第35話 世界樹の『根』と黒猫の守護者
4人が辺りの様子に目を向けると、『きゃっぴー』は進撃の動きを止め、赤い目を点滅させながら、動きを真北に向けて再び進み離れていく。
そして、マーガレットの足元に集まったスライム達は、きゅいきゅいと愛おしそうに鳴きながら、彼女の足に全身を擦り付ける。
その光景に一同は、良く分からないけれど、この異変はこれで終わったんだなと思い、安堵と共に、ニシシと白い歯を見せるのだが……彼女達が忘れていたもうひとつのガジュマルの緑の花が、彼女達を世界樹の小さな秘密に導いていく。
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忘れていた強く回る『花』魔法ガジュマル花の「緑」の光。
この瞬間を待っていたかのように、強烈な輝きを突然に増していく―――。
安堵とともに、笑顔を見せていた彼女達は、再び起こる異変に焦りの表情を見せるが、妖精とスライムの表情は明るい。
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ガジュマルの『緑』の光が渦を巻き、空を目指して伸びていく。
その光のある地面が、むくりと盛り上がり、小さな新芽が芽吹く―――。
その新芽は、ゆっくりとゆっくりと大きくなり、エヴァの身長の倍くらいの大きさでその成長が止まった。
その姿は、根が地上に立ち上がったような姿。
「気根」と呼ばれるその根は、緑の葉を付ける幹の部分を持ち上げるように神秘的に、そして天を目指すかのように、直立に構え誇り立つ。
「あ。これ、ガジュマルの樹だぁー。」
エヴァが、その樹木が何なのかに気が付き、自分の頭の上、手が何とか届く位置にある濃い緑のつるりとした葉を撫でる。
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『そうにょ。流石『花』魔法のお姉ちゃんにょ。』
マーガレットに抱き着いて離れなかった「黄色いスライム」が、急に気だるそうにエヴァに話し出す。
「あらぁ、この子。」
「ス……スライムが喋ったぁ~?」
驚くマーガレットとフリージアに、「黄色いスライム」は "ふん" と言いながら、話を続ける。
『今の『触媒』はレッドスライムにょ。だからその落とし子のこのスライムの身体を借りて話しているだけにょ。僕は……まぁそれは後で良いにょ。』
マーガレットから、ぴょんと飛び降りてガジュマルの樹までぺたんぺたんと歩き、そのスライムがその気根に触れると、気根が両脇に寄り、門のような空間ができる。
『着いてくるにょ。』
そう言うと、黄色いスライムはその空間を《《降りて》》いく。
「え……えええぇ?」
「にょ……?」
「あらまぁ。」
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3人の『花』娘達は、三者三葉のリアクションを取りながらも、再び口を開けて固まっているリンデンの耳をフリージアが引っ張り、ガジュマルの樹の門を潜り、「黄色いスライム」の後を追い降りて行く。
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門を潜ると何故だろうか、樹木の根に囲まれた洞窟のような空間が奥に続いており、その足元は階段状で、一歩一歩地下に降りて行く。
少しだけ歩いて降り進んで行くのであるが、その間にエヴァ達が「黄色いスライム」に話掛けても、『五月蠅いにょ。黙って付いて来るにょ。』と返事はその一点張り。
『さぁ、着いたにょ。』
スライムが案内したその場所は、木の根の壁と天井に囲まれたちょっとしたリビングルーム。その発言をしたと同時に黄色いスライムは、我に返ったかのようにきょろきょろとする。
その壁の真ん中に設置された、暖炉の前。
丸くなっている気だるそうな黒い猫が、眠たそうに薄目を開けながら、こちらに手招きをしている。
黒猫の元まで4人が足を運ぶと、黒猫は「にょ~」とひとつ伸びをして立ち上がるとその黄色い大きな目を見開き、エヴァ達を見定めるように見ながら自己紹介をする。
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「よく来たにょ。『花』魔法の姉ちゃん達。僕はビュレトと呼ばれる世界樹の『根』を守る猫の精霊にょ。」
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「ある世界では悪魔と呼ばれていたけれど、ここでは精霊にょ。その他の世界では、ガジュマルの精霊……「キジムナーの精霊」とも呼ばれていた存在にょ。」
と、自分のことを精霊だの悪魔だのと言い放ち、彼なりの挨拶を済ませる。
「ふーん。良く分からないけれど……はじめまして猫ちゃん。ここは何処? ここで何してるの?」
エヴァが何時ものように、にかぁとした笑顔で黒猫に挨拶を返す。
「無駄に魅力が高い『花』のお嬢ちゃんだにょ。魅了を覚えかけている……にょ。まぁ、お前には丁度いいのかもしれないにょ。」
「ふぇ?」
「いや気にしなくていいにょ。それより、僕はその質問には先程答えたにょ。『世界樹の根を守っている』って。」
ん~? と首を傾げるエヴァの後ろから、リンデンが汗びっしょりになりながら、小さな声で黒猫に聞く。
「ぁ…ぁの……。」
「何にょ。小さな自己嫌悪欲に負けたヘタレ。」
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「あ…う……。あのですね。こ…ここは、ひょっとして『ルートオブセブンスフロート』なのではないのでしょうか……?」
黒猫の長い眉毛がぴくんと動く。
そして、彼を見極めるように細目で眺めて、「あぁ……」と何かを納得したようにリンデンに言う。
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「そうか、お前はあやつの子孫かにょ。それでいてのその蛮行。本当に御し難いにょ。」
「そうですか、やはり……。」
ふたりのその会話には、当然3人の女性陣に置いてけぼりであり、フリージアの眉間のしわが『歪』な形にどんどん寄っていく……のであった。




