第54話 マルガリーテス家と結ぶ『手』
固まっている。お嬢様が固まっている。
今、固まっているのは、恰幅の良い男の子ではない。
ブロンドの美しく長い髪をなびかせて、可憐に着飾る装備をキラリと輝かせて、美しく可憐な顔をそのままにではあるが、目を見開き、口を開けて固まっている。
リンデンは、マーガレットの採取袋から、毒キノコを選り分ける。
しかし、よくもまあ、これだけカラフルなきのこを集めたものだな……と呆れてしまうが、『ニトロ茸』と呼ばれる火に近づけると、爆発をする鍛冶屋がそれなりの値段で買い取ってくれるものも含まれており、売れるものや使えるものを更に仕分けをする。
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彼女の採取した毒キノコの内、やはり半数は使い道が乏しいものであったが、逆にいうと半数は、それなりに使い道があり、そのことをリンデンは伝える。
「あの……マーガレットさん。こちらの半分は捨てますけど宜しいでしょうか? それと、こちらの半分は全て劇薬毒薬となる毒キノコで、『迷宮』ギルドや薬師が買い取ってくれますので、持ち帰りましょう。」
マーガレットの顔に赤味が戻り、笑みが戻る。
「よ……良かったですわ! リンデンさんにお任せしますので、売却も含めて宜しくお願いしますわ。」
「あ、はい。それでは、僕がこちらを持っておきますね。売れば報酬以上にはなりますよ!」
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今回の報酬はひとり1000エリス。
正直、納品しない方がお金にはなるのだが、ギルド発注の新人クエストとは報酬額ではないため、新人が納得しようがしまいが、それをこなさなければ先に進めない。そんなものなのである。
なので、そのクエストで追加で手に入れたものを売ることは、とても大切な行為であり、街の外から来たばかりの迷宮探索家には、それがあるかないかは、死活問題なのである。
最も、それはマーガレットには無縁のものなのかもしれないのだが、何れにせよ『買い取ってくれる』の言葉に彼女の顔色が戻ったのは、何よりであった。
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エヴァが『もも』に取り出してもらった『うりぼん』の肉を、フリージアが切り分ける。腰当てに帯刀している小刀で、綺麗な立方体に手慣れた手つきで切っていく。
石を焼いて、熱々となったところに、それを置くと「ジュゥ~」とい音を立てて肉の焼ける匂いがし出す。
『おいシイ茸』も、少しだけ余りがあるので焼く。
リンデンがポーチから小箱を取り出し、その中にある白い粉を肉と『おいシイ茸』に振って、各々の皿に取り分ける。
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「それじゃー改めて! 『おいシイ茸』と『うりぼん』のお肉~。感謝を込めて~」
「「「「いただきまーす!」」」」
量は多くはないけれど、世界樹の迷宮で食べる初めての食事を彼女達は頬張る。
「ふわぁ~。」
「おいしっ!」
「うまー!」
「リンデン。最後に振ったのお塩?」
「あ、はい。塩分の大切さも『先代』からの教えで、常に持ち歩いていたので。」
「おー! 先代グッジョブ!」
フリージアが、リンデンの方に親指を立てて、リンデンではなく先代を褒める。
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「あの皆さん……。リンデンさんは既に知っているのですが、わたくし第4階層へ出発の前にお伝えしたいことがございます。」
マーガレットが、きっと……やっとの思いでそれを口に出来たのであろう神妙な面持ちで2人の顔を見る。
「昨日一日ご一緒させていただき、ある程度は察しているのかもしれませんが、わたくしは貴族の出でございます。わたくしの名前の『パリス・デイジー』……。」
マーガレットがその苗字を口にした後、少しの間が開く。
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「『パリス・デイジー』……こちらが示すのは『マルガリーテス家』の隠俗称で、本当の名前は『マーガレット・フォン・マルガリーテス』……。」
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「え? 『王族』に縁のある偉い貴族様だよね?」
エヴァが知っていたよ? とケロリとした顔で言う。
「知っていらしたのですか!?」
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「うん。だって、フローラ姐さんの昨夜の「あの行動」は、お忍びで来る貴族様に対しての配慮と同じだったし、『パリス・デイジー』さんは姐さんのお得意様だもの。他の姐さんから、粗相がないようにと『パリス・デイジー』の意味も聞いていたし。」
「流石にマーガレットの言葉使いと態度……それに、その装備。貴族でも上の出身なのは、私でもわかる。」
「えと。何処の家の人かなんて、私には関係なくてね? 私にとってマーガレットはマーガレットみたいな?」
「うん。友達になったのはマルガ何とかさんじゃないし?」
ねー! と同じ様に首を曲げる二人。
「エヴァさん……フリージアさん……。」
「だから、そんな怯えたような顔で自分のこと話さなくてもいいんだよ?」
「そそ。その顔はそこの恰幅でお腹一杯!」
「ひ……ひどいですよ~フリージアさ~ん。」
「五月蠅い。ヘタレ! 語尾を伸ばすなうざい! それよりも、早く肉取りに行こう!! 弟たちが楽しみにしてる。」
「みなさん……。わかりましたわ! わたくしは迷宮探索家マーガレット・パリス・デイジー! それ以下でもそれ以上でもありませんことよ!」
「うん! 私達の親友のマーガレット!」
「だから、貴族だろうが気にしない。ため口上等でこのまま行く。」
「僭越ながら、僕も同じ思いです。」
マーガレットは、声を詰まらせながら
小さな声で「ありがとう」と言う。
そして、
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「まだ、言えていないことがありますの……それを伝えるのには、少し……少しだけ時間を下さいまし。」
と、涙を貯めた目で3人の仲間に頭を下げる。
「うん。大丈夫! それは、言いたくなったら言えばいいんだよ。」
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エヴァのその優しい声色、透き通る瞳、フリージアの何もなかったような気にしない態度に、彼女が昨日から悩まされていた『言えない不安』は、ゆっくりとゆっくりと溶けていく……。
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―――穏やかな風の囁きを感じながら。
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切り株の上で、3人仲良く座って笑顔を並べる『もも』『カナリア』『スノー・ホワイト』は、それを見て、同じく嬉しそうにしている『イエロースライム』にもたれ掛り、お互いの手を "ぎゅっ!" と結ぶ。




