第72話 ラミア王『キングラミア』✿討伐
総勢14名の3パーティで構成されたレイドチーム。
原則的には、そのパーティ間でのルールなんてものはない。
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―――ないのではあるが、ボスレイドに関してだけ言えば、倒したときに手に入れられる「恵み」は、『導きの妖精を介して』参加者にランダムで渡される「世界樹の意思」の配慮。
これは、世界樹の迷宮が出来たときの多くの犠牲の上に成り立った配慮と言われており、一説にはフェディニア国王女帝エミリア=ロマーニエが、不毛な迷宮探索家同士の奪い合いを嘆き、盟約を介して世界樹に願った結果―――と言われてはいるが、そこは定かではない。
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盾役を瀕死に追い込まれてE級迷宮探索家チーム『鉄の絆』は、完全に守る対象となっていることが、戦いの足枷になっていた。
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ただ、思い上がりと一攫千金に目が眩み、失敗して項垂れる彼達を見て、リンデンは他人事には思えず、他っては置けなかった。
それが、ある意味で彼の思考を加速させた―――。
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自分達のパーティに適切にアイテムを給仕しつつ、必死で瀕死の男の子を回復をしている神官の女の子の姿を、唯々棒立ちで見ている3人を一喝し、彼女達を守ることに全力を注ぐように指示をする。
『キングラミア』が、鉄の絆の面々を気にする仕草が見られると、ザコイチにそちらに気を向けないよう伝える。
ザコイチは、一応は大ダメージ系の大剣使いであり、ヘイトを稼ぐのは元々得意であったため、その立ち回りが上手い。
そんな気の配りと、鉄の絆の面々を助けたい思いが、もうひとつのチームパーティ『エスパーダ』も、リンデンを好意的に見る結果となり、それが、最後まで彼の指示に信頼を持って貰える要因となる。
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―――リンデンは、仕事が明確になる感覚の中に、不思議と落ち着いていく自分に気が付く。
この場の全体を把握していく感覚を、ある意味で楽しみながら、だけれど、あの時のように過信だけはしまいと心に誓う。
その甲斐もあってか、鉄の絆の盾役の意識が戻り戦局に左右されない場所に移動する事が出来た。これで、戦いに巻き込まれることは無いであろう。
そんな中、『キングラミア』の行動に違和感を覚えたリンデンは、注意深くその違和感を確認する。
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(―――やっぱりだ。右の脇腹の筋肉の継ぎ目を守りながら戦っている。それに……。)
タイミングを見て、そのことをザコイチに相談をするリンデン。
「驚いたな……。お前さん、間違いなくこの戦いで、ふた皮はめくれたぞ?」
只でさえ、的確に情報やアイテムのをくれるリンデンに驚ていたザコイチであったが、ここに来て、弱点らしき部位を見つけたと言うのだ。
これだけ人気のあるボスである。
実は、『有名』な弱点があるのだ。
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この『キングラミア』、禿散らかした「残り少ない髪の毛」を異様なまでに守る。
だから、実質戦っている2パーティは、頭を狙っている。
風魔法の使い手は、風で髪を切るし、火魔法の使い手なら燃やす。
だが、それは相手も百も承知で、そこを敢えて狙わせてその隙を突いてくる。
しかしながら、今回見つけたと言ってきたのは右の脇腹だ。
言われてみれば……。
―――なのだが、定石の弱点がある中で、良く気が付いたものだ。
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「よし、次のスイッチで俺達は奴の右の腹を狙うぞッ!」
ザコイチは覚悟を決めて、リンデンの観察眼を信じることにする。
信じるに足りるだけの立ち回りを、ここまでしている彼であったし、今日ここで過信することは絶対にないことを、ザコイチは知っている。
「―――『エスパーダ』の皆さん! このタイミングで入れ替わって下さい!」
リンデンの完璧なタイミングでの指示に合わせて、ザコイチが大剣を振り回し、まずは「左側」を大振りで攻める。
その隙に、入れ替わるパーティ。
盾役の野良D級迷宮探索家が、ここで「右側」に回り、『キングラミア』の右脇腹を剣で突く様に攻撃して、バックステップで離れる。
慌てて、右脇腹を庇う『キングラミア』の反応。一同は確信を得る。
(大した攻撃をした訳ではないのにこの反応……間違いないねぇな!)
盾の男は、そこから盾を構え右の脇にぶち当たる。
” ―――グギギギギギギッ ”
顔をしかめる『階層ボス』。
反対側から、攻撃の圧を増し、時に禿げ散らかした髪を狙うザコイチ。
ザコイチの髪への攻撃に合わせるように、後方に下がったD級迷宮探索家チームの魔法士が頭に火魔法を放つ!!!
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燃え盛……っているのだろうか? 兎に角燃えている『髪の毛』―――!!!!
” ―――ビェェェェェッ ”
堪らないと両手で頭に手をやり、火消しをする『キングラミア』に、更なる追撃を繰り返すザコイチ。
(――――行ける!! ここで後ろの『エスパーダ』に右脇腹を狙うように指示を出せば、畳み掛けられるぞ! リンデン!!)
ザコイチが、そう思いリンデンの方に目をやったその瞬間―――。
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『キングラミア』が、嫁に捨てられた夫の叫び声のような断末魔を上げ―――光とともに泡と化す。
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「ふぇ?」
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あ……右脇のあの筋肉の継ぎ目が、がら空きだ! と、何気なく槍を突き刺しただけのリンデンは、その行為で自分が『止めを刺した』ことが理解ができずに、槍を刺した体のまま固まっていた。
う…?
うぉ……!?
『 ”うおおおおおおおおおおおお――――!!!!!!!” 』
参加者全員の歓喜の雄叫びが響き渡る―――!!!
その声で、我に返るリンデン。
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「あ……そうか。やっぱり、あそこが弱点でしたか。」
倒した喜びの言葉より先に、「そう」呟いた彼を見て、ザコイチは目を丸くするも(やっぱり、こいつ《《も》》只者じゃねぇんだなぁー)と、丸くした目を細めて笑う。
そして、ザコイチは掌をいっぱいに広げ、この遠征で少しばかりか硬くなったリンデンの背筋に、思いっきりそれを振り抜いて、『彼の初レイドの勝利』を祝うのであった。




