


 参った。完全に機を逸したわね……キラキラと月明かりに照らされたこの場所じゃ、光ってないこの体は目立って仕方ないし、2度と目を離すまいとこっちを捉えて離さない金熊童子の左目から、再び逃げるのは難しい。


 せめて万里起雲煙さえ取りだせてれば……いや、この嵐の中だと耐久性にかなり疑問があるし、取り出せてなくて良かったかな。それでもこの黄金の世界、動くのが私ひとりなのは冬のせいか、それとも私以外の生き物も黄金になっちゃってるのか。


「せめて、穢物けがれものの、1匹でも、いてくれたらなあ!!」


『はは! 神でなく化け物に祈るか!! 変わった奴だ!!!!』


 愉快そうに笑う金熊童子だけど、その目だけは全く笑ってない。絶対に逃がさない、その強烈な決意だけが私の体に伝わってきて全身を震わせる。


 流れを変えるために必要な貴重すぎる時間を無駄にしたことが、私の焦りを増幅させていく。


 疲れと後悔――そのふたつが私の心をへし折ろうというのを、何とか踏ん張って金熊童子に負けないくらいの眼力で睨み返すけど、コイツには何の効果も無し。もともと取るに足らない相手と思ってたんだっけかこんにゃろう。


「陸奥守まであと1歩のとこまで来てるんだ、殺されてたまるかっての!!」


『だからソイツさえ置いていけばそれでいいって言ってんだがなあ!? 言葉が伝わらねえなら、殺して奪い取るしかないだけよ!!』


 せめて気迫だけでは負けまいと腹の底から叫んだ声は、こだまとなって大江山を駆け巡った。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【金熊童子】――大江山の客人。強欲のドラゴン。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。

【衣嚢】――ポケット。

【万里起雲煙】――杖の形をした宝貝。杖先から高熱を発する。一度壊れたものを土蜘蛛が直した結果、火球が飛び出す様になっている。

【物質を黄金に変える腕(アンドヴァラナウト)輪】――金熊童子の持つ腕輪。視界内にあるものを黄金に変える光を放つ。生物には効かず、生物が身に着けている物も生物の一部とみなされ効果が及ばない。ただし、腕輪を付けた手で直接触ってる場合は、生物が身に着けているものにも効果がある。

*【穢物けがれもの】――穢を浴びて変質した生物。俗に言うところのモンスター。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ