第82話 『賢者』✿と観察眼
『ランカー』―――。
世界樹の意思が、迷宮探索家の無謀な登頂を抑制するため等級制度を設けて以来、B級以下の者がより上の階層に挑むためには、等級を上げる必要がある。
そして、その等級を上げるためには、まず『各等級で100位』までに入らなければならないのである。
その等級100位以内の者を『ランカー』と呼び、ランカーは導きの妖精を通して順位と名前が公表されるのであるが、その公表制度が人の恐ろしい一面を助長することも……否めないのが現実であった。
リンデンは、この時点で『E級の87位』にランクインしたこととなる。
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それは、サーシャにとっても、世界樹からもたらされた驚きの報告であった。
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彼女も、まさかリンデンが先にランカーになるとは思っておらず、『エヴァ達の1000本ノック』が終わったら、リンデンをどうD級まで導くか―――と、日々クエストと過去のデータを見比べていたくらいだ。
―――あ、分かった。この子、キングラミアの止めを刺したのね。
リンデンの『観察眼』については、担当となって引き継いだ時点でサーシャは把握をしているし、彼の考察をする力は常に芯を突いていることは、娼館『華の蝶』での出来事で分かっている。
だから、『階層ボス』との戦いで、周りに認められさえすれば、彼が軍師のような立ち位置にいて、戦いを左右させることも決して驚くことではない。
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その戦いでの貢献と、キンググラミアへの止めを加味すれば……でも足りない?
(まぁ……考えてもよね。リンデン君もフリージアちゃんとここに向かってるから、詳しくはそこで聞こうー! 実は私も興味津々なのよね♪)
ふたりして、頬っぺたをぷっくりさせて、両手をぶんぶんと振っているエヴァとマーガレットのマシンガントークを軽くあしらいながら、サーシャは彼らが着くのを内心楽しみにしながら待つ。
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「しかし、フリージアの嬢ちゃんもあんなに驚かなくても……なぁ?」
ザコイチが笑いながらメイヤーに言う。
「きっとね……悔しかったのよ。彼女達もランカー目指しているからこそ『ラミアの1000本ノック』なんて無茶を受けたのだと思うし。」
「あー。でも、俺から言わせて貰えば、リンデンは、最速でこの階まで登って、今日まで俺と籠ってたんだぜ?」
「ボス戦も相当活躍したんだろ?」
「同じ新人の命を救って、戦いの指揮を任され、キングラミアの新しい弱点を発見して、偶然なのかもしれないが、止めはあいつが刺したんだ。戦果は相当だぜ?」
「んー、でもその戦いだけ聞かされてもねぇ……。それ以前の戦いはどうだったんだい?」
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「ん? 最初だけ俺が戦って、後は朝から晩まであいつが戦ってたぞ?」
「は? お前は何してたんだ?」
「俺はほら、道場の師範の如く彼を見守ってだな!」
「おいおい……あのカイトとの情事って相当高いだろ!って、まさか……。」
「俺は最初の戦いを見せてアドバイス、あいつが戦う。Win-Win、報酬折半!」
「あー……。」
「あいつ結構倒してたもんなー。な? E級なら余裕でランカーになれそうだろ?」
「なぁ……銀鉱石とか、難易度無謀の高く売れるアイテム採取も……それか?」
「Yes! マネー イズ ルール!」
「キモッ……。」
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ある意味、リンデンのランカーは『ザコイチの煩悩のお陰』と分かり、少しだけフリージアに同情してしまうメイヤー。
それでもそれは、彼と彼女達の問題であるし、メイヤーにとって『どっちが先にランカーになるか』なんて些細なことであったため、このことは忘れて、各レア素材の神経を使う最初の下処理を厳しい顔で処理し始める。
そのメイヤーの姿を見ながらザコイチは「それにな……きっと」と小さく呟いた。
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まさかのリンデン『ランク入り』の立役者が、まさかのザコイチパイセンで、ただただ煩悩によるお金稼ぎの結果であった―――。
と、サーシャとエヴァ達が知ったのは、リンデン達が『迷宮』ギルドに到着し、ご機嫌斜めの3人娘から、鬼の質問攻めを受けた後であった。
「なるほどね~。ザコイチさんのスパルタ……いや、欲望があったとしても、頑張ったわね。10日前と比べても体つきも顔つきも引き締まったもの。」
「あ……ありがとうございます。」
「で、やっぱり ”ラストアタック” はリンデン君だったのね。」
「はい、何となく弱点ががら空きで『槍で』刺したら泡に……。」
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「槍?」
フリージアの眉がピクリと動く。
「あ、ザコイチさんにモンスターに合わせて色々な武器を指示されまして、槍も使ってたのです。」
そのリンデンの言葉にフリージアが言葉を詰まらせる。
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求める次元が違うにせよ、彼女は『刀』を使うことにかなりナーバスだった。
だが、ナイフ・ダガーがメイン武器であるリンデンが、槍を使って『ボス』に止めを刺したのだ。
弱っていたとしても、スライムエリアで見たあのストレングスで、見よう見まねで倒せることは俄かに信じがたい。
「あー、それはリンデン君が商人で、小さな頃から様々な武器を扱って来たからで、え?……教えていないの?」
サーシャは、リンデンに驚いた顔で聞く。
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「最初だけご一緒して、そこからはお会いしていませんでしたので、情報交換はまだです……すみません。えーと、僕は生まれ持って『観察眼』のスキルを持っていて、幼い頃から自分の店の商品を扱っている内に……」
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「『全装備可能』―――。」
フリージアが目を閉じながら、自分を抑えるようにポツリと言う。
「え? ご存じでしたか。」
「御師様から聞いていただけ、御師様の仲間に同じスキル持ちが居た。」
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「あ……そうですか、おじさんが……。」
「やっぱり、『賢者リウム・ランスフォーム』。」
「え? あの賢者リウムが、リンデン君のおじさんなの?」
その名前にサーシャすらも驚く。
「んー。私は、この恰幅が『ランカー』一番乗りなの……悔しいけれど、すっごくむしゃくしゃするけど……『納得』してしまった。」
フリージアは、本当に悔しそうに、認めたくなさそうな顔をしてはいるが、「今日のスケルトンとの戦いで感じたこと」、「その見る目と適切な指摘」、「それによる安心感」……
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彼女が『アリアウルフ』から聞いていた賢者リウムの評価と、自分が感じたリンデンの印象が重なってしまい、彼を認めざる得なかったのだ。
その一方で、マーガレットは『え、賢者? 知ってましたわよ? それで?』という顔をしていて、エヴァは『賢者なんて「知らない人」はどーでもいいの!』と言いながら、ふたりして、
『ランカー! ずうー! るうー! いいいい!』ですわ~!」
と、相変わらず「ぷくー」と頬っぺたを膨らまして、笑顔で真似する『もも』と『カナリア』と、何故か『スノウ・ホワイト』も一緒に、手足をバタバタしていた。




