第49話 月明かりの『花』妖精
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皆が帰った後、エヴァの心には2つの感情が残る。
ひとつは、迷宮探索家として、自分でもびっくりするくらいのわくわくな大冒険が待っていて、それを楽しんだこと。
大好きな……今日一日でとっても大好きになった、マーガレットとフリージアと一緒に、姐さん達をもびっくりさせた『ルートオブセブンスフロート』に行ってきた!
『もも』が私を大好きと言ってくれた。お話ができるようになった!
楽しかった。大冒険だった! 本当に夢のような一日だった!!!
でも……。
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一方で、人の悪意…『業』から垣間見られた恐怖。
リンデンを『生贄』にして、高価な……レアアイテムを持ち去った彼の『仲間』が許せなかったし、彼を初めて見たときのスライムと戦っている裏切られ怯えた顔、自業自得という喪失感の顔が忘れられない。
帰ると待っていた、その3人の死。血糊のついたローブ。
それを見て、知って、壊れてしまったときのリンデンのあの顔……。
そんな惨劇を、悪意を持って誘発した人物がいたという。
そして、恐らくはその悪意に対してだろう、ルイゼが一瞬だけ『感情を隠し切れなかった』ときのあの顔。
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少なからず、『マザーの子』との会話や『もも』達への命名など、それらの発端に、自分が影響を与えてしまったのかもしれないと聞いて……エヴァの胸はちくちく痛い。
お父さんも……人のそんな悪意に負けてしまったんじゃないかな?
そう考えてしまう自分もいて……それを考えるとエヴァは息が苦しくなる。
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「フィオレ姐さんが言っていた通りだよね。サーシャさんが教えてくれた迷宮探索家の、人間の悪意……怖いと感じたよ。なんか悲しいね『もも』。」
酒場の上、屋上になっている屋外テラスで、エヴァは『もも』に呟く―――。
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テラスに出る観音開きの扉の陰に、月夜の光に隠れるように潜むフィオレは、そのエヴァの呟きを聞いて やっぱりな ……と心の中で思う。
(迷宮探索家初日で、あれだけのことがあったんだ。冒険の喜び、感動だけではなく、それ以上の悲しみや恐怖も感じたよね……。特にこうゆう悪意には、エヴァは耐性がないものね……。)
フィオレが、彼女の話を聞いて慰めてやるかと、外に出ようとしたとき―――。
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エヴァの導きの妖精の桃色の光がエヴァの周りを くるくる と回りだし、(フィオレの気配に気が付いていたのであろうか……)フィオレに目線を向け "パチッ" と片目を閉じ、ウインクで『大丈夫だよ』と合図をしてくる。
フィオレはそれに驚くも、再び扉の陰に潜みその光景を見守ることにする。
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『もも』の桃色の光は……エヴァに残光を残し空へ昇っていく。
「もも?」
空を昇る自分の半身が、ふたつの月に重なり、月明かりに照らされ魅せるその姿に彼女が魅了されたそのとき―――。
エヴァの周りに残った光が彼女の体に吸い込まれ、彼女は薄っすらとした桃色の光沢を纏う。
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そして、その光は、彼女の体から不安とともに溢れ出し、小さなテーブルに小さな小さな『お花畑』を産み落とす。
ガーベラ、コスモス、夜の月見草、そして、マーガレットにフリージア。
白からピンクの花色が、ふたつの月から注ぎ返されたその幻想光を浴び、ほのかに香り立つ花の園。
―――パタパタパタ
お花畑に、ちょこんと止まった『もも』がエヴァを見て云う。
『えばぁ にんげん こわい でも まあがれと ふりじあ あったかいー』
「もも……。」
『だか ら ね おそれない で えばぁ そのまま だいじぶー ね!』
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花の妖精は、月明りを背に優しく神秘的に、エヴァへ微笑む―――。
胸に刺さる『この棘』は、きっとやっぱり、無くなりはしないのだろうけど。
それを知っていればそれでいいと、そう彼女は思えて……。
月光を浴びて、花の香りに友人の温かみを感じて、
彼女は、何時ものように、思いっきり白い歯を出し、導きの妖精に笑顔を返す。
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「ありがとう。もも。」
しばらくの間、その光景と夜風とひとつとなっていたエヴァが、お礼の言葉を口にすると花園は霧へと消えていく。
『もも』は、《《テラスの扉》》に向けて、にっこりと笑う。
エヴァの安心を確認するかのようにその『影』は、瞬刻その場に留まり、ほのかな優しい花香を残して、小夜の闇に去って往った―――。
自室に戻ったエヴァは、月の光に導かれ、ゆっくりと瞼を落とす。
深い眠りの中で、エヴァは、長く、沢山の出来事のあった『最初』の冒険の一日を終えていく。
―☘第3章:Fin ✿
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✿ 読者の皆様
これにて ✿ 第3章:月明かりの妖精 ✿はおしまいです♪
お読みいただきまして、ありがとう☆ございます。
第2章を受けての後始末のようなお話でしたが、如何でしたでしょうか?




