第42話 恐らくは『半分』だ
✿ 新章スタートです。
『迷宮』ギルド担当官サーシャをフォーカスした、ギルド目線のお話から新章は始まります。
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慌ただしい一日になってしまったわね……。
まさか、あの子達の最初の冒険の日でこんなことになってしまうなんて。
彼女2人に任せれば、この事態は大丈夫であろうけど、エヴァちゃん達は大丈夫かしら……。
『迷宮』ギルドのサーシャは、低層階を禁止区域にする作業がやっと終わり、紅茶を入れ一息つきながら執務室で情報を待つ。
ギルドとしても、当然この段階まで来ると、ある程度の状況把握は出来ており、サーシャが見つけた3人が行方不明になったことは、残念ながら……把握している。
そして、その場所に彼女2人が辿り着いていることも。
そちらは、任せればいい。
だが、エヴァ達が戻らない。
ギルド職員として、その考えは不適切なのであろうが、その3人が彼女達ではないようについ祈ってしまう。その考えが、まるでヘビーローテーションで聞いている音楽の再生のように、彼女の頭にぐるぐると回っていた。
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暫くして、再び世界樹からの警告が鳴る。
彼女は、そこでもたらされた情報に背筋が凍る。
赤紫の蛾の女王 『パープルレッド・フィポフィコルス』ですって?
過去に数度あった第2階層の悲劇―――。
―――メタモルフォーゼ。
彼女だけではなく『迷宮』ギルド全体が凍り付く。
そういえば、あのテンプレ男ザコイチだけが、エヴァ達の話を出したら『双舞子』を追いかけてくれたことを思い出しながら、彼のことも心配をする。
上役のシトラスが、職員も臨戦態勢に入るよう指示が出る。
彼女も自分の装備を整えて戻った時には、既にことは終わっていた。
恐らくは『双舞子』が、その実力を示したのであろう。
サーシャはほっと胸を撫でおろす。
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数分後、白髪でスーツの凛とした男……ギルド長が彼女の前にやってくる。
恐らくは……あの子のことでだろう。
彼は、サーシャに確認をとる。
彼女からの話を聞いて彼は、「そうか……」とぽつりと言って去っていく。
もしものことを考えてであろう。その顔は何かを覚悟していたように見えた。
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それから、2杯目のコーヒーをカップに入れ、『はにびー』の蜂蜜をスプーンでかき混ぜ、その黒い渦を眺めて溜め息を着いたとき、同僚の担当官が執務室に入ってきてサーシャを呼ぶ。
『双舞子』が帰ってきて、彼女を呼んでいるらしい。
彼女は、急いでロビーに向かう。
椅子に胡座をかき、右手で頬杖をつくA級迷宮探索家のカイトは少し不機嫌そうだった。
相方のフローラの目にも、いつもの穏やかな瞳ではない。
そこには、ザコイチも一緒にいた。彼も浮かない顔をしている。
「おう、サーシャ! 終わったけどよー。ちぃーと追加報酬を寄こさないと暴れるぜ?」
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報酬で事態の深刻さを暗に伝えていることを察し、サーシャはエヴァ達を示し合わせたミーティング室に彼女達を通し、白髪スーツのギルド長を呼んだ。
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「そうか……その3人を見つけることは出来なかったか。」
ギルド長は、フローラから渡された紫のローブを眺め呟く―――。
『双舞子』とザコイチから、赤紫の蛾の女王『パープルレッド・フィポフィコルス』の顛末を聞き、恐らくはこのローブが彼女の形見となり、残りの2人はそれすらもないことを確信する。
同席していたシトラスに、その人物達の特定と彼女達への追加報酬を命じて、紫のローブを机に置いて、彼はシトラスと共に部屋を後にする。
その顔には、「あの子ではなかった」安堵の表情と、新人が迷宮探索家フロンティアで命を落としたことに対する無念さと複雑な表情が浮かんでいた。
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「すまねぇな。実はまだ言ってないことがある。」
ギルド長達が部屋を出て、足音が聞こえなくなる頃、カイトがサーシャに少し申し訳なさそうな顔で言う。
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「実はな、今回のメタモルフォーゼ、原因は『神秘の涙』だ。」
サーシャはごくりと唾をのむ。
「それじゃぁ……。」
「あぁ、俺の導きの妖精『あずき』が持っている。」
「ただ……恐らくは 『半分』 だ。」
半分? サーシャは事態が掴めない。
「それは、どういう?」
「すまねぇな。『神秘の涙』な時点で、ここでは……。」
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あぁ……そうだった。この人達の世界樹に臨む理由は『神秘の涙』だし、それはここでは出せないよね。と彼女はそれで了承する。
「お前だからこれは報告しておく。後どうするかは、ルイゼ母さん次第だな。」
「わかりました。それでは、報酬の話に移りましょう。」
サーシャは、彼女達の『迷宮探索家カード』を謎ボードに置き、謎キーボードで処理をしながら、『双舞子』とザコイチと追加報酬について協議を進めていく。
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コンコンコン――。
ミーティング室の扉がノックされる。
扉の近くにいたザコイチが、サーシャに頼まれて扉を開けると……。
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「あれぇ? ザコイチ先輩!? 部屋間違えたのかな?」
「まぁ?」
「わっ!」
「よう、エヴァ! 遅かったな!」
カイトは、エヴァがここに来ることを知っていたかのように彼女に言う。
「あっれ~? カイト姐さん、フローラ姐さん。と、ザコイチ先輩!? サーシャさんも居る。あれぇ?」
エヴァは部屋の中にいる面々を見て驚く。
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良かった……良かった……無事だった。
きっと、とっても大変であったのだろう。
謝らなければ……。そして、私が労わってあげなくては。
「エ…エヴァちゃん。ごめ……」
「初日から非常時だなんて、やっぱお前は持ってるなぁ!」
「どう? エヴァちゃん楽しかった?」
サーシャが、謝ろうとした声に『双舞子』が言葉を被せる。
「うん! すっごく面白かったよ! あとね……ウシシッ。」
エヴァは仲間たちと顔を見合わせる。そして嬉しそうに、本当に楽しそうに言う。
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―――『ルートオブセブンスフロート』に行ってきたよー!
『は? ええええええ―――??????』
首を傾げるザコイチを除く3人の驚嘆の叫びが『迷宮』ギルドに木霊する―――。




