第30話 赤き目線の違和感
硬直から動き出した赤く目が光る『きゃっぴー』を横目に、3人がそれを通り過ぎたとき、それが、確かに一様に目指した先は『スライムエリア』であった。
北東の『マザーの子』から、この場所に向かう間に出会ったモンスターの1/3は『きゃっぴー』であり、その殆どの数がこちらに向かっている、その数は200~300を下らないのではないかと、彼女たちは考えていた。
それでも、お互いの力を合わせれば、何とかなる程度のモンスターだと考えていたし、流石にギルドが、ずっとこの事態を他っては措かないであろうとも考えていた。
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きっと、残れば大変ではある、でも死線を超える程でもない―――。
それならば、あのエリアを探索したい!!!調べたい!!!
その為には、まずは邪魔な敵を倒してしまおう!
彼女達は、貪欲に、剣を持つ手に力を籠める―――。
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「エヴァさんは申し訳ありませんが、『花』魔法を温存していただけますか? 恐らく長期戦となります。」
「疲れが溜まってきたら、ガジュマルを……だね。」
「はい。こちらに来るまでに少し使わせてしまいましたし。ただ、すみませんが『アセビ』でしたでしょうか。あの魔法をリンデンさんに。」
「だねー。数が数だからねー。」
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マーガレットの考えにエヴァは同意し、『花』ルーンのお守りを握りしめる。
鈴生に花開き、わたしに守りの加護をッ―――
―― ✿『花』魔法 アセビ
リンデンの右肩に白い鈴生りの花が咲く。
「これは?」
自分の肩に花が咲き、驚くリンデン。
「私の『花』魔法で「アセビ」の花なの。鈴生りの花の分だけ攻撃を受けても助けてくれるんだー。でも、痛いものは痛いから気を付けてね。」
笑顔で自分の魔法を惜しみなく説明するエヴァを見て、リンデンの胸は再びトクンと鼓動する。
◇
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最初に辿り着いた『きゃっぴー』の軍勢は15程度、芋虫らしく機動力が乏しいのがありがたい替わりに、以前にも触れたが移動を阻害する粘膜が嫌らしいモンスターである。
フリージアは、今回は前に出すぎない。
四方八方から、『きゃっぴー』は来るであろうと北東に睨みを利かす。
一方でエヴァは、南側を警戒しつつ最初の15匹に対峙する。
マーガレットは東側を見る。
リンデンは彼女たちの真ん中に位置し、成るべく西を警戒しようと震える足を叩き、一応は使える槍を妖精から取り出して構えている。最初の配置はこのようなものであった。
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――― マーガレット・パリス・デイジー。
女は言うまでもなく『名家の生まれ』であり、彼女の装備は見た目だけではない。
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腰に忍ばせる杖は、小型ではあるが『黄色水晶の杖』というレアもので、スタッフの先あるイエロークリスタルが、神官職を持つ彼女の「聖なる癒し効果」を跳ね上げ、媒体として魔力の負荷を軽減させる。
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そんな、優秀なサブ武器を持つ彼女のメインの武器は弓である。
『月のロングボウ』と呼ばれる彼女の母親から譲り受けた、一級品で、彼女の家に生まれた女系が代々受け継いできたもの。
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更に、背負う『蓄積の矢筒』は妖精達と同じくしてマジックバックのような機能を有しており、彼女の欲しい本数を彼女の指に届けるちょっとした英雄級アイテムである。
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この余りにも、特S級と云えど新人には、似付かわしくない装備を持っていることを彼女は余りエヴァ達に知って欲しくはなかった。
なので、彼女は「物の目利き」について、ある程度優秀であろうリンデンに、彼の足を回復しているタイミングで、こそりと、「装備の価値」については、触れないように頼んで……いや忠告をしている。
その理由を、まだ明かさない彼女なのだけれど……
それでも、その秘密を守るために、出し惜しみするような愚かな真似をする訳でもなく、最初の攻撃の口火は、彼女からしっかりと放たれる。
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―――美しい放物線が描かれ着矢に合わせ5つに分かれる「クインテットアロー」。
マーガレットが、彼女の射程範囲である25mに『きゃっぴー』が踏み込んだ刹那間髪入れずに放った彼女のスキル。
貫かれた『きゃっぴー』は4匹、吹き飛ばされたものが3匹。
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南側180度を見渡し、まだそちら側からの進行が見えないことを確認したエヴァは、そのことを伝えて、 直感的 に自らも北東側に身体を向ける。
「リンデン! こっちも見ていて。私もあっちを倒しに行っちゃう。」
「わ……わかったよ。」
「ん、理解した。今はそれでいい。行くよ、エヴァ。」
「りょ~うかい!」
走り出すエヴァとフリージア、その走り出しに合わせて吹き飛ばされて動きが止まっている3匹に、マーガレットが弓を放ち援護をする。
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北東に一直線で走る2人は、手前で右と左に分かれる。
右のエヴァは、ジグザグと動きを繰り返し赤目の『きゃっぴー』との距離を詰める。
一方、左のフリージアは、ふら~りふらりと爪先立での足取りを取り、身体の軸を崩さず、演舞の如くゆっくりと距離を縮める。
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対照的な、左と右の襲撃に、敵意をむき出しに声にならない音で唸る芋虫達であったが、彼女達の思惑とははずれ、多数の赤い目が向ける目線の先は『2つ』ではなく、『1つ』であった。
その、違和感―――。
その違和感は、きっかけとなっていく。
そして、それを導いたのは……。
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ある意味で、直感的に動いたエヴァの『強運』であったのかも知れない。
それを見つめるリンデンの観察力の賜物であったのかも知れない。
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だが、たったこれだけの戦局の”初動”が、『こちら側』の事態の収拾に、大きく繋がっていく。
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