第24話 歓喜 転調の兆し
新章です。妖精に名前を付け、気になっていた『スライムエリア』に向かう3人のお話。
※この作品は、「― ☘」を目印に読んでいただければ、ある程度は、サラッとライトにお読みいただけると思います。ご参考にしてくださいませ。
『えばぁーえばぁー』
エヴァに飛びついてくるエヴァの導きの妖精「もも」。
「もも~~。喋れるんだねー。」
桃色の妖精を優しく抱いて、綺麗なサラリとした桃色の髪をなでる。
名前を貰った「もも」は、何処となくピンク輝きが増しているように感じる。
『えばぁー!ももー! あーう……? えばぁ!!』
「そかそかぁ。エヴァとももって言えるようになったんだね!えらいえらい!」
― ☘
どうやら、今はまだ、自分の名前とご主人様の名前を言葉にするのが、やっとのようだけれど、エヴァにはそれだけで十分で、蕾の胸に確かに宿る、母のような慈しみに心震える。
それは、マーガレットもフリージアも同じのようで……。
彼女達の周りには、『3色の温かな風』がふんわりと通り過ぎたような……
そんな、温かな空気が流れていた。
「だめですわねぁ。この幸せ感は激ヤバですわねぇ!」
「うん。何よりこの3人で味わえたことが最高!!」
今日、初めて会ったのだけれど、初めから感じていた予感。
深まる絆に感じる確かな思い―——。
今は心に留めるけれど、ずっと一緒に冒険をしたい思いが確かに……確かに芽生えている。
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「『マザーの子』はこのことを言っていたんだね! 夢じゃなかった!」
エヴァがとっても嬉しそうに言う。
「そうですわね。この幸福感ですもの。 エヴァさんは確かにマザー達にお会いになったのでしょうね。」
マーガレットも同意する。
そして、それが意味するところ。
きっと『あそこ』には、何かがあるであろう期待感が膨らむ。
「そうなると、やっぱり気になるよねー。」
「だねー。」
「戻りますか!」
「ですわね!」
「ももーおいでー」とエヴァは彼女の桃色の導きの妖精を肩に招き『マザーの子』に再び手を置く。
(また、お話しが出来るのならお礼を言おう。)
― ☘
エヴァはそう思い、大樹に手を置いたのであるが、その思いと裏腹に、機械的に「第2階層」に戻るのかどうか尋ねてきた『マザーの子』の声は、あの優しさに満ちた声色ではなく、「あぁ、これが皆が聞いた声なんだな」と分かる。
大樹に、第2階層に戻ることをお願いをすると、意識は途絶えることもなく、彼女は第2階層の『マザーの子』の前に立っている。
皆、こんな感じだったんだなぁー。
エヴァは3度目にして初めての「普通」の移動を体験する。
でも、やっぱり、少し。「もも」とお話が出来るようになった喜びのお礼は、彼女にしたかったなと、少しだけ、残念な気持ちが心に残るエヴァであった。
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「あら、意識があるようですわね。ということは、世界樹の意思とのお話は、今回はなかったようですわね。」
と言いながら、マーガレットは手を握って大丈夫?とエヴァの顔を覗き込む。
「ん。エヴァ大丈夫みたいだね。毎回寝ちゃうなら大変だなと思ってた。」
フリージアも心配してくれていたようだ。
「えっと。前の時に言ってたんだけど、毎回お話が出来るとは限らないみたいなの。だから、また、お話する機会があったら、よろしくと『マザーの子』が言ってたー。」
「そうなのですねぇ。」
「ん。それじゃぁ、エヴァが特に変わりがないのなら、早速『スライムエリア』に向かおうかー。」
フリージアからのその言葉を受けて、彼女達は少しだけ駆け足をして、足取り軽く『スライムエリア』に向かって行く。
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― ☘
一方その頃。
フリージアが先刻気にしていた「普通の新人パーティ」は、本日のクエストを終わらせ、帰路に着こうと帰りの仕度を進めていた。
しかしながら、その作業を行っているのは……1人だけ。
前衛職であろう男の子2人は、木陰で飲み物を口にしながら、魔法を使うのであろう女の子に『色目』を使うのに勤しんでいるし、女の子も女の子で、得意げな顔で彼らにチヤホヤされているのに酔っている。
そんな彼らから、冷ややかな目を受けながら独り作業を行っているのは、アイテム拾っていた恰幅の良い男の子。
― ☘
名前を リンデン・ビバーナム という。
彼は、ほどほどの商家に生まれ、家業を継ぐために迷宮探索家となった生産系探索家で、読み書き計算は得意であるが、『世界樹の迷宮』の中で、特にモンスターを討伐するようなクエストでは、正直あまり役に立っていなかった。
最も、彼が迷宮探索家になれたのは、腕っぷしではなく、その知識であり、彼らに与えられたクエストが『採取』から始まっていれば、今の彼らの序列は多少違っていたのかもしれない。
◇
基本的に、モンスターは、倒した後に光となり『世界樹の恵み』を残して、消え去るのであるが、極稀にその『姿のまま』絶命し死体が残ることがある。
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レッドスライム。
『第2階層の赤いルビー』と呼ばれる稀少モンスター、それが死体として残ってしまった……全ては、それが始まりであった。




