第33話 揺れる ふたつ
リンデンが震えながら、フリージアが剣技を振るいながら、『きゃっぴー』が到着する前に一掃していた『スライム』が、再び台地から生まれていく。
「こんな時に……。もう少しで何かが見えそうなのに。」
リンデンには、この ぷよぷよ した最弱のモンスターが厭わしく思えた。
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「リンデンさん。スライムさんのお相手は少しの間お任せしますわよ!」
マーガレットは、蓄積の矢筒から、矢を指に吸い寄せて、各方面に乱れ打つ。
その顔には、少しだけ疲れを感じさせ、リンデンは自分が何とかしなければとナイフを握るも、その前にひとつの指示を出す。
「エヴァさん。行けるタイミングで、皆さんに疲れを緩和する『花』魔法を。」
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彼の考えるエヴァの魔法の温存を解禁するタイミングはここであった。
特に、マーガレットの疲労は、顔から感じられるそれ以上となっていことを、手数や向ける気の張り方から、近くで見ている彼には良く分かっていた。
◇
「ん? 了解したよー!」
取り合えず後数匹となった南方の『きゃっぴー』を、早い方がいいだろうと「ぷち影縫い」を使い一瞬で3匹を斬りおとす。
最後の1匹の身体に剣を通した後、彼女は『花』ルーンのお守りを握りしめる。
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その時、エヴァに『えばうしろー』や『えばあっちー』と指示を出し、戦っているエヴァのちょっとした目を担っていた『もも』が、エヴァの目の前まで飛んできて囁く。
『えばー がじゅまー まあがれっとおー すらいむー』
「え、もも? うん、わかったよ。まずはマーガレットにだね!」
もものたどたどしい言葉には、今までにない強い意図が感じられる。
最後の『すらいむー』が何を示すのかはわからないのだけれど、マーガレットから、『花』魔法ガジュマルを付与してと言っているはわかる。
隠頭花序の隠れ花の如く、示す者の活力を内より活性せよッ―――
―― ✿『花』魔法 ガジュマルの花
タリスマンを握るエヴァの左手から、マーガレットに向けて、螺旋状に回る「緑」と「オレンジ」の光が放出され、一度地面に消えていく。
「えっ?????」
地面に消えたガジュマルの光。それが、現れたのは《《2つ》》の場所。
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「緑」と「オレンジ」の2つの光は、エヴァが魔法を掛けた先であるマーガレットに《《ではなく》》、それぞれの色に分かれて、他の2つに向かって現れる―――。
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「おうおう! こりゃちょっとヤベェな。」
カイトが小高い丘を滑り降りながら、フローラにぼやいている。
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「そうねぇ。あの禍々しい赤紫の色は、やっぱり……あれよね?」
「はぁ……。面倒臭ぇえなぁ。 あっこにいる迷宮探索家は、どっちなんだろうなぁ。」
エヴァ達がいる『スライムエリア』から見て、『マザーの子(DMT)』から少し方角がズレた「真北」の方向に向かって、「双舞子」は走る速度をトップに上げる。
◇
「双舞子」が向かう先———。
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そこには、リンデンを贄にして第3階層に逃げ帰ろうとした3人が、聳え立つ岩山を背にして、何十もの『きゃっぴー』に囲まれていた。
何とかその場を維持できていたのは、魔法使いの女の子の魔法『火の粉』のお陰であっただろう。
剣を持つ男の子達の身体能力は、新人としては決して低い方ではなく、赤目の『きゃっぴー』を相手にしても、一応は殲滅を続けており、また、時折食らう芋虫の粘液も、女の子の『火の粉』で焼き払いその場を凌いでいた。
―――しかしながら、その彼女の魔力に限界点が来る。
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最初のうちは、この連携であれば何とかなると希望を失っていなかった彼らであったが、斬っても斬っても終わらない『きゃっぴー』の波に焦りを感じ、粘液を絡める数が増えていく。そして彼女の魔力が遂に底をつく……。
女の子はその場に倒れ意識を失い、男の子は『きゃっぴー』の雪崩に飲まれていった。
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……そして、それは、残念ながら
「双舞子」がその場に辿り着く少し前のこと……。
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「間に合わなかったか……。」
カイトが、目の前の禍々しさを見て悲痛の表情でいう。
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「そうね。これは、繭かしら。芋虫が繭ですものねぇ……メタモルフォーゼ。」
フローラがそれを見て、その言葉を口にする。
「あの何重もの繭の糸は、周りの『きゃっぴー』の仕業か。自分の命を繭に込めてやがるな。」
「今のうちに少しだけでも、『女王』の力を削いでおきましょうか。」
「あぁ。しかし面倒臭ぇなぁ。後でギルドに吹っ掛けてやる。」
「そうね。さっさと終わらせましょうか。今夜わたしお店だし。」
褐色とレモン色の導きの妖精から、自分たちの得物を取り出す「双舞子」。
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その見つめる視線の先には、女性のものであろうか……紫のローブが、ひらひらと崖に生える低木の枝に掛かり寂しく揺れていた……。




