第56話 仇(はは)の手料理
(この子達は、この子達なりに出来ないことを体感してくれたみたいね。リンデン君も解体スキルをちゃんと使えたみたいで……本当に良いチームになりそうね!)
― ☘
サーシャは、お互いの相乗効果があった報告を受けて本当に嬉しかった。
正直、昨日の第2階層の件では、ルイゼの『夜の蝶』だからこそリンデンの目に生気を取り戻させれたのであって、彼女が出来たことは少なった。
確かに、『ルートオブセブンスフロート』なんて言葉が出てしまった以上は、『迷宮』ギルドの職員の立場であればこそ、ルイゼ達に任せざる得ないのではあったのだが……。
✿
― ☘
「はい。これで今日のクエストは完了です!」
サーシャは、手続きを全て終わらせ4人にカードを渡す。
「お疲れさまでした。そして、リンデン君ありがとうね。明日からも他の新人さんのサポートに回ってもらうので、暫くはこのメンバーでのクエストはお預けになるかなぁ。」
― ☘
サーシャは、今の彼なら他の新人とも上手に付き合えると思えた。
それは、彼もそう感じているのではないだろうか。
「分かりました。皆さん今日は楽しかったですし、
解体の時は背中を押して頂いてありがとうございました。」
「うん。リンデンもありがとう! お互い頑張ってEランクになろうね!」
「そして、チームを立ち上げますわよ!」
「へたりそうで心配……。」
「あはは……。はい、頑張ります!」
「それじゃあ、次会うときは、お互い新人を卒業してだね!」
「はい!!!」
……このやり取り、初々しいな~。
― ☘
エヴァちゃん達は『特S級』なので、あと数日で昇格の見込みが立つわね。
リンデン君、明日からは通常の新人クエスト……頑張りなさい。
サーシャは、無言でリンデンにエールを送る。
◇
「それでは、わたくしはご無礼たしますわね。」
「うん、また明日~。」
「私もそろそろ。弟たちにお肉を食べさせたい。」
「あ、それならこれあげるー。余った『おいシイ茸』! 少ないけど。」
「ありがと、エヴァ。きっと喜ぶ!」
日も暮れ始めて、街は薄っすらオレンジに染まり始める。
3人の少女達は、心地よい疲れと共に互いに別れの挨拶をし歩き始める。
✿ ✿ ✿
― ☘
フリージアは、兄弟たちへの『お土産』がたんまりで、ウキウキな気分で道場の門を潜り、道場の終いをしている道場主の義理母『アリアウルフ』の元に赴く。
「御師様、只今帰りました。お土産のおやぼん肉と『おいシイ茸』。夕餉一緒にどう?」
自分が、自分の手で狩りをして手に入れた食材。
昨晩は、アリアは『アリアウルフ』としての仕事があり不在であったため、夕餉に彼女を招くことができなかった。
色々と迷惑をかけながら、こんな私を迷宮探索家まで育ててくれた『母』に、自らの成長を見せると共にお礼が言いたかった。
「あらーフリージア! 夕餉に招待してくれるの? 嬉しい~~♪」
― ☘
瞬歩とも言える動きでフリージアの前に移動する『アリアウルフ』に、相変わらず来ると分かっていて反応が出来ないフリージアであったが、抱き着く瞬間に縮地の動きで寸前のところ身体半分躱す。いや、初めて躱せた。
「あらぁ? あらあら? いい感じに研ぎ澄まされているわね。」
「初めて躱せたかも。」
「ん。いい傾向ね♪ 私と対等で接したいとの思いが感じられる。常にその気の張り方を持ち、研鑽しなさい。」
「ありがとうございます。御師様。」
― ☘
少しだけ、ほんの少しだけ、師に近づけた気持ちになれたフリージアであった。
✿
「ただいまー。約束のお肉!」
「おかえり! お姉ちゃん! やったお肉だああ♪」
「『うりぼん』より高級な『おやぼん』とすっごく美味しいキノコ。」
フリージアが自身の妖精『スノウ・ホワイト』から、解体された『おやぼん』肉と『おいシイ茸』を取り出す。
「うわあ!! 綺麗なお肉だねー。ぴかぴかで甘い香りー。」
喜び鼓舞する弟たちに、ありがとうエヴァ、マーガレット、ついでにリンデンと思うフリージアにアリアが「ほうほう」と言いながら聞いてくる。
― ☘
「『死に落ちの恵み』があったのねー。おっ、解体も上手じゃない! 『解体』スキル持ちの子がいたの? あなたじゃ、流石にこんなに綺麗には『まだ』無理よね?」
「うん。昨日いろいろあって知り合った子が、『解体』スキル持ちだった。それより『死に落ちの恵み』?」
― ☘
「ああ、死体がそのまま泡にならず残ったでしょ? それを『死に落ち』って言うのよ。それにしても綺麗な『解体』ね。」
あのお師匠が褒めている。
世界樹の意思との会話といい、師匠が手放しに褒めることといい、フリージアが求めることを、リンデンは一歩先にいるような気がして、またもや、頬っぺをぷくぅ~と膨らますフリージア。
それが、可愛くて愛おしくて、フリージアの頭を撫で、髪をかき上げるアリアに、フリージアは余計に頬っぺたを膨らます。
― ☘
ごめんごめん! と言いながら、お肉ときのこを料理してくれるアリアに、1度は「私がやるから」と言う彼女であったが、「美味しい食べ方があるの」の言葉にすんなりと引き下がる。
― ☘
それは、師弟関係であっても、『仇』……として憎んだ相手であっても、今では育ててくれた『本当の母』であるアリアに対して、迷宮探索家であっても15歳の少女の、やっぱり求めてしまう『母の手料理』の嬉しさが、アリアをもてなす気持ちに、勝ってしまった……娘の本音。




