第52話 『花』魔法『リアトリスの炎』(キノコ狩り)
第3階層から第5階層までの『新人』が行くことができるエリアは、第2階層と同様に草原が広がっている。
第2階層に不毛のアンデッドが居るエリアが少なからずあったように、この第3階層にも、草原だけではない『特徴』がある。
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それが、『倒木』である。
地形の起伏も、第2階層に比べ急な勾配の丘が目立つのであるが、それ以上に不自然な『倒木』が階層全体に散乱して見られる。
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その倒木の周りには、様々なきのこが生息しており、その種類は10種類以上。
中には、毒をもつもの、幻覚を魅せるもの、痺れて動けなくなってしまうものと、いわゆる毒きのこも生えている。
それらのきのこ達も、200年の歴史と研鑽から解毒剤になったり、迷宮探索家の状態異常付与剤になったりと、使われ方が確立されていて、これらが安定して確保ができる第3階層は、ランクの高い生産系の迷宮探索家にも人気のある採取場のひとつであった。
そんな第3階層での、今回のクエストの品『おいシイ茸』。
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数あるきのこの中でも、「見た目」は、食卓に並ぶ食材として比較的馴染みがあるきのこで分かりやすい。
だが、生息するその殆どが『普通のシイ茸』で、見た目がそれと殆ど変わらない『おいシイ茸』は生息する場所も数も稀であり、ある意味厄介なクエストである。
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そして、厄介と言えば、出現するモンスターである。
この階層から、『ゴブリン』が現れる。
ご存じの通り、人型亜人種のモンスターで、武器を持ち、群れを成し連携を取ってくる。そして、何よりも繁殖期の性暴力的な衝動が、女性の場合は脅威となる。
そのこともあり、女性の迷宮探索家試験では、必ず戦わせるモンスターとしており、新人の狩場で、人気の高い第3階層から現れる「こいつら」に耐性を付けさせることが、その目的のひとつとなっていた。
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「え……とですね。『おいシイ茸』は群生するのですが、同じ場所に生息するかというと、そうでもないのです。」
リンデンは、妖精のMAPを展開する。
「それって、昨日あった場所に必ずしも生息しているとは限らないということ?」
「そうです。そうです。」
「ふーん。不思議だねー。」
エヴァは、メモを取りながら眉をハの字にする。
「ところで、皆さんは『シイ茸』を見た目で判断出来ますか?」
リンデンは、この依頼は『シイ茸』が判断出来ないと採取が難しいと彼女達に聞く。
「できるー!」
「美味しい。」
「恐……らく? 見たことはありませんが、大丈夫だと思いますわ。」
「ふぇええ。流石マーガレットお嬢様!」
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「えと、皆様にそのことで……。」
エヴァの「お嬢様」のひとことで、マーガレットは昨日言えなかったことを伝えようとする。
「ん? 昨日の『言わないといけない』って、やつ? それは後でいいよ! まずは冒険を楽しも! ね!」
エヴァのその楽しそうな顔に、マーガレットは救われる。
本当は、自分のことを伝えるのが、少しだけ怖い。
でも、彼女達なら、きっとそれを受け入れてくれるだろう。
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それを信じながら、彼女は今を楽しむことにした。
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「えっと。『おいシイ茸』は見た目そのまま『シイ茸』なのです。」
「ん? どうやって見分けるの?」
「見分けは難しいのですが、薬草学では香蕈と呼ばれる『シイ茸』なだけあって、『おいシイ茸』も香りが立ちます。それは、『シイ茸』の比ではありません。」
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「ん。難しいこと言いだしたけれど、すごく良い匂いのする『シイ茸』ってこと?」
「そうですそうです。」
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「後ですね……その、ゴブリンも大好物でして、ゴブリンでも特に鼻が利く『ゴブリンスカウト』を目印に探すという方法もあります。」
「へぇー。 んじゃ、リンデン任せた!」
「ふぇ?」
「ふぇ? じゃない。結局は良く分からない。だから、お前の指示に従う。」
「うん! 私も分かんないー!」
「ですわね。全然、分かりませんわ。」
あ……これ、僕が頑張らないと、採取袋が毒キノコでいっぱいになりそう。
それに……生でキノコも食べちゃいそうですよね、この人たち。
リンデンは、無言でMAPを確認し、少しでも『おいシイ茸』が生息していそうな場所の当たりをつけ出す。
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まず、リンデンは近くの倒木を見つけて、普通の『シイ茸』を見つける。
そして、それを彼女達に1個づつ配る。
「これが『シイ茸』です。目印にしてください。もし『おいシイ茸』じゃなくても、こちらも、とても美味しいので持って帰りましょう。」
第3階層の地形を考え、窪地になっている場所に絞って探索をする。
何カ所か回り、手分けをして探すも『シイ茸』しかなさそうであった。
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「ねね! 『シイ茸』で袋いっぱいになったよ! これ食べていい?」
エヴァが下唇を少し濡らし『シイ茸』を見ている。
「えっと、『シイ茸』を生で食べるとお腹が痛くなりますよ?」
「え? そうなの? なら『焼こう』!」
「え?」
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エヴァは、「花」のタリスマンに魔力を込める。
麒麟の菊の百合薊、槍の穂の如く燃えて上がれ―――
―― ✿『花』魔法 リアトリス
タりスマンから赤と青の光が溢れ、『シイ茸』を取りつくした倒木の下から、炎が立ち上がり、枯れ倒れた倒木は激しく燃える。
◇
「ありゃ。火力が強すぎた! もっと、そっとでお願い。」
エヴァがタリスマンに話しかけると、火力が下がっていく。
「これで、よし! じゃあ、焼いて食べよ!」
「わたくし。使わない矢がありましてよ!」
「やった! きのこー大好きー♪」
「え? え? 採取……おいシイ茸は……え?」
呆気にとられているリンデンを、3人はガン無視して……
マーガレットが、木の矢を『カナリア』に出して貰い、その矢先に『シイ茸』をぐりぐりと付けて、導きの妖精達と一緒に焼きだす。
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『シイ茸』が焼け出した香ばしいよい匂い。
" きゃっきゃ " と倒木に燈った火を囲い、楽しそうにはしゃぐ少女達と導きの妖精達。
今日もまた、彼女達の自由な行動に固まってしまった恰幅のいい普通の男の子は、固まったその表情のまま、こっそりとお腹をぐ~と鳴らて、ただただ、その光景を眺めていたのであった―――。




