第34話 妖精たちの☘3和音
―― ✿『花』魔法 ガジュマルの花
地面に一度吸われた螺旋状に回る「緑」と「オレンジ」の光は、エヴァが対象としたマーガレットとは別の対象の場所に現れる。
しかも、「緑」と「オレンジ」はそれぞれ別の場所。
エヴァは「え?」と思うが、その制御は既に彼女の手を離れており、その光の行く末を見ることしか出来なかった。
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まず「緑」の光……であるが、一見何もないような地面から現れて、その地面で渦を巻くように周り、その回転を速めていく。
「オレンジ」の光は、実のところ「マーガレットの足元」に現れたのではあるが、その光の向かうところ……それは、『レッドスライムの外殻』であった。
マーガレットの腰ベルトに掛けていたその外殻は、オレンジの光の風にあおられて、彼女の絹のスカートをはらりはらりと靡かせて、ふわりと宙に浮かび上がる。
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外殻は、その『花』魔法ガジュマルの花から生まれたオレンジの光を、その中に取り込むように、光を集めて "ピカリ" と光る―――。
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「ふぇええ。何が起こってるのー?」
エヴァがあっけに取られていると、『もも』が桃色の光を強め、背中の羽を羽ばたかせながら、マーガレットの……光る外殻の方へ飛んでいく。
「ふぇ? もも?」
慌ててももを追いかけるエヴァであったが、フリージアも同じように白い光を追って走っている。
「スノウ! ちょ、ちょっとお!」
初めて見せる慌てた顔で追いかけるフリージアの顔が、その場の『不思議』を表しているのではないだろか。
とはいえ、走る線上にいる『きゃっぴー』を一瞬で切り刻むことは忘れないところは流石であったが、その顔とその偉業にエヴァは、走りながら少し笑いを堪えてしまう。
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「桃色」と「白色」の光は、オレンジの光を入れ込んだレッドスライムの外殻の前で待っている「黄色」の光と合流をして、飛び切りの笑顔で手をつなぎ、オレンジの光の周りを回りだす。
「え? これって?」
「もも達……歌っている?」
「綺麗な歌ですわねぇ……C、F、Gのメジャーコード~主要3和音がシンプルだけれど可愛らしい。」
と、マーガレットがその音に合わせて少し鼻歌を被せる。
「C、F、G? コード?」
「ええ。音楽で最も基本となる音の重なりとその流れですわ。しっかりと優しくその流れで彼女たちは歌ってらっしゃいますの。」
「ふぇええ、マーガレットって音楽出来るんだねー。尊敬!」
「これでも、神殿ではハープやオルガンを弾いてましてよ。」
「「かこいいい!」」
周りの『きゃっぴー』の進撃も、突然沸きだしたスライムのことなど、何もなかったように、妖精達の言葉のない歌声でテンションを上げてはしゃぐ3人に、リンデンが必死にスライム達と闘いながら、悲鳴を上げる。
「み、みなさん~~。そんなに楽しそうにしている場合じゃないですよ~~。」
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「あら? 居たのですわね。」
「今いいところ。頑張れ恰幅。」
「しぃー!」
「ふぇええん。皆さん助けてくださいよおおお。」
リンデンが再び泣きながら叫んだそのとき……。
「あら? 3人の歌の音が、代理コードに?」
鼻歌で合わせていたマーガレットが、その歌のコードの変化に気が付く。
「本当だ。少しだけ音色が変わったね。」
エヴァがその1音だけの小さな音の変化に気が付き、妖精達の歌う顔を見ると、先程までの満面の笑顔から、『祈る』ような顔付きに変わっていく。
その小さな音の変化に呼応するかのように、リンデンと戦っていた『スライム達』が青白く光り、その光が外殻に向かって飛んでいく―――。
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―――光が濃くなるオレンジ メジャーコードに戻る音階
その周りの3色の光の回転が速くなり、光が重なり眩く輝いたその後に
「きゅぴー」
その鳴き声と共に、わ~いと万歳をしている3色の妖精。
宙に浮いていた外殻は消滅し、目の前に小さな小さな「オレンジ」のスライム。
そのスライムが『マーガレット』の豊満な胸に飛びついてくる。
「きゃああ。なんですのー! この可愛らしい生き物はー!」
オレンジのスライムを抱き抱え、頬擦りをするマーガレットの横を ぱたぱた と『もも』が通り過ぎ、エヴァに『お願い』をする。
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『えばぁ はなまー はすーはすー おれんじ すらいむー 』
顔を振り、足をバタバタして『お願い』をする『もも』に、エヴァも笑顔で答える。
「わかったよーもも。きっと『花』魔法の "蓮" を掛けてあげればいいんだよね。」
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きっと、これがさっきももが言った「すらいむー」なのだ。
妖精達はスライムを助けたかったんだ。
うん。わかったよ!!!
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エヴァは『花』魔法でオレンジスライムに花咲かす✿
花開く音とともに、迷える御霊を救えッ―――
―― ✿『花』魔法 蓮
オレンジスライム全身を蓮の花が包み込み
『ポンッ』という音を立てて、花が開く―――。
試験のスケルトンとは少し違う咲き方をして『蓮』の花が天に昇る光りと化す。
その光と一緒に昇るのは、「オレンジ」スライムではなく、その身体から抜け昇る『赤色』のスライム―――。
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『ありがとう『花』の子――。その子をよろしくね。待ってた、良かった会えて。そしてありがとうね『もも』。……またね。』
『うん!またあー』と、笑顔で手を振る『もも』。
―――そして、天に召されるレッドスライムから光の雫が零れ落ち、光を放出して よわよわしく 震えていたスライム達の下に降り注ぐ。
その雫を受けたスライム達は、全身を震わせて、元気いっぱいにマーガレットの方に近寄ってくる。
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『オレンジ』から赤味が抜け、『黄色』になったスライムに、マーガレットの導きの妖精カナリアが近寄り「Chu-✿」とキスをして言う。
「まあがれとー きいろすらいむー まあがれとー いっしょ♪」
どの妖精よりも飛び切りの笑顔で喜ぶカナリアが、マーガレットにステータスを見せる。
「あら、あら、あらああ!!!」
驚くマーガレットに、エヴァもフリージアも首を傾げながら彼女を見る。
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「えーと……この黄色のスライムさん。わたくしのペットになっちゃいましたわ。」
「え? えええええええー!!!」
驚く2人の顔は「ずるいずるいずるいずるい」と、それを隠さずむくれ顔になっていた一方で……。
訳が分からぬ間に戦闘が急に終わってしまい、また、妖精が「しゃべり、歌い、踊り」、挙句の果てには、「スライムがペット」になってしまったこの展開に、リンデンは、口を大きく開けて、目を見開いたまま……しばらくその場で固まっていた。




