第26話 第2階層
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彼女たちが、必死に走り出したそのタイミング―――。
静止していた『きゃっぴー』が、突然一点に向かって動き出す。
ゆっくりではあるが、その足並みには力強さがある。
それらは、普段は近寄ることもない「スケルトン」がいる草原が部分的に禿げて不毛地となっているエリアを突き進んでいく。
その進撃に、スケルトンも『きゃっぴー』を敵対とみなし応戦するも、数体で協力するような動きで、スケルトンを轢き殺していく。
その奇妙な動きに、新人が多いこの階層の迷宮探索家達は、徐々に各階層の安全地帯である近くの『マザーの子』に向かって逃げていくのが目に付くようになってきた。
そんな(今はちょっとした)混乱を横目に、エヴァ達は、もう少しで着くであろう『スライムエリア』に向かって、フリージアの剣技を主軸に、エヴァの『花』魔法とマーガレットの弓での支援を徹底して一点突破で進んでいく。
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「う……うわぁああああ!!!
あいつを『生贄』にしている間に逃げるぞお! 走れ!」
「あ……あいつが悪いんだ! 俺達は悪くない、悪くないい!」
「ちょっとあなた達、私を置いていかないでよ~。」
酷く見苦しい顔で叫びながら、《《3人》》の新人が『スライムエリア』の方から逃げてくる。
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あ、あの時のパーティだ……生贄?
あいつら、あの太い男の子を囮にして逃げてきたの!?
フリージアが心底嫌そうな顔をして、逃げていく3人を睨みつける。
「今の奴ら……仲間を囮にして逃げて来たかもしれない。さっき見たときは4人組のパーティだった。」
「え? それで生贄がどうと仰っていたのですね?」
「来たのは『スライムエリア』の方からだったよね? 取り合えず急ごう!」
彼女たちは、『スライムエリア』へと再び急ぐ。
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『迷宮』ギルドの執務室では、第2階層で起こった『何か』の異変を告げる「意思」が世界樹から届く。
受付で騒ぎにならないよう、厳かに事態を把握に努める職員達は、まずは新人を始めとする低層に向かうであろう迷宮探索家への規制を徹底することにする。
とはいえ、規制がなされることは「異変」を告げるようなもので、その混乱は少しづつ、クエストを受注する迷宮探索家達にも浸透していき、だんだんと混乱が起き、職員は対応に追われ始める。
サーシャもそのひとりであり、カウンター業務に追われていた。
(世界樹が第2階層で異変を知らせる? あの迷宮探索家フロンティアで? 私がこの世界に入ってからこんなことは初めてよ……。まさかこんな事態になるなんて。 お願い、エヴァちゃん達。無事に帰ってきて!)
一刻も早く、彼女たちの安否を確認したい思いもあるが、今の彼女に任された仕事はそれでなく、この場の混乱を落ち着かせること。
それに、迷宮で何が起きたまでは、世界樹の意思は教えてはくれない――。
情報把握に努めている職員の迅速な対応と、今日から世界樹に巣立った可愛らしい3人の少女達の無事を祈って、彼女は自分の責務を全うすることに努める。
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珍しくも、世界樹に登頂していた、気分屋A級迷宮探索家「双舞子」カイトとフローラは、『水 の 庭園』と呼ばれる高層からの帰還の途にあった。
マザーツリーから第1階層の広場に帰った彼女達は、その雰囲気が何処となく慌ただしいことに気が付くも、『よくある』中層あたりでの事件が、また起こったのであろうと、鼻歌交じりでそれを横目で見ながら『迷宮』ギルドの門を開ける。
「お?なんだなんだ? 若いひよこがピーピーうるせーな。」
ギルドホール内はそれがより顕著となっており、カイトが笑いながら揉めている新人に指を刺す。
「何かあったのかしらね? 節度が無くなっている新人が多い気がするわね。」
フローラは、これは『よくある』事件ではないなと思い受付の方を見ると、対応に追われているサーシャに気が付く。
若い迷宮探索家を、カイトが押しのけてサーシャの元まで行くと、サーシャは2人に気が付き、少し申し訳ない顔をする。
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「これは、結構イレギュラーなことが何かあったかな?」と2人は感じ、それがエヴァに関係しているのであろうと理解する。




