第45話 『他言無用』と娼館酒場
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サーシャは迅速にエヴァ達のクエスト処理を終える。
そんな中、ふと彼女達が導きの妖精に名前を付けていたことを思い出す。
「ねぇ、あなた達。導きの妖精に名前を付けたんだね?」
そのサーシャの言葉に、暗い雰囲気であった3人の顔に赤味が戻る。
そして、3人は手の甲を上に上げ、白と黄色と桃色の光を呼ぶ。
飛び出した3人の導きの妖精も、リンデンのことを分かっているのであろうか。3人の頬に自分達の頬を摺り寄せる。
「ありがとう大丈夫」と導きの妖精の頭を撫でる3人。
そして、サーシャへ大切な自分の半身を紹介する。
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「あと、わたくしにはもう一人紹介したい子が。『カナリア』お願いしますわ。」
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最後に導きの妖精を紹介したマーガレットが、愛しいカナリアにお願いをする。
彼女は、コクンと首を振り、導きの妖精の収納機能から『イエロースライム』を召喚する。
ぴょこんとマーガレットの肩に現れた『イエロースライム』が "きゅい~"と鳴くと、3色の導きの妖精が擦り寄り嬉しそうに言う。
『『『すらいむーすらいむー』』』
それを見たサーシャが震えながらマーガレットに聞く。
「マーガレット……さん。こ……これは?」
「はい。わたくしに心を許してくれたスライムさんですわ!」
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改めて彼女のカードを確認する。
ティムされている。確かに『イエロースライム』が……★のマークと共に。
そして、改めて今起こったこと、彼女達が言ったこと、を振り返る。
「えーと……。歌って? 踊って? 気遣う導きの妖精だったっけ? それに、今スライムに向かって喋らなかった? この子達……?」
「え? 導きの妖精って歌って踊って喋って気遣うものじゃないの?」
「お歌も踊りも、大変上手でお美しいですわよ?」
「うん。綺麗だった。」
あぁ……頭がパンクしそうだ。
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普通の導きの妖精は、歌えないし喋らない。
ある程度の自我はあるけれど、それは迷宮探索家の気持ちに反映されてであって、自分から踊ったり気遣ったりはしないもの。
先程の頬ずりのように、落ち込んでいた彼女達の意思の裏返しなら分かるのだが、どうも彼女達の言い方から察するに、独立した自我があるように思われる。
そのような異例がないこともないのだが……★モンスターのことも含めて、後で『華の蝶』の方々に相談をしよう。だが、その前に……。
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「マーガレットさん。そのスライムは★です。人には気づかれないように。そして、ティムモンスターは世界樹の中以外では召喚しないように。弱ってしまいます。」
「まぁ!」
「そして、あなた達全員に言っておきます。普通の導きの妖精は、歌えないし喋らないの! だから、気を付けて……はぁ。」
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その疲れた顔のサーシャに、『もも』が飛んで行き耳元で囁く。
『だいじぶ ないしよだよ』
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その囁きに、何故だろう……サーシャは落ち着きを取り戻す。
そして、エヴァ達に改めて注意事項を伝え、迅速に彼女達のクエストの処理を終わらせると、足早に執務室に向かう。
上役のシトラスにリンデンのことを伝え、一緒にあの災いから帰還を果たしたエヴァ達とともに、『双舞子』が彼を落ち着かせるために運んだ娼館『華の蝶』に向かう許可を得て、3人の『特S級新人』を連れて世界樹迷宮を後にした。
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王都アウロの端にある色町。
その中でもひと際立派な佇まいの建物、娼館酒場『華の蝶』。
エヴァ達を連れてサーシャが着いたときには、陽は沈みかけており辺りはオレンジ色に染まっていた。
エヴァが娼館の裏口から彼女達を通し、酒場の奥にある『秘密の部屋』に案内をする。
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中に入ると、御影石の内装に高級な皮のソファーとガラスの大机、そして、娼館女将さんのルイゼ、娼館No1のフィオレ、『双舞子』の2人、ザコイチに朦朧としながら支えられているリンデンが座っていた。
リンデンを見て、少し辛そうな声で「ただいま」というエヴァ。
優しい眼差しで大人しい声で「おかえり」と返す女将さんと姐さん達。
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3人が席に座ったのを確認して、ルイゼが「一体何があったんだい? 時間を掛けてもいいから、すべて話しな。」と、厳しい口調で、でも優しい表情で聞く。
彼女達は、初めての冒険で体験した『すべて』を話す。
そして、最後にエヴァが「黒猫の精霊さんが、ルイゼ達によろしくにょ。」
と、黒猫からの伝言を伝えると、ルイゼは「ハァ」と大きく溜息を付き
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「まったく、あの「にょにょ猫」は……。エヴァちゃん達を助けてくれたんだね。」
と、懐かしそうな寂しそうな表情でぽつりと呟く。
そして、エヴァ達を見て言う。
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「いいかい? このことは『他言無用』だよ! それが守れるなら少しだけ話をしてやる。守れるかい?」
その言の葉から伝わる重み、彼女から放たれる重圧、恐らくはそれが守れなければ、如何なるものでも制裁を下すであろう覚悟。
それを感じ、そして、それを無下にする程、女が廃ってはいない彼女達は、覚悟を決め、短く「はい」と答えた。




