第61話 閑話 星に願いを(中)☆彡
軽快なバイオリンの音に合わせて、後追いでパーカッションがリズムを刻み、ピアノが旋律を被せてくる。かと思えば、バスフルートのような低音の笛が要所要所でベースラインをなぞる不思議な曲。
何処となく貴族の主催するパーティーには不釣り合いなその曲の表情に、エヴァの足は小刻みにリズムをとっていた。
「なんだろう? 何となくこの曲好きー!」
マーガレットの顔を見てエヴァは目を閉じ首をこくこくとする。
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「リースアット公国という国で、市井の娯楽から生まれた曲と聞いていますわ。実はお母様の出身国ですの。わたくしも好きでして、仰々しくないので、皆様にはこちらを楽しんで頂こうとお願いしたのですわ。」
母親会を楽しんでる、母親であるマルガリーテス夫人を見ながらマーガレットが少し嬉しそうにそう言う。
裸足の母親3人も足や肩でリズムを刻んでおり、エヴァもマーガレットもフフフと笑う。
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ウェルカムミュージックが終わり、マーガレットが部屋の中央に立つ。
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「皆様ようこそいらっしゃいました。今宵はわたくし達の新人課程卒業の門出ということでこの席を用意させて頂きました。実はこれ「母の国の慣わし」ですの。なので……お母さまよろしければ、マルガリーテス家の主催者としてひと言お願いできますでしょうか?」
ぺこりとマーガレットは、母親に頭を下げる。
驚いたような顔をしながらもマルガリーテス夫人は、扇を口元に当てマーガレットの隣に立ちお辞儀をする。
「皆様おめでとうございます。わたくしは、マーガレットの母『スパティ・フィラム・マルガリーテス』と申します。」
マーガレットの母スパティは、エヴァとフリージアの方を向き話を続ける。
「娘からもありましたが、わたくしの生まれた国、リースアット公国では、軍人や冒険者として認められた時に「命を預ける仲間とその家族」で一席設ける風習があります。」
そして、彼女は、壁に飾られた青色のかわいらしいドライフラワーの前まで移動する。
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「この花は、『ブルースター』と呼ばれる花。この花の持つ意味は『信じあう心』。慣わしでは、この花のもとその『信じあう心』を、親睦を深める時間を楽しむとされています。わたくし共がこの会を開いたのは、貴族として場を用意したまでです。ですので、マナーなど忘れて気楽に楽しんで下さいませ。」
スパティは再びマーガレットの隣に移動し、エヴァとフリージアの前に立つ。
「娘からは、エヴァさんとフリージアさんのお話を毎日のように聞かされますのよ? ですから今更な気もしますけれど、どうか今日のこの日を忘れずに信じあって背中を合わせてやって下さいね。」
その気高くも優しい眼差しにエヴァ達も「はい」と答える。
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「それと……こちらは偶然なのですけれど、東の大陸のさらに東の地域での風習にこの季節の星の輝きが増すこの日、『星祭り』というものをしているそうで、夜空を見上げ自分が運命を感じる『星』に『願い』を込めるようですよ。」
「まぁお母さま! それは素敵ですわね!」
「後ほど、バルコニーで3人揃ってその風習に倣ってみては如何でしょうか。母親は母親会でご一緒に。ね? 『風読み』に『アリアウルフ』。」
スパティは、ルイゼとアリアにウィンクをする。
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「ふ、変わらないね。『ホワイトキング』!」
「断っても……まぁ無駄よね。『ホワイトキング』だもん。」
「あ……あなた達~~! その呼び名は……本当にもう!」
どうやら、この親3人も知り合いなのだろうか。
顔合わせからそうであったように、旧友を懐かしむようだし。
「皆様お母様とお知り合いなのですか? それにホワイト……『キング』ですの?」
マーガレットがルイゼとアリアに聞く。
「私達、それなりに有名だしねぇ。それに……。」
「知らないの? スパティは凄腕の……。」
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「あ~あ~あ~!! そこまででお願いします。一応『迷宮』ギルドとしてはタブー事項なのです!!」
ずっと、スパティがこのパーティーいることを知ってからそわそわしていたサーシャが、堪らずに止めに入る。
「え? そうなのか?」
ルイゼがスパティとサーシャを見る。
ふたりとも指で『×』のサインを送っている。
もう遅いと思うんだがな……とは思う二人なのだが、その必死さに口を瞑ることにする。
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実際、エヴァとフリージアは、あまりピンと来ていなさそうだけど、マーガレットは気が付いたような顔をしている。でも、それはマルガリーテス親子の問題だから他っておこう!
そう思い、ルイゼとアリアはグラスに注がれた中々味わえないお酒を楽しむ。
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Eランク迷宮探索家が進める最上階第10階層。
ここには、セーフティゾーンが広く『迷宮』街があり、低層に籠る迷宮探索家達の多くが滞在している。
リンデンとザコイチは、このプチ遠征ではここにある『山翠亭』という宿屋を拠点としていた。
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フリージアの計らいで、リンデンの褐色の導きの妖精『カスミ』を通して、このパーティーを聞いていた彼らは、『山翠亭』の酒場で決して「安くない」安酒を飲んでいた。
「なぁ……お前のこと、絶対にマーガレット嬢ちゃんはワザとだよな?」
「えぇ、恐らく先に遠征している僕に怒っている気がします。」
「あの嬢ちゃん。顔に出さずに怒りそうだもんな……。」
「あはは、ですよね。でも、親同伴となると僕の場合は……面倒臭いですし。」
「そうなのか?」
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「聞いている限り、『風読み』『アリアウルフ』と『マルガリーテス公爵家の奥方様』ですよ? そこに『商人』の僕の親を混ぜたら、お祝いの場を交渉の場にしてしまいますから……。」
「あ~、それ絶対に後で怒られるよな……お前が!」
「はい……。」
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「それでも、仲間なので『青い花』と『星』に見えるものを用意して『絆』と『願い』を一緒に……なんて、フリージアの嬢ちゃんも優しいところあるじゃねぇか。」
「そうなのですよ! フ…フリージアさんは優しいんです。それに、か……かわいいですし(ごにょごにょ)」
「ん? ふっ。そうだな! まぁ飲め!!」
ある意味で、そのパーティーに参加しなかったことに安堵しながら、また、フリージアの優しさが嬉しくて、リンデンは、ザコイチから注がれた冷えてもいない安酒で、勢い良くぐびっと喉を鳴らす。




