第97話 試験✿の妥当性と『懸念』
全長3mはある巨大な赤い蠍『ジャイアントレッドスコーピオン』。
獰猛で肉食な砂漠の赤い狩人が、フリージアの倒した『砂リザ』の尻尾を ”ぱくり” と食べる。
「”かっちーん”。私が倒したトカゲの尻尾を食べた。」
フリージアの眉間にどんどんとしわが増えていく。
「本当だよ! 尻尾美味しそうだもんね。」
「え?」「は?」「へ?」
エヴァの「美味しそう」に一同が首を傾ける。
「ふぇ? 焼いたら美味しそうじゃんかぁー。」
眉を八の字にして口を尖らせながらエヴァであったが、『花』ルーンのお守りを手にして、しっかりと仕事をする。
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隠頭花序の隠れ花の如く、示す者の活力を内より活性せよッ―――
―― ✿『花』魔法 ガジュマルの花 ×3
タリスマンを握るエヴァの左手から、螺旋状に回る「緑」と「オレンジ」の光が放出され、一度地面潜ると3人娘の足元から2色の螺旋現れて彼女達を包む。
「リンデンはごめんだけど、助言よろしく!」
「僕は観察しながら他のモンスターを警戒するので大丈夫です。」
うん! と、お互いに顔を合わせ頷く新旧記録係。
「フリージアさん、尻尾の毒はエヴァさんの『花』魔法が8割なら毒が勝つかもしれません。気を付けてください。」
「おーけー!」
フリージアは、素早くひとつ息を吐き、名刀「月下小町白雪」を鞘からカチリと数センチだけ出して構える。
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―――シーシイイ、シイイイイイイイャ。
尻尾を震わせて威嚇をしてくる『ジャイアントレッドスコーピオン』に対して、正面にフリージア、その右後ろにエヴァが対峙する。
エヴァの後方にはマーガレットが『月のロングボウ』左手に、右手は背中、『蓄積の矢筒』にある矢を数本指に絡ませタイミングを伺う。
そして、リンデンは槍から棒手裏剣のようなスティングに武器を変え、集中を高めていく。
◇
『キュッー!』
―――開戦の合図。
それは、砂にコッソリと潜り込んでいた『砂リザ』を、リンデンがスティングで射抜いたその断末魔―――。
幾本もの脚に力を貯めていた『ジャイアントレッドスコーピオン』が、その刹那フリージアに飛び込んでくる。
―――ユラ~リッ
特有のゆっくりとした足運びで、先を見据えていたフリージアが右のカニ爪を見切るように左に一歩半舞い、鞘から刀を抜き左側のカニ爪の関節に向かって斬り付ける。
―――――!?
『ジャイアントレッドスコーピオン』が自分の右手を「おや?」という表情で見ると、ぬるりとカニ爪が滑り落ちる。
「!?」
後方にバックステップで逃げる『ジャイアントレッドスコーピオン』であったが、そこをマーガレットが見逃さない!!!
「そこは流石に予測の範囲ですわよ? ―――ダブルシャイニングアロー!」
後ろに飛んだ着地点にマーガレットが素早く強い矢を2連発で放つと、向かって左の肩付近に被弾し、右側に体が弾け飛ぶ!!
「よーし! えい!」
ランドブルの片手剣に力を込めて、エヴァが追撃をかける。
腹を切られ、緑色の体液が飛び散る赤色の巨大蠍に、
『とどおめええええええええ――――っ!』
フリージアの刀が『ジャイアントレッドスコーピオン』の首をサクリッと落とす。
「うん。「月下小町白雪」いいね!」
フリージアは自分の名刀を見てニッコリ―――するが、『ジャイアントレッドスコーピオン』は最後の足掻きと尻尾で刺突してくる!
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「ほえぇー、首切られたのに攻撃して来たー。調べた通りだねー。」
「ほんと!」
フリージアは、エヴァと談笑をしながら毒液が飛び散る尻尾をひらりと躱し、人でいう鳩尾の裏辺りであろうか、刀をサクッっと突きさす。
―――ビクゥッッッ!!!!!
一度大きく体を『ジャイアントレッドスコーピオン』は震わせ、光の泡と化す。
ボトリ。
赤色の蠍の尻尾が、砂漠の柔らかい砂に静かに落ちる。
◇
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「ありゃ? これを4匹倒せばいいだけなのかな?」
蠍の尻尾を『もも』に渡して、エヴァが首をかしげる。
「思ったより……。」
「えぇ、手応えがありませんわねぇ。」
ふたりの娘も少し不満そうにぶーぶー言っているが、リンデンは遠方で必死に戦っている2組の迷宮探索家チームを見て苦笑いをする。
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「いえ……皆さん。あっちの戦いが、E級迷宮探索家と『ジャイアントレッドスコーピオン』の戦いとしては普通ですからね?」
肩で息をしながら、毒を受けた迷宮探索家に毒消しと回復を施す仲間達、カニ爪と足を数本失い、必死に尻尾で音を出し威嚇する巨大な赤い蠍。
幾らセビオが裏で手を回しているとは言え、倒すのが無謀なモンスターをターゲットに出来る訳でもなく、かといって、誰でも倒せる相手を選ぶこともない。
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これが普通で、あるべき試験の姿であるのだと、戦っている方に指を刺し、エヴァ達に説明をするリンデン。
「ふぇえええ、そうなんだねぇー!『がんばれぇええ!!!』」
戦っている迷宮探索家にも聞こえるくらいの大きな声で、応援をしだすエヴァ達。
たまたまであろうが、その声援に応じるかのように一番奮闘をしている魔術師が、水魔法を蠍にお見舞いする。
それが、必勝の一手となったのであろうか?
硬直する体に全身から焦りが見えるモンスターを何とか倒しきる迷宮探索家達。
『おー! おーおー!』
ぱちぱちぱちぱち―――。
導きの妖精と、興奮しながら拍手を送る3人娘。
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「ちゃんと『水』が弱点だと知っていましたわね。あの方々。」
「流石ランカーと言うところ。」
「そうですね。皆さんが強すぎるのもありますが、特に今ここに来ている人達もちゃんとランカーですものね。」
少しだけだが、何かが起きた時に対処できないE級迷宮探索家達がいるのではないか。また、無駄な命が……と心配していたリンデンは、胸をなでおろす。
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しかし―――。
(やはり様子が変ですね。本で見る以上に『砂漠の入口付近』のモンスターが《《少な過ぎ》》ます。)
そのリンデンの懸念……実はエヴァ達も感じていたこと。
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その懸念は、エヴァ達が更に砂漠を進み人数分……4匹目となる最後の『ジャイアントレッドスコーピオン』と対峙している時に、『ギルドの黒い部分』が形となって受験者全員に襲い掛かる―――。




