第76話 剣士と刀匠と『幻の素材』
早朝―――。
何時ものように剣を研ぎ、手入れをしているフリージアを見て、アリアが笑いながら声を掛ける。
「フリージアちゃん、おっはよー。あらぁ? 今日は、丁寧に研いでいるわねっ!」
「うざっ! 御師様、昨日の話聞いたな!」
「えぇえ~? 何のことかぁなぁ~?」
「えぇい! 本当に……うざい。」
フリージアが跪坐の姿勢から、素振り用の木刀でアリアに切りかかる。
―――最低限の見切り。
数センチ……いや、数ミリで木刀を躱し、アリアはフリージアの手首を掴む。
― ☘
「んー。手入れも大事だけれど、自分の剣を持たないと成長がなさそうね。」
「どんな剣でも、どんな物でも切る。……が理想。」
「あらぁ? 無知なお馬鹿が言うセリフよねぇ。そんなの無理じゃん。」
「御師様でも?」
「当たり前じゃない? 私だって、道場の鈍らで、『ちびレム』の魔核を真っ二つになんて……。」
「出来ない?」
「10回に1回は剣先を折るかな!(どやぁ~♪)」
「ぐぬぬぬ! でも、……そうなんだ。」
アリアなら10回に9回は切れる。だけれど、1回は剣先を折ってしまう。
この師匠でも、あの魔核では剣を折る―――。
フリージアにとって、その事実が自信となる。
― ☘
「だから、剣は大切よ? あなたの感性で、しっかり馴染む物を選びなさい。」
フリージアの手首を掴んでいた手を、彼女の頭に乗せてアリアが言う。
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フリージアは、メイヤーの店にある武器達を手に持ちながら、今朝言われたアリアの言葉を思い出していた―――。
(……私の感性で手に馴染む剣か。)
順々に店にある剣をフリージアは手に持つ。
黒い短刀、赤い曲剣、白く輝く直剣……。
(違う! どれも手に合わない。
これなら……まだ、道場の剣の方が好きだ。)
(こんな剣なら……いらない。
私の命を剣に託せないし、託そうと思えない。)
「ん? これは……。」
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目に入った片刃の剣……異国のものだろうか。
フリージアは、恐る恐る……それを手に持つ。
「え? 何これ……。」
― ☘
手に走る衝撃―――、脳に映る情景―――。
武器に残された思念? いや、刀匠の思いが伝わってくる。
「……そっか。」
ポツリとフリージアは呟き、その片刃の剣を持ち奥の工房に消えていく。
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「よう! 武器は決まったかい?」
お店より二回り程大きな工房に入ると、メイヤーが試し切り用の案山子を用意して待っていた。
「これにした。片刃の剣。」
フリージアが持つその剣を見て、メイヤーがごくりと唾を飲む。
「聞いていいか? 何故その剣にしたんだ? 使い慣れていないだろうに。」
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「手にはどれも馴染まなかった。でも、これは手に持った瞬間に、剣を作った人の気持ちを感じたから。」
真っ直ぐにメイヤーの顔を見つめるフリージア。
「……打ち手の?」
― ☘
「そう、あなたの!!!」
!?
「これを俺が打ったって分かったのか?」
「何だろう? あなたの憧れみたいな?」
その言葉を聞き、メイヤーはフッと鼻を鳴らす。
「ハハハ! いいねぇ。それは『刀』と言ってな。海の向こうの国の剣で、俺の憧れの剣なんだ。まぁそれを模造したものだけどな。」
「その気持ちと想い、そして毎日の鍛錬が凄く伝わってきた。私も毎日道場の剣を研いでいるから、感動すら覚えた。まぁ、手には馴染まないから『要らない』けど。」
「ぶはぁ! 嬉しいことを言ってくれるね。最後の一言は『余計』だけど!」
口と口だけでなく、眼と眼でも会話をしているような、ふたりの強い眼差し。
「……ふふふふふ。」
「……ぐふふふふ。」
そして、急にふたりは笑い出す。
フリージアが無言で手を出し、メイヤーを手を取りまじまじと観察する。
「なぁ? やっぱり『握り』か?」
「それもある。あと重心。やっぱり片刃は慣れない。」
「重心か、確かにお前には長すぎるし、この湾曲が余計に……か。」
「使ってみたいと思わせるものはある。だけど、私の背が伸びないと無理。」
「ブツブツブツ……」
「ブツブツブツ……」
◇
「ほぇ~?」
急に笑い出し、真剣にお互いディスカッションを始めたフリージアとメイヤーを見て、エヴァが「何が始まったの?」とリンデンとマーガレットを見る。
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「恐らくですけれど、交渉が成立したのですわね。」
「その様ですね。認め合った感じでしょうか?」
「ふぇ、そうなんだね!? 急にふたりの世界に入ったからびっくりしちゃった。」
「あはは……そうですよね。でもこれ、僕の経験上ですが長くなりますよ?」
「あー、ふたりとも ”目が逝っちゃってる” もんねー。私の装備選んでくれた時のお姐さん達と同じ目してるもん!」
「まぁ!? その装備はルイゼさん達からなのですか?」
「えっ!? どうりで。」
「そうだよー。剣とタリスマンは全員からの贈り物! 鎧はフローラ姐さんから借りていて……靴は……」
武器屋の工房の中だからなのか、フリージアとメイヤーが「ブツブツ」「フフフ」と言っている間、残されたエヴァ達もお互いの装備についての会話が尽きない。
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「ふふふふふ……。」
「ぐふふふふ……。」
「そう。それが理想。」
「かぁー! 我儘な女だねぇ!」
「出来ないとは言わせない。」
「高くつくよー!」
「お金じゃ……ない。それも含めあなたに託すだけ。」
「おう! んで、『他の素材』は持っていないのかい?」
メイヤーからのその質問に「ん~」とフリージアは考え、エヴァ達に聞く。
「ねぇ、残してある素材って何かあったっけ?」
― ☘
残してある素材……ん~? と、考えるエヴァ達であったが、「あ!」と思い出したようにエヴァが『もも』からひとつの輝く素材を取り出す。
「はぁああああ? 何でそんなもん持ってやがるんだぁ?」
メイヤーが目を丸くして興奮しながら言う。
「ふぇ? モンスターから落ちたからだよ?」
エヴァが悪気なく答えるのだが……メイヤーのテンションは下がらない。
― ☘
「ば…ばばば……馬鹿野郎! それは『超希少種』モンスター「クイーンラミア」のレアアイテム、《《幻》》の『黄金ラミアの鱗』だぞおおおおお!!!」
――――ふぇええええええええええ!?
そのメイヤーの叫び声に驚いた3人娘は呆けた大きな声を発し、リンデンは「ハァ……やっぱり普通じゃない。この人達」と、深く重い溜息を付くのであった。




