第28話 愚かなプライドと確かな知識
―――リンデン・ビバーナムは語りだす。
新人迷宮探索家にとって、一獲千金千載一遇のレアモンスターが現れたとき、彼は、既にパーティのお荷物として扱われていた。
悔しかった。
『レッドスライム』の価値を仲間に伝えたとき、彼は初めて同じ迷宮探索家として扱われたような気がした。
きっとそれは、実際にそうであったのだろう。
そのレアモンスターが、まさかの死骸化して彼らの元に残り、その価値を知っていて、それを、解体が出来る彼は、ちょっとしたヒーローのように扱われる。
もし、そのまま死骸を『迷宮』ギルドに持ち帰り、解体室で適切に解体をしていれば、恐らくは、本当にそうなっていたのであろう―――。
だが、彼は、直ぐにでもその解体シーンを、恐らくは仲間(……であろう彼ら)に見せ付けたかった。
だからこそ、知り得ていた知識を忘れた振りをして、『第2階層のルビー』と言われる「レッドスライム」の死骸を、その場で解体し始めてしまった。
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レッドスライムの死骸は第2階層で解体をしてはいけない。
何故ならそれは、災いを招くから—――。
という、先代からの知見を無視をして。
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更に、彼はその解体を失敗する。
最初の一太刀目で、美しく貴重な魔核を傷つけ、その外皮は溶け、ゼリー状の極上のワインのような血肉が、地面にこぼれ落ちる。
こぼれ落ちた血肉は、ゆっくりと迷宮の土に馴染んでいき、そして、そのワインレッドに染まる土壌は、ほんのりとした『甘い香り』を残し、消滅するように泡と化し消えていった。
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―――そこから周りのスライム達の様子がおかしくなっていく。
スライム達は動きを止め個体のように固まったと思ったら、急に目が赤く染まり出し、先程とはまるで別の生き物のように、俊敏で、獰猛な獣のように、彼らパーティに向かって一斉に襲いだしたのであった。
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「うんうん。それで、仲間の皆は、君をスライムの集っている場所に放り出して、君を置いて逃げたんだね?」
「はい。そこからは、必死に戦って数を減らしたのですが、ポーションも尽きてしまい、もうダメかと思ったところで、あなた達に助けられました。」
「そっかそっか。怖かったね、大変だったね。」
エヴァは、優しく慈悲深く彼を慰めながら、ひとつだけ尋ねる。
「それで、君が解体を失敗した赤いスライムは『何か』残っているの?」
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「魔核は、僕のミスで傷つけてしまいましたが、それでも価値はあります。ですが……それも彼らに取られてしまい、今あるのはそこに落ちている外殻だけです。」
リンデンは、赤み掛かったガラス玉の欠片のようになった、レッドスライムの『外殻』を指刺す。
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「ふーん。とどのつまり、お前の傲慢が招いた事態ってことだね。」
フリージアが、何処からとなく現れるスライムを1匹、また1匹と処理しながら、リンデンに言う。
「その通りです……。」
リンデンは、よわよわしく小さな声で答え、俯く。
「うん、そうだね。でも、リンデンありがとう。何があったのかは分かったよ。」
エヴァは、レッドスライムの『外殻』を拾い上げ、それを見ながらリンデンにお礼を言う。
「わたくしからも、宜しいでしょうか?」
マーガレットが、リンゼンに訪ねる。
「は……い。」
「あなたは、このスライムを解体してはいけないと、知っていらしたようですが、解体することで、何が起きるのかまでは知らなかったのですか?」
「すみません……。第2階層での解体をすると災いが起きるとしか……。第2階層ですので、大したことは起こらないだろうと甘く見ていました。」
「そうですか。しかし……それを知っていらしたのなら、解体はすべきではありませんでしたわね。」
「すみません……。」
「まぁ、よろしいですわ。それより、こちらに大量の『きゃっぴー』が向かっていますが、心当たりはありますの?」
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「付け加えると、影響を受けているのは『スライム』と『きゃっぴー』だけ。」
マーガレットとフリージアは、彼が行った『自分勝手な振る舞い』に怒りを確かに覚えたのだが、何んとなくではあるが、この事態が起こった原因を把握したことで、次のことに切り替えている。
恐らくはやってくるであろう、大勢の『きゃっぴー』を、どのように対処するか……彼女たちが今、興味があるのはそれとなっていた。
◇
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「あ、それなら……恐らくですが。スライムはきゃっぴーの餌なのです。」
「へぇ。」
「但し、きゃっぴーが食べるスライムは、自然死したスライムのみ。理由はわかりませんが、そうなのだそうです。」
「……それで?」
「ずっと思っていたのですが、「ここだけ」不自然な『スライムエリア』があって、それを守るように『きゃっぴー』の縄張りが点在しています。」
「です……わね。」
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「それは、スライムは自分たちが死んだら食されることを条件に、守って貰っている、言わば共存関係が成立しているように見受けられます。」
その、リンゼンの考察にふたりは彼への評価を改める。
確かに、この器の小さな馬鹿なプライドが、この事態を招いてたのであろうが、彼の持つ洞察力と考察力、そして知識は評価に値すると思いだす。
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そして何より、自分たちが楽しみながら見つけた『スライムエリア』の不自然さを彼も同じくして感じ取っていたことが、彼への親近感を生んでいた。
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