第69話 『魅た』エヴァと✿『花』魔法
朝靄が辺りを覆うような空気感と少しばかり肌寒い気候、だからと言って決して真っ暗ではなく、日の出の頃の幻想的な暗さが階層を包む第9階層―――。
変わらずの草原地域ではあるが、地平線まで道が続くような一部の平地が蛇行するような地形。
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第9階層は階層主と呼ばれる俗にいうボスモンスターの出る階層。
そこから続く『迷宮』街……第10階層。
第10階層の滞在者の多くは、第9階層の階層主の討伐を目指す。
リンデン達が向かった先も、そんな階層主が現れるポイントのひとつ。
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そんな迷宮探索家達の群れから、道を逸れるように丘や草むらを歩くエヴァ達。
拾った長めの木の枝を、朝露を纏う草達に当てて、その露が滴るときの光の反射を楽しむエヴァと『もも』達の笑い声が響く。
時折遭遇する、ゴブリンや紫きゃっぴー達。
そんなモンスター達を、剣を持ったフリージアが『肩慣らし』にと薙ぎ払っているのも何時もの光景―――。
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大きな角を持たない女鹿の『草原ディア』を、自身のスキル『並列憑依』でエヴァ達が確認し易い適度な距離を保ち尾行させるキャッチ・フライは、憑依した目で改めてフリージアの剣筋の非凡さに感心をする。
上から落ちてきた情報としては、彼女は『アリアウルフ』の秘蔵っ子で、道場では師範の腕前。どうやら『裏稼業』には、関わっていないとの情報もあったが、その身のこなしを考えると、それも怪しいなと思えてしまう。
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それに……あのブロンドの少女が持つ『ロングボウ』は、間違いなく一級品で、あの家紋は異国の名家なのだろうかと予想がつく。
最もこれは、彼女の持つ『月のロングボウ』が彼女の母親から譲り受けたものであり、リースアット公国出身の彼女の母スパティの家に、女系が代々受け継いできた一品であったため、彼がマーガレットを『マルガリーテス家』のご令嬢と気が付くことはなかった……のではあるが。
それに加えて、『エヴァ』である。
唯一無二の★スキル『花』魔法のホルダー。
改めて、新人から上がったばかりのパーティであるとは思えない面々だ―――。
彼女達が見えない程の距離で、気が付かれない安全マージンをキャッチ・フライ自身は確保して、『草原ディア』の目を借りた尾行は、更に続いていく。
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彼女達が向かうのは、小さなゴーレム『ちびレム』の生息地。
これは、先程エヴァが迷宮探索家達から仕入れた情報で、かなりの遭遇率が高い場所。
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その情報は、当然、『情報屋』のキャッチ・フライも知っているのだが、その先に第9階層「最大のラミアの巣」があることが、エヴァ達のここ数日のルーティンである「一度厄介なモンスターと戦う」こと見落とすこととなり、今後も彼とエヴァ達がすれ違う理由の一端を担うこととなる。
◇
「うお。居たね! ちっこいゴーレム。」
「石で出来た ”ブサかわ” のぬいぐるみみたいですわぁ!」
「頭でかぁ!」
黄土色の石で構成された「1頭身」のゴーレムが、その3人の大きな声に反応し、黄色の目を光らす。
「あ、気が付いた。」
「すっごい足の回転で走ってくるよー!」
「でも……すっごく……遅いですわねぇ……。」
足の短さが相まって、凄く頑張って走るのだけれど。
全然進まない移動距離と、愛くるしく思えてしまうでかい頭部。
少し可哀想だなと思いながらも、フリージアは剣を振る。
―――ギャインッ!!!
弾かれるフリージアの剣。
少し手が痺れたのか、片目を瞑る。
「なまいき……。」
剣を下段に構え、息をふたつ吸う彼女の身体から余分な力が抜ける。
足運びは縮地の動き―――逆袈裟切り一閃。
腹部とでん部の継ぎ目から、剣が『ちびレム』の身体を ” ス~” と刃先が切り込まれてコアを直撃する!!
―――ピキインッ!!!
「え?」
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刃先が折れ宙に舞う。
その音に蒼ざめるフリージア―――。
コアを直撃され眼の光が無くなり、泡と化す『ちびレム』。
恵みとして落とす黒い石。
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普段なら黄色の石「黄鉄石」を落とすのだから、明らかなレアドロップである。
その名を「黒銀鉱」と言うのだが、剣先を折ってしまったショックで、フリージアが微動だにしない―――。
花よ舞え、わたしと共に理を解き開けッ―――
―― ✿『花』魔法 アキノキリンソウ
エヴァが『花』魔法をフリージアに付与して、思考を呼び戻す。
「ありがとう……エヴァ。私まだまだ未熟。」
そう言って折れた剣を導きの妖精『スノウ・ホワイト』に仕舞い、予備の剣を出してもらう。
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「大丈夫? 剣……大切なものだったよね?」
「あ、剣は道場の安物だから大丈夫。でも切れなかったのはショック。」
心配するエヴァを他所眼に、ケロッとした顔でフリージアは言う。
「ふぇ? そうなの? びっくりしたぁああ!」
驚くエヴァであったが、マーガレットがフリージアに促す。
「高くない剣なのは存じておりましたが、そろそろ……ご自身の愛剣を買われたらどうですの? 例えばこの石を加工するとか。」
と、先程『ちびレム』からドロップした「黒銀鉱」をフリージアに渡す。
「そう……かも。ここから上は、流石に迷惑になる……。」
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しゅんとしながら、石を手にして「あれ?」と、彼女はその石の硬度に気が付く。
「ん。この石、凄く硬いかも? 勘何となくそんな気がして嬉しくなる。
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(み……見た、見たっすよ~! 『花』魔法!)
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借りものの『目』から、今回ははっきりと見たエヴァの魔法に、キャッチ・フライは興奮気味にそう思う。
(今のはバフ系っすかね? エヴァがタリスマンを手にして、何かボソリと言ってたっすね……詠唱? なら短詠唱っすか? しかし、本当に『花』が咲くんすね。)
『情報屋』の矜持―――という奴だろうか
彼の頭の中で、エヴァへの興味と考察が加速する。
そして、「ラミアの巣」に辿り着く手前。
再び目にした『花』魔法 ”ガジュマルの花” に、歓天喜地なキャッチ・フライは、大きな声を上げてしまい、恥ずかしそうに辺りを見渡すのであった。




