第46話 莢蒾(ガマズミ)の目覚め
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「覚悟はしたね? 正直に言うとここから先は、少しばかり伏魔殿。パンドラのなんちゃらってやつでもある。特に、『パリス・デイジー』。私にとっては、それは何の抑制にもならないよ?」
ルイゼは、マーガレットを睨むような視線を送り告げる。
「あら。わたくしは、ただの新人迷宮探索家でございますわ。一応新人の中では、『特S級』ですけれど、それもわたくしの実力! それ以上があるならば……」
そして、エヴァとマーガレットを見て、美しい目と艶やかなピンクの唇を細めにこり微笑み、ルイゼの方を改めて見る。
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「それ以上があるならば、わたくしは、ここにいるエヴァさんと、フリージアさん。そして、そこでガタガタ震えている情けない殿方と、新人を卒業したら『チームを組む』もの。それだけですわ!」
その瞳、その言葉の響き。
そして、凛とした態度を見て、ルイゼは、その覚悟は《《らしいな》》と思う。
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「その言は良しだね! あんたもこっち側と判断するよ。まぁ……後で自分で説明しろとまでは言わないけれど、この子達に伝えることを作ってしまったね。すまなかった。」
「いえ。伝えるタイミングの話だけですし、わたくしは、信じておりますので。」
少し俯きながら目を閉じてそう言うマーガレットであったが、口元は緩んでいた。
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さてと、とルイゼは、リンデンを見る。
先程のエヴァ達からの第2階層の顛末を聞く限り、リンデンは凡人だ。
ただ、あの黒猫と建設的な話ができる知識がある。
こいつのメンタル以外の人となりは……恐らくこの子達、エヴァちゃんも認めて要るんだろうねぇ。
―――さてと、『目を覚まして』やるか。
少し待っていなと、部屋を出るルイゼ。
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それを見て、フィオレがエヴァに耳打ちをする。
それを聞いて、フィオレに抱き着き『花』ルーンのお守りを握るエヴァ。
「おい。リンデン~聞こえてっか? おーい。」
リンデンの目線を、カイトの開いた手が何度も通り過ぎるが、彼の目線はそれに反応していない。
「ふん。ザコイチ、母さんが戻って来たら多分こいつまた……任せていいか?」
「わかった。」 と、カイトの言葉に首を縦に振るザコイチ。
「待たせたね。」
部屋の扉が開き、ルイゼが手に薬草の類を煎じたのであろう薬を持って帰ってくる。
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「エヴァ、この子をこっちに戻すよ? 用意は……できてるみたいだね。」
ルイゼがフィオレをチラッと見てから、エヴァに言う。
「うん。」
エヴァは、華のタリスマンに魔力を込める。
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花よ舞え、わたしと共に理を解き開けッ―――
―― ✿『花』魔法 アキノキリンソウ
リンデンの周りに、黄色い可愛らしい花が舞う。
舞った花々が、彼の警戒心を無理やり高めていく。
そして、散漫していた集中力が上がっていく。
「は……僕は…僕は……。僕は……。ぼくはあああああ。」
リンデンは感覚を無理やりクリアにされ、考えないようにしていた感覚が蘇ってくる……。それにより居た堪れなく、叫びかけたその瞬間、ザコイチが「おい」と一言リンデンに声を掛ける。 そして……。
――― バチンッ!!!
彼の頬を、強く、加減もせず、ただ気持ちを込めて叩く。
一瞬何が起こったのか、目の瞳孔が開き固まるリンデン。
それを抱きしめて言うザコイチ。
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「落ち着け、わかってる。『俺も同じ』だった。俺も仲間を殺した口だ。だからわかっている。『頭』では分かっているんだろ? さっきは錯乱だったが、今は大丈夫なんだろ? 俺は知っているんだ。落ち着け、そしてこれを飲め。」
ルイゼがすっと出した薬をザコイチは受け取り、彼の顔を持ち上げ、《《目と目で》》会話……強いメッセージを送る。
そして無理やり口を開け、薬と水を流し込こむ。
「サネブトナツメの種子とナツメの実を煎ったものに、ラベンダーの精油と、『きゃっぴー』の糸を煮詰めた出汁を混ぜて作った丸薬だ。落ち着いただろ?」
「うん……。」
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子供のように頷く彼のその姿を見て、ザコイチが縋る様な目でエヴァを見る。
わかったよ。
エヴァは、リンデンの前で屈んで彼の頭を撫でる。
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痛いよね。
辛いよね。
あなたが悪い部分もあるのだけれど。
でもね、それでも、頑張ってたの見てたから――。
少しの間だけれど、一緒に、背中を、命を、預けた、仲間だから――。
だから、一緒に、背負わせて? みんなで、もう一回、行くんでしょ?
彼女の嘘偽りのない言葉が、彼の三半規管をゆっくりと震わせる。
言の葉の揺らぎに、彼の眼の黒い部分が少しづつ、少しづつ輝きが戻ってくる。
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気が付くとあたかい温もりが『6つ』。
マーガレットとフリージアも
そして、彼女達の導きの妖精が、手を彼の頭に置いている。
フリージアがひとこと小さく呟く……。
❀ 『うざい。早く目覚めろ。恰幅。』 ❀
――― ✿ 『花』魔法 アキノキリンソウの黄色の花が 彼の中心に 舞う
舞う 舞う 舞う 舞う
舞い……そして、それは花吹雪となり 舞散る 踊る――
涙が止まらないリンデン。
うぐっうぐっと言葉を詰まらせる。
だけれど、彼のその涙は、しっかりと現実に向き合った涙。
きっとその涙はそれだけではなく……ほのかに "かほる" 何か。
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「ふん。これで大丈夫だな。それと、お前は何も罪には問われねぇんだ。安心しろ。悲しいけれど、迷宮探索家の世界では……普通なんだ。」
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その言葉とは、裏腹に、ザコイチの顔はリンデン以上にぐちゃぐちゃで……。
泣き止むまで、それを見ていた一同の顔には、笑いと優しさの花が咲く。
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そして、その笑顔の花の中には……『リンデンの花』が咲き誇る。
彼の名前、リンデン・ビバーナムの名に恥じないように、彼女達と作るチームを『結びつける』ように、その笑顔は団結を深めた。




