第48話 『因果の先』✿会の終わり(おまけ)カイトとムフフ
「予想外だねぇ……まったく。でもまぁ、伝えたかったのはこの魔核も当然神秘の涙で、ボウズの仲間は《《これを持っていた》》から『きゃっぴー』に狙われた。そして、これを食った『きゃっぴー』がメタモルフォーゼして繭の中で彼らは養分となり死んだ。」
「だから……食われた。神秘の涙というのはやはり……。」
「だから彼らが食われたのは自業自得、因果応報ってとこさね。それに……。」
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ルイゼは敢えて神秘の涙のことには触れず、その『因果の先』についてサーシャに答えるよう顔を向ける。
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「はい。形見のローブから『幻惑貝の魔香水』の原液が見つかったそうです。恐らくは何者かが、彼らが逃げるのを阻止して戦わせた形跡があります。」
サーシャは立場上、悲しくも信じがたい事実を噛みしめながら、彼女達に……エヴァに知ってもらうために、伝える。
「そういうことだ。なのでボウズ、お前が原因を作ったのは確かだが、奴らを殺し、この状況を作り出したのは、多分お前じゃない。」
「いったい誰が……そんな……新人を相手に……。」
憎しみと罪悪感の表情を浮かべ、リンデンが蹲る。
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「君のその豆腐メンタルは何とかしないとね。これが、迷宮探索家の人の『悪意』ってやつ。特にエヴァ、あのとき、試験のときに、サーシャから言われたことは、まさに「これ」。分かる?」
ルイゼに任せて黙っていたフィオレが、リンデンとエヴァの顔を見て言う。
「その犯人は、多分見つからない。『心当たり』が無くはないが……余りにも偶然の要素が強すぎる。それに、そこに踏み入るには、お前達にはまだ早いし、弱すぎる。そして、私がお前達に話してやれるのは、ここまでだ。」
ルイゼのその言葉で、娼館での『秘密の部屋』会議は終わりを告げる。
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エヴァは、最後のフィオレの言葉に、人の悪意の実感に、胸を締め付けられるようなチクチクとした何かが痛かった。
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ルイゼは、話の後にリンデンを呼び止める。
そこでの話は、先に話の合った、彼が何故『レッドスライム』のことを知っているのかについてであった。
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過去に数度あった第2階層の悲劇―――。
その内のひとつに、彼の祖父が関係していたこと等を交えて、しっかっりと話をしたようで、
「そうか、色々言われるかもしれないけど、あんたも頑張んな。それでエヴァちゃん達を頼んだよ。」
と、ルイゼは優しく彼の頭を撫でる。
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一方、エヴァがカイトに笑いのネタにされている頃、フローラはマーガレットに飲み物をそっと出す。
少しの間、談笑を楽しんだ2人であったが、フローラは席を立ち酒場に向かう。
暫くして、戻ってきたフローラがマーガレットに耳打ちをすると、マーガレットは
「今日はいろいろありましたが、楽しかったですわ。そろそろ、お暇をさせて頂きますので、明日の時間を教えて頂けますか?」
とサーシャに聞く。
サーシャは、概ねの事態を把握しているため、3人に明日の朝一番にギルドホールに集合と伝える。
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「エヴァさん、フリージアさん。いろいろとお話すべきことがございますが、今日のところは、すみません。また明日! ですわ。」
「あ、お迎えが来たんだね? 分かったーまた明日!」
エヴァには、何となくマーガレットが高貴な人だとは分かっていたし、フローラ姐さんの気配りが、お客様に見せるそれと同じであったことから、笑顔でマーガレットを見送った。
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サーシャは、結局自分は何も出来なかったなと落ち込んでいた。
特に、この娼館では言えないことも多く、口を瞑るしかなかった。
それは、フリージアにすら透けて見えている。
「サーシャさん。後でギルドで聞きたいことある。それに、こいつとも話をするんでしょ? だったら一緒に世界樹へ帰っていい?」
正直、聞きたいことなんてないのだけれど、それは、フリージアなりの不器用な気遣い方で、サーシャはそれが分かり「うふふ」と嬉しそうに、リンデンとフリージアにギルドに戻ろうと声をかける。
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エヴァは、彼女達を裏口まで、談笑を交えながら送る。
彼女達の去り際、やっぱり、少しだけ……言おうか迷ったのだけれど、やっぱり……心配だったので、エヴァはリンデンに声を掛ける。
「リンデン、大丈夫? 乗り越えられる?」
その言葉が嬉しかったリンデンは、ただ頷き笑顔を返す。
「サーシャさんが何とかする。私達はこいつが無事新人卒業をすることを祈って待てばいい。ね? サーシャさん。」
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「うん。 ザコイチさんも言っていたけれど、これが、迷宮探索家なの。だから、問題にはならない。まぁ……家族がどう捉えるかとか心配事はあるけれど、考えても仕方ないし、ギルド的には『お互い様』と考えるからそこは守るよ。」
「うん。わかった。」
エヴァは、そのサーシャの顔を見てお願いします、そんな顔でそう答える。
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その姿を少しだけ離れたところで、フィオレは少し心配した顔で目見守っていた。
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「で? そのテンプレのおっさんは?」
フリージアがエヴァに聞く。
「あー。多分、カイト姐さんの『お客さん』になっているんじゃないかな?」
「うわっ……。」
「まぁ……!!」
エヴァが当たり前のように答えたその言葉に、フリージアは心底嫌そうな顔をして、サーシャは頬を染めてもじもじするのであった。
❀✿❀ お ま け ❀✿❀
「カイト、2割引きで……。その……今日頼めるか?」
「ん? いいぜ。2割引きでこれだけど、いけるのか?」
「え? え? え? こんなに?」
「言ったでしょ? カイトちゃん高いって。私はもっと高いけど。」
「そんなに……ねぇよ。」
「ちっ、仕方ねぇなぁー。」
カイトはザコイチの顔を両手で掴み、唇を重ねる。
彼の唇は、彼女の舌で開かれ、それが激しく絡んでくる。
「うお……ぉ…ぉぉ…。」
ちゅぱーと音を立てて離れる彼女の唇が残した先には、目は虚ろ、だらしなく開いた口元、広がった鼻のだらしない顔。
「お前も頑張て迷宮行ってこい。で、『つ・づ・き』……しような。」
耳元で、小さく優しく、甘えるような声で囁かれる ザコイチ。
「オ……オレ メイキュウ ガ…ガ……ガンバル!!!」
「ホイ、いっちょ上がり! 贔屓にな!」
「あらぁ。カイトちゃんのそれ……強烈だものねぇ。落ちちゃったわよねぇ。ふふふ。」
『双舞子』のその正直な声は、彼にはもう届かない。




