第96話 『ラセール砂漠』✿と試験の参加者
暑い、そして本当に砂ばかりだ―――。
エヴァは馬車から降りて、ただ単純にそう思う。
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『花』魔法のスキル持ちとしてみれば、水が不足している『砂漠』という名のこの場所は、どうなのだろう?
少しだけ心配が過ぎるかもしれないが、地形の不利……。それを考えてしまうくらいには、彼女は迷宮探索家として成長をしていた。
そんなちょっとした不安も、『ラセール砂漠』入口付近、『南の町アサールム』から続く街道沿いに『ギルドのコテージ』を見つけると、一時、それを忘れてしまうのだが。
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「おー! リンデン、あれギルドのコテージだよね?」
「あ、そう……ですね。はい、そうです!」
「ん? どしたの?」
コテージを見て顔付が変わったリンデンにエヴァが聞く。
「あ、いえ。思った通りといいますか、『分かり易い場所』に設置されているのだなと思いまして。」
「あー、あの『意地悪クイズ』なら、もっと道から離れていてもおかしくないもんね!」
「え、あ、そ……そんなところです!」
(ふぇ? やっぱりリンデンの表情が硬いかな?)と、エヴァは思う。
マーガレットが指示を出し、馬車をギルドのコテージまで進ませると、
「こちらに馬車を置けるよう交渉してくるので、先に進んでください」
と、マーカスはマーガレットに一礼をして、悠々とギルドコテージに入っていく。
マーガレットは、マーカスを待つ御者に水分を分け与え、そして、エヴァ達は改めてギルドのコテージの位置を確認して、砂漠に向かって足を進める。
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「うわー、暑い! 広い! 砂ばっか! ザ・砂漠! テンション上がる。」
新調した刀を「カチンカチン」と鳴らしながらフリージアがはしゃぐ。
「さっそく行きますか!」
「だね!」
三人は当たり前のように『手』と『手』を取り合いニカッと笑う。
フリージアが『?』という顔をしているリンデンにも手を差し出す。
彼は、頬を赤らめ、もじもじとしながらも、彼女の手を掴む。
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「よーし! 行くよ~~!」
『せーのおおお! さばくうううう!!!』
彼女達は一緒にシンクロをして、砂漠の入口に一歩踏み出す。
「え? え?」と戸惑いタイミングは合わなかったが、同じく「一歩を踏み出した」リンデンも、『仲間!』という感情が胸をジーンとさせ、自然と笑顔となる。
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「どうやら、僕達より先に着いているのは10名……ですかね。」
「乗合馬車を待っている方も居ましたものね。」
砂漠の入口付近から見渡す範囲には、10名の迷宮探索家を見つけることが出来た。
既に『ジャイアントレッドスコーピオン』と応戦している迷宮探索家がいる。
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戦っているのは、別々の場所で4人パーティが2組。
残りの2名は、『単独』のようだ。
暑くてかわいそう! と、休んでもらっていた『もも』をエヴァは左手から出し、『ランカー』の彼らの情報を確認をする。
4人パーティの2組は、各々同じチームで構成されているのようで、それなりに息が合っていて問題なく『ジャイアントレッドスコーピオン』を倒せそうな感じだ。
―——残りの単独2名。
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その内1名は、E級ランク1位『シドニー・スカルゴン』と言うらしい。
黒い服にブレストメイルを着込み、大剣を装備しているスタイルであるが、遠目から見ても、何処とのなく「孤高の戦士」の雰囲気を醸し出している。
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もうひとりは、E級ランク7位『ニュー』。
革の服に肩当と胸当てを付け、片手剣と盾を装備しているスタンダードな剣士だが、何処となく光り輝くオーラを持っているように見える。
ふたりは別々にではあるが、『砂漠の奥』の方に向かっていく。
「あのふたりは、『ジャイアントレッドスコーピオン』が奥に行けば遭遇率が高くなると知っていそうですね。」
「黒いのが強そう。でも、もうひとりの雰囲気が不思議。」
「まぁ、あの人達はあの人達だよね。私達も『ジャイアントレッドスコーピオン』を探して試験をクリアしよー!」
「そうですわね! 楽しみましょう♪」
「『もも』、ここってマッピング出来る?」
エヴァが、導きの妖精の『もも』に聞くと、
『んー、むりー。まーがれとたち は わかるー!』
そういうと、①のエヴァから④のリンデンまでが映る暗転したビジョンを見せる。
「そっか、ならリンデンのノートの地図メモは大事だねー。」
「そうなりますね。
でも、コンパス機能は有効ですね。方位を気にしながら進んでみましょう。」
4人は、肩に各々の導きの妖精を乗せて、少しだけ砂漠の中心に向かっていく。
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5分程度歩いたところで、大き目な砂色のトカゲが現れる。
名前もそのまま、『砂リザ』。
特徴は砂を吐き、砂に隠れ、砂煙を上げ逃げるモンスター。
ただ面倒臭いのが、このモンスターは元気な時は好戦的なのだ。
早速、砂を吐いて攻撃をしてくる『砂リザ』であったが、彼女達には当たらない。
それを見た『砂リザ』は、砂吐きを止めて砂に紛れる。
「ちょっと試したいことがあるの。良い?」
エヴァが、刀を使って戦いたいばかりのフリージアにお願いをして、『花』ルーンのお守りを手にして、前衛に出る。
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花よ舞え、わたしと共に理を解き開けッ―――
―― ✿『花』魔法 アキノキリンソウ
エヴァの周りに、黄色い可愛らしい花が舞う。
舞った花々が、彼女の警戒心を高める。集中力が上がる。
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「ん。やっぱりここだと『花』魔法の効果がちょっと落ちるかもー。
でも―――!!!」
ランドブルの片手剣を抜き、「アキノキリンソウ」で上がった集中力で僅かな砂の動きを感じ、ジャンプ一番! 上から剣を突き付ける。
『キュッ』
短く小さな声を残して『砂リザ』が泡と化し、尻尾を落とす。
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「えっと、報告しておくね。どうも『お花達』は水が少ないこの場所だと、ちょっとだけ元気がないみたいなのね。効果も持続時間も8割くらい。後、数匹モンスターが居るよー。」
「なるほど、実際のお花に近いところがありそうですね。8割ですか……。」
リンデンは一歩後ろに下がり槍を取り出す。
「8割と分かっていれば、そのように立ち振舞えば良いだけ。問題ない。」
と、言いながらフリージアが、刀を持つとストストと10歩くらい歩き、刀一閃すると、砂に隠れていた『砂リザ』が泡と化す。
すると、残されたトカゲの尻尾を目掛けて、
―――ひと際大きく赤い尻尾を前面に立てた節足動物が砂丘から飛び出してくる。
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「まずは1匹目。『ジャイアントレッドスコーピオン』見つけましたわよ!」
全長3mはあるであろう、この試験のターゲットである巨大な蠍を目の当たりにして、4人は咄嗟に臨戦態勢を取り武器を向け構える。




