第36話 『迷宮』ギルドのテンプレ男
エヴァ達が『スライムエリア』でガジュマルの樹に入っていった頃、「双舞子」の2人は、その周りに集まる『きゃっぴー』の大群を、どんどんと削っていく。
大鎌…「サイズ」と呼ばれる武器を得意とするカイトは、雑草を刈るかの如くその鎌を水平に振り回し、『きゃっぴー』の吐き出す糸を切り、首を跳ねと暴虐無人に動き回る。
また、フローラは手首の特殊な籠手に巻かれた「薄い鉄製の糸」に付いた「金色のリング」を巧みに操りながら、こちらも次々と『きゃっぴー』を駆逐していく。
そこは、A級迷宮探索家。
第2階層最強といえど所詮新人狩場の芋虫如き、どれだけの数を殲滅していても息一つ切らせない。
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それでも……と彼女達が思うのは。
最悪となれば、多少面倒な状況を作り出すと考えており、討伐のプロとして最悪を避けるためにも、数だけは脅威のその芋虫達をひとつひとつと削っていく。
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「あらぁ。これ、予想以上に増えているわね。」
「気持ち南からの数が増えている……か。あっちで何かあったのかもしれねぇな。」
「先程から繭も攻撃してみているのだけどぉー。『きゃっぴー』のくせに、命を懸けた糸は流石に厄介よねぇ。」
「そうだなぁー。まぁ、繭から羽化すれば、そこは大丈夫だろう。問題は……。」
「お馬鹿な新人が、この暴走芋虫の進撃に巻き込まれていないか……よね。」
「まぁ、エヴァは大丈夫だろうが、その仲間が巻き込まれないとは限らないしな。」
と、カイトが少し心配をしたとき、後ろから何かよわよわしい気配がした。
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『あんた達A級の! エヴァ……あの子は大丈夫なのか?』
「あらぁ? あなたは……。」
「ぷっ。『ザコイチ』じゃねぇーか! どういう風の吹き回しなんだ?」
そこに駆け付けたのは、まさかのテンプレ野郎の『ザコイチ』で、カイトが吹き出しそうになる。
「酒の摘みに新人をいびって遊んでるようなクソ野郎が、何しに来たんだ? エヴァを知っているのか?」
「あぁ……。あの子達が迷宮に向かう時にちょっとな……。」
顔を少し赤らめたザコイチに「あらぁ~」と悟ったようにフローラが彼に言う。
「エヴァちゃんの無垢な魅力にやられちゃったのね? ふふふ。私達もエヴァちゃんを助けに来たのだけど、会っていないわ。でも、あの子は大丈夫よ。」
「あ~やめとけやめとけ! あいつはそーゆーのは、俺達の情事をしこたま見ているせいか、ちょっと麻痺しちまってる。お前じゃ天地ひっくり返っても無理だぜ?」
ジト目でニヤニヤと「双舞子」が『きゃっぴー』を駆除しながらザコイチを笑う。
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「そんなんじゃねぇ! ……そんなんじゃ。ただ、サーシャからあの子が帰らないって聞いちまってな。」
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「……俺は、さっき見て救われたあの子の笑顔が、たった数時間で見れなくなっちまうのは耐えられねぇんだよ! 笑いたければ笑え。俺が一番何でこうなのか不思議なんだよ! でも……だから、何か手伝わせてくれ……頼む。」
「双舞子」のふたりは、お互いの顔を見て、ふっと笑う。
「んじゃ頼む。一応D級だろ? この芋虫を間引いてほしい。それで、あの禍々しいのが孵化したら、あの岩陰に隠れろ。それがエヴァを助けることに繋がる。」
「分かったが、これはどういう事態なんだ? 思っていたより異常なんだが……。」
「まぁ、今それを説明してもしょーがねぇ。終わってからギルドでちゃんと説明してやる。ところで、お前以外の奴は……って、聞くだけ野暮か。」
「あぁ。第2階層の事件なんて誰も気にもしない。来たのは俺だけだ。」
「……ふーん。お前、今度娼館に来たら『1割引き』で抱かせてやるよ!」
「え? まじか?」
「くす。でも、カイトちゃんは高いわよ~。私はもっとだけど。」
「双舞子」のふたりは、「雑魚①」なのにエヴァの身を案じて来てくれたこいつの存在が、内心嬉しかった。
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自分達がここにいる以上、その結果は同じで、正直ザコイチが居ても居なくても、それは変わらない。
だが、彼は「エヴァのため」に来てくれた……それが無性に嬉しいかった。
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以外にもザコイチは、思いのほか頑張っていた。
大した強さも、特質した技もないが、予想外にも根性が座ったいた。
体力面もそれなりで、「双舞子」の2人が思う数よりも多くの『きゃっぴー』を、無駄に大剣を振り回し倒している。
だが、その体力も削られてきており、そろそろ休ませた方が効率的であろうという頃に、「赤き紫の空気」は繭を包み、地を揺らすような波動で、ドクンッと大きく鼓動する。
「ザコイチ、男前だったぜ! 岩陰に隠れて休め。こっからはA級の領分だ。」
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カイトは両耳とへそに鈴のピアスを付け、フローラは神楽鈴を持つ―――。
禍々しさを増す繭は、背の部分が割れ出し、そこから班目のような幾重にも裂けた、気色の悪い赤紫の羽が広がっていく。
シャーン シャーン……
シャーン シャーン……
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鳴り出した鈴の音をバックに、その繭からの変態は、赤紫の羽から舞い落ちる鱗粉を撒き散らし、その姿を露わにする―――。
だが、それは一瞬の栄華であり、その進化の変態は一刻も維持することなく、儚くも散ることとなるのだが。




