第78話 フリージアの『刀』合宿
自分が想定していない速さでE級迷宮探索家になったエヴァ達。
第10階層まで……あの悪名高いクエスト『ラミアの鱗1000本ノック』を受けながら、この短期間で辿り着いていて、昨日の自分達との再会。
加えて「再会後」に自分が中心となった『階層ボス』キングラミアとの遭遇。
そのタイミングを考えると……エヴァの『強運』―――世界樹の意思が、自分の運命に対して悪戯をしているかのようにリンデンは感じている。
と、言っても、これは、「彼女」について「星に願った」リンデンの思いを、自身で誤魔化す様に、『半分』はエヴァの強運に置き換えている面が強いのである。
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まぁ、簡単に言ってしまえば、明日、『彼女』―――フリージアと一緒に狩りに行ける喜びと期待に、今のリンデンは浮かれているのだ。
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宿に戻るとリンデンは、鼻の下を伸ばしたザコイチをベットから叩き起こし、「エヴァさん達のお手伝い」をすればカイトさんへの土産話になりますよと、彼に嗾ける。
「ままま…ままま……まかせておけ!!!」
昨日の何かを思い出しているのであろう……。
傍から見ても、お花が頭に咲いているザコイチの顔を見て、自分もそうではないかと宿に置かれている小さな鏡で自分を見るリンデン。
「さて、鉄鉱石か。ピッケルは持っていたよな?」
「はい。新人のミッションでは、採取も僕がすることが多かったですから。」
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顔を洗い髭を剃るザコイチを待ち、リンデンは第7階層へ向かう。
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「エヴァ、マーガレット。お前等は「ラミアの巣」に行ってこい。」
フリージアの身体の採寸をしながら、メイヤーがふたりに言う。
「わかったー! 今日はそのままラミアを狩ったら帰って、フリージアのお家にお泊りを伝えておくね~。」
「エヴァ、ありがとう。お願い。」
「了解~! じゃ行って来ます!」
「では、また明日。ごきげんよう。メイヤーさん、フリージアさんを宜しくお願いしますわね。」
「おう! フリージアは任せておけ。じゃ、明日な。」
そう言うと、フリージアを連れて工房に去っていくメイヤー。
エヴァとマーガレットも頭を下げて、武器屋を去る。
「そういえば、マーガレットとふたりなの、最初に出会ったとき以来だねー。」
「本当ですわねぇ! 折角なので楽しみますわよ!」
「うん! よーし、今日も集めるぞお!」
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最初に出会ったときの胸の高鳴りを少し思い出しながら、少女ふたりは第8階層の「ラミアの巣」に行くため、第10階層の『マザーの子』へ足を向ける。
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「それじゃ、俺はこの剣をお前の手と身体に調整するから、お前はこっちの刀型の木剣で案山子でも切っていてくれ。その前に―――。」
メイヤーが木刀を上段に構える。
そして、ジリジリと摺足で案山子との距離を縮めて息を吐く。
―――シャアアアッ!
足を引き、向かって案山子の左肩に袈裟切りをする。
そして、一歩踏み込んで喉元に突き一閃———。
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「俺も一応は、D級のランカーだ。参考になるかは別だが、刀の扱いは毎日欠かさねぇで鍛錬している。」
「うん、見て取れた。見事。」
「一撃必殺……刹那の剣。それだけじゃねぇんだろうけど、俺が憧れた『刀』を使っていた奴の印象だ。」
「イメージは大切。少しだけイメージ出来た。ありがとう。」
フリージアは、直立から頭を軽く下げ、木刀を受け取る。
「すまねぇが、仕事をし出すと俺は集中しちまう。後は自分で考えながら片刃の剣に慣れてくれ。」
木刀を渡し、くるりとフリージアから背を向けるメイヤーの顔は刀匠の顔に既になっている。
まずは、自分の作った刀をフリージアの背丈に合わせる作業に取り掛かる。
素材を確認し、工具を並べ、火を起こし、上半身はさらし一枚となり火耐性の魔法を自分に付与する。
―――カツーン、カツーン。
熱の籠った工房に鳴り響く音。
その熱にあてられて、木刀の片刃と両手で持つ感触を確かめるように、一心不乱に木刀を振るフリージア。
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真昼から始まった無言のふたりの作業は、夕食も忘れ深夜まで続いた―――。
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翌朝―――。
自分の背丈に合わせて貰ったメイヤーの刀で素振りに精を出すフリージアの後ろから、起きたばかりのメイヤーが欠伸をしながら工房に入ってくる。
「ふぁああ、おっはー。はえぇな。」
「何時もなら剣を研いでいる時間。普通。」
「そうか。で、その刀はどうだ?」
「だいぶマシになったと思うし、少し慣れて来た。」
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「ねぇ、案山子を切ってもいい?」
フリージアが、剣を確かめるような仕草をしながらメイヤーに聞く。
「構わないけど?」
「なんとなくなんだけど……、片手剣よりも切るポイントが刃先に近くて繊細な気がする。実際に切ってみたい。」
案山子に向かい刀を構えるフリージア。
「ほう……。」
―――研ぎ澄まされた集中力と刃先から伝わる覇気。
まさに刹那―――と、言わんばかりに放たれる刀の軌道。
そして、彼女の理想に近い切った刃の位置と案山子に切り刻まれた残痕。
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メイヤーは、自分の「憧れ」と「夢」の一端を彼女に託してみたいと思うその直感が、間違いではなかったと、このとき確信をする。




