第99話 爆発の怒号
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「よし、やっと見つけた4匹目ぇ~! 先手必勝!!!『風読み―――。』」
線を引くようになぞる様に―――最短で最速の剣の動き。
流石にコアのある鳩尾の裏、背中の頂点を突くことは無理であったが、巨大な赤蠍の最も厄介な攻撃手段、毒液を纏った尻尾が千切れる。
「エヴァ――ぐっじょぶ! はっ!!」
脇腹を切り、複数ある足の幾つかを関節から切り落とすフリージア。
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1匹目を倒してからというもの、入口付近のモンスターはめっきり出現しなくなっており、彼女達は自分達で決めた「これ以上は進まない」ラインまで、索敵を進めていたのだが、3匹目を倒してから、かれこれ1時間はこの辺りを彷徨っている。
そして、やっと見つけた4匹目。
彼女達のテンションとやる気はマックスであった―――。
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「マーガレットさん、頭を下げましたので起き上がり胸を大きく開いてカニ爪で攻撃します。その瞬間に鳩尾を狙いましょう。」
「了解ですわ!」
3匹目との戦いで、既に『ジャイアントレッドスコーピオン』の癖を見抜いているリンデンの指示に合わせ、マーガレットとリンデンが遠距離から弱点の鳩尾にあるコアを狙う。
『―――剛弓!!!』 「えいっ!」
マーガレットの矢が『ジャイアントレッドスコーピオン』の胸元に強襲し、追い打ちとばかりにリンデンの「普通」のスティングが重なり刺さる。
「すみません。止めを刺しきれませんでした。エヴァさん!」
リンデンは倒しきれなかったことを謝罪しながらエヴァに止めを任せる。
「了解だよー!! ラスト。『影縫い―——ッ!!』」
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よろけた蠍の逆側に居たエヴァが、影を伝わり反対側に移動と同時に、矢とスティングの刺さった部分に、止めの一撃をお見舞いしエヴァが「よし!」と思った……
その時―――!!!
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―——『ズガンッ!』と砂漠の奥で、響く大きな爆音とともに、砂煙が立ち上がる!
「え!? 何????」
天を仰ぐように体を硬直させ、そのまま泡と化す4匹目の『ジャイアントレッドスコーピオン』を尻目に、その砂煙の方を見るエヴァ。
そして、音を追いかけるように揺れる砂漠—————。
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エヴァの妖精『もも』が4匹目の赤蠍が落としたアイテムを『2つ』拾い上げ仕舞うと、ピュ―—ッとエヴァの所まで飛んできて肩にぎゅっと捕まる。
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轟く爆音は、ギルドのコテージににも響く。
「え? 爆発音?」
ギルドに潜入している『三つ葉』のローズヒップがコテージを飛び出す。
(これは……移動の時間の差? フィオレさん達が間に合わなかった?)
「何が起きている? 受験している迷宮探索家は大丈夫か!」
セビオが、急いでいるようにそそくさと外に出てくるが、顔も、体の動きも、至って冷静なことが傍目からも伺える。
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(ちっ、これ『爆弾ワームの破裂殻』の爆破よね? 『風耳』のじいさんに詳細はあの場では聞けなかったもんな……。そう簡単にフィオレさんがしくじるとは思えないのだけど……。)
「ど、どうしますぅ~セビオさぁん?」
少し甘えた猫なで声をセビオに向けるローズヒップに、セビオは「出来る男」のようにキリリとした顔を返す。
「今のところ、ここまで辿り着いているのは、半数以下だよね? 今から到着した者はここに待機させるんだ。」
「そ……そうですね。では、今砂漠に出ている方々はどうします?」
(そんな、当たり前のことでドヤられてもね……。
でも、砂漠に出ている人達に対して、この人はどんな手を打つのかしら?)
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「僕が行こう!」
「はぃ?」
「僕もギルド職員だよ? それなりに強いんだ。」
「ま……まぁ、すごい。(棒読み)」
「そ、それでなんだが……ローズ君! いっ……『一緒に』砂漠へ行かないか!?」
「あぁ?」
「え?」
「あ……いえ! わたしなんかで~役に立つのですかぁ?」
「実は、こんな時のために『爆弾ワームの破裂殻』を用意しているんだ。」
(ほう……。)
「僕は男の子だからね! モンスターを前線で抑えるよ!
だから君は『爆弾ワームの破裂殻』を使って、サポートして欲しいんだ!」
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(それは好都合ね……。)ボソリッ
ローズヒップは一瞬 ”本職 ” の氷が尖ったような冷酷な目となり、ボソリと呟く。
「ん?」
「いえ、わかりました! 先着した人達が心配ですものね。セビオさ~ん、頼りにしていますよぉ~。」
「あはははは! 任せておきたまえ!
僕と君との ”共同作業” なら、このピンチも必ず乗り越えられるはずだよ! 」
(はぁ、キモ……。でも、この関係が狙いだし……それに私を誘う狙いは恐らく?)
彼女を、あからさまに女性として意識しているセビオの誘い。
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それはきっと、彼女に良いところを見せて、今晩の床を共にしたいという傲慢な欲求、加えて、『爆弾ワームの破裂殻』を使用させ、在庫不足の帳尻を合わせたい、そんな思惑が透けて見える。
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(それに、彼ならば、私に惚れていようといまいと、この事態での責任を……。
最悪、《《私に擦り付ければいい》》……そこまで考えているでしょうね。)
彼の、馬鹿で愚かで浅墓ではあるが、自分にかかる火の粉を払うことと、逃げ道を確保することに長けたその『強かさ』を、ローズヒップはこの役割の中で、嫌というほど感じて来ている。
(だからこそ、疑われていない……。
いや、都合の良い女として、部下として、彼は私を《《見下して》》いるはず。)
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そう自負しているローズヒップは、この非常事態にスキップをしてコテージに入っていく哀れなセビオを、《《逆に見下し》》ながら見送り、
「悪意たっぷりで、無邪気に、搔き乱して差し上げますね。先輩 ♪」
と、思いっきり作り込んだ、幼い子供のような笑みをニコリと浮かべる。




