第75話 メイヤー’S『武器店』
第10階層 『迷宮』街「アンダーザトランク」
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リンデンとザコイチが泊まっている宿『山翠亭』の薄暗い酒場で、3人は紅茶を飲んでいる。しかも3杯目だ。
実は、リンデンの昨日の活躍と同盟とで、彼は夜遅くまで迷宮探索家チーム『エスパーダ』の面々に飲まされていて、只今絶賛二日酔い中。
……ザコイチは、昨日の討伐品を売って娼館『華の蝶』に行き、念願のカイトとの情事が叶った翌朝。 絶賛夢心地。
一向に来ないふたりに、フリージアだけでなく、マーガレットすらも苛立っているのが分かる。
エヴァは、ザコイチの事情を把握していて、彼が来るとは思っていなかった為、逆に、リンデンに何かあったのかな? と、少し心配をしていた。
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「うぅ……すみません。お待たせしました。それで……その、ザコイチさんは結局起きてくれませんでした。」
「あー先輩はいいよ。昨日カイト姐さんのお客だったし、眠たいもんね。」
ふらふらしながら、やっと出てきたリンデンにエヴァが表情も変えずに言う。
「あぁ……それで、途中から居なくなったのですね。」
「ん? テンプレなんて、どうでもいい。」
「でえすわねぇ。興味すらありませんし。」
ご機嫌斜めのふたりは、機嫌そのままに、鼻の穴を大きくしてニヤけて寝ているザコイチに辛辣な言葉を吐く。
「あ……あの……? 怒ってらっしゃいます?」
「うん、結構。」
「時間にルーズなのは殿方としては、如何なものでしょうか。」
「ううっ……。」
あははは、と苦笑いのエヴァが、「助け舟」とばかりに、リンデンへ昨日の同盟について聞く。
「ね、リンデン。昨日の『同盟』なのだけれど?」
「あ、はい。実は………。」
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リンデンが昨日の『階層ボス』との戦いについて、その後の『エスパーダ』とのやり取りについてエヴァ達に説明をすると、3人の眉毛がぴくぴくと動く―――。
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「へぇー、私達より先に『階層ボス』ね。」
「流石リーダー様ですわねぇ。」
「えーずるぃー!」
その顔に、その声のトーン。
しまった! とリンデンは思うが、それはもう後の祭り……。
かと思われたのだが、彼女達の反応が意外と柔らかい。
「……悔しいけど、サーシャさんの言う通りだったか。」
「ですわねぇ……。」
「えーずるぃー!」
エヴァだけは変わらずに頬っぺたをふくませているのだが、凄く怒られると思っていたフリージアとマーガレットの反応にリンデンは驚く。
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「あぁ、昨日サーシャさんが予想した通りだったし、『同盟』もいろいろ教えてもらったの。だから、そんな顔しなくてもいい。だけど……」
「そうですわね。ここのお代はお任せしますわよ! 流石に待たせすぎですわ!」
「ふぁ……ふぁい。」
リンデンの二日酔いは、このやり取りで何処かに行っていて、冷や汗を拭いながらも、一番怒られそうな内容を、事前に「和らげて」くれていたサーシャに感謝する。
(サーシャさん。このお礼はいずれ……。)
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第1階層で1杯50エリス程度の紅茶が、ここでは、1杯100エリスもする。
そんな、とっても高い紅茶を合計9杯、合計900エリスを店主に払い、リンデンは彼女達に聞く。
「お待たせして本当にすみませんでした。では、この街を案内しますね。何処か行きたい場所なんてありますか?」
3人は顔を見合わせ、ニカッと笑う。
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「チーム『大空』、最初の全員クエストだよ!」
「ふぇ?」
「この素材を使った、私の武器を作れる人を紹介して!」
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フリージアは、『黒銀鉱』を導きの妖精『スノウ・ホワイト』に出して貰い、リンデンにそれを向ける。
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中央広場から東の路地に入り、少し歩いた場所。
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薄暗い店舗が連なる長屋の一角にある『メイヤー’S 武器店』の重い扉を開き、チーム『大空』の面々が中に入る。
「いらっしゃーい。」
煙草に火を点けながら、気怠そうに声をかける女性。
紅い髪に白いタオルを巻く引き締まった体のその彼女を中心に、整頓がなされている店内は、所狭しと大切そうに武器や防具が置かれていて、3人の好感度と冒険心を高める。
「あ……えと、こんにちは。メイヤーさん。」
恐縮な面立ちで頭を下げるリンデン。
「ん? リンデンじゃねぇーか。ザコイチはどうした?」
「え……と、あの……その。昨晩遊び過ぎたようで? まだ寝ています。」
「はっ!? キモっ……。まぁいいや。んで、今日はどした?」
「実は……」
説明をしようとするリンデンを押し切って、フリージアが言う。
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「キモいは同意! ねぇ、これで私の剣を作って!」
「ん? あんたは?」
「私はE級迷宮探索家チーム『大空』のフリージア。こいつも、この子達もチームメイト。」
『黒銀鉱』をメイヤーに渡しながらフリージアが、自分とチームを紹介をする。
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「へぇ……『黒銀鉱』か。新人上がりの若いチームが『ちびレム』からレアを引いたってとこか。」
「その『ちびレム』の魔核で剣を折った。だから、自分の剣が欲しい。」
「ん? 自分の剣? ちょっと言ってる意味が分かんねぇんだが。」
フリージアの「自分の剣」という言葉にメイヤーは首を傾ける。
「普段はこれを使っている。道場の剣。」
「あー、確かに道場での練習用だなー。良くこんなんで『迷宮』ダンジョン登っていたな? ん、お前『アリアウルフ』のとこか!」
剣に刻まれた道場のマークにメイヤーが気が付く。
「そう。『アリア』は私の御師様で、義理の母親。」
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そのフリージアの言葉にメイヤーの目付きが変わる。
「へぇ―――。『アリアウルフ』の娘か。」
少しメイヤーは考え込み、そして店に並んでいる剣を指を刺す。
「この中から、自分に合った武器を選びな。それで、選んだら奥の工房に来い。」
そう言って、奥に行くメイヤー。
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フリージアは意図が分からず眉をハの字にしながらも、言われた通りに店にある武器を手に取り、自分が使いやすいと思う武器を品定めするのであった。




