第29話 リンデン・ビバーナムの考察
彼、リンデン・ビバーナムの評価を改めたのは、彼女達の言葉の語尾から分かる。
彼女達の興味は、次にこの『スライムエリア』のイレギュラーな側面を、世間一般では、何処まで『あたり前』となっているかであった。
まず、気になっていた、この階層の『MAP』について、彼が知っている範囲での情報を得る。
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『MAP』は、第1階層のギルド内ショップで購入が出来るそうだ。
また、リンデンの持つ第5階層までの『MAP』は、導きの妖精を介して、新人研修でギルドから配られている。
それを聞いたエヴァ達は、サーシャの特S級新人育成方法の一環として、今日の彼女達へのお題が『マッピング』であったことを悟る。
それが楽しかったのだから、感謝しかないね!
と、3人の顔はにこやかになる。
「何故……君達は、導きの妖精にMAPが無い状態で迷宮に入れられたを怒らないんだい? ましてや、驚きもしないなんて。」
リンデンは、彼女達がMAPもない状態での冒険を、敢えて『迷宮』ギルドから強いられていることに驚きを覚える。
『え、何で? 私達が上に行けば行く程『MAP』なんて手に入らなくなる。だったら、今のうちから慣れておくべき。』
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フリージアからすれば、こんな低層でMAPに頼る方が信じられなかった。と言うか、目指している先が『架空都市グランドセブン』である彼女からしては、その価値観の違いは理解できない部分なのかもしれない。
それは、恐らくはマーガレットもエヴァにも同じことがいえた。
最も、エヴァに限っては、「えー!自分達でマッピングするの方が100倍楽しいんだよ?」と楽しそうに言っているのではあるが……。
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エヴァが、MAPについて興味を持っているは、自分達で見つけたマッピングへの答え合わせであり、既にリンデンから導きの妖精を介して貰ったMAPと自分のMAPを見比べている。
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その見比べでエヴァは、ギルドから提供のあったこのMAPは『スライムエリア』について何も触れていないことに気が付く。
そのことについては、マーガレットからの足の治療を受けながら、リンデンが簡単な推測をする。
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「これは、僕の推測なのだけれど、『レッドスライム』が生まれる場所……それがこの『スライムエリア』じゃないのかな?」
「それは、普段ではこのエリアがないという事なのでしょうか?」
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「僕達は、少し前から新人として、ミッションでこの階層に足を踏み入れているのだけれど、『先日』ここに来たときには、この辺りは普通に『きゃっぴー』しかいないエリアだったし、『きゃっぴー』もこんな陣を張る様な生息をしていなかったんだよ。」
その考察に、一同は納得する。
『レッドスライム』の出現が、絶対的なこの事態の『根柢』であり、リンデンの起こしたことは、ただ『切っ掛け』でしかない。
彼女達は、何を目指して『きゃっぴー』達が、こちらに向かっているのかは分からないが、なんとなく起きている現状や原因を追究出来たことに満足していた。
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「ありがとう。これで何とか歩けると思うよ……。危険を犯させってしまってごめんなさい。急いで逃げよう。」
足をとんとんと2回地面を蹴って、足の状態を確認したリンデンは、謝りながらこのエリアからの脱出しても大丈夫だと伝えるのだが、彼女達はきょとんとした顔で彼を見ている。
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「え? なんで?」
「ふぇ?」
エヴァの言葉に、呆けた声で驚くリンデンであったが、彼女達は逆に、そこに驚くことが理解できない。
「えっと、私達はもともと、このエリアが何なのかに興味があったから来ただけ。途中に君の仲間が逃げてきたから急いで来たけど、君を助けたのはついで。」
「ええ。ですので、もう少しここを調べながら、赤い目になったモンスターを『鎮静させる術』を考えるつもりですわよ?」
「え、え? でもこのままでは……大量の『きゃっぴー』が……。」
「そうですけど、あなたでは逃げ切れないのではなくて?」
「正直、逃げるなら君は足手纏い。それなら、ここで陣取って殲滅した方がまだマシ。」
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「うん、そうだね。逃げるんならとっくに逃げてるよねー。大丈夫、君を中心に置いて私達が戦うからー! でね、君は気が付いたことを口に出して教えて! 君は良く見ているし、たくさんのことを知っているから。だから、お願い!」
「あら、それはいいですわね! ナイス、エヴァさん。」
「少しだけ、私達は君の知識を認めている。……まぁ、自分勝手な判断には反吐が出るけれど。」
フリージアが、少しだけ照れ臭そうに ツンッ と彼にそう言った。
でも、彼には……その言葉が何よりも嬉しかったし、不思議とそれが自信となっていた。
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「さて……初めのが来ますわよ? 準備はよろしくて? みなさん!!」
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マーガレットの号令に合わせ、彼女達は、各々の導きの妖精を肩に乗せ、武器を抜いて、多数の敵に向かって備えをとる。




