第129話 エヴァ達の『帰還』と昇格手続き
王都アウロに帰ってきたエヴァ達試験参加者は、世界樹第1階層にある『迷宮』ギルドに向かう。
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昇格試験の最終結果発表とその手続きを各担当職員に委ねるためである。
最も、エヴァ達においては、当然それだけで終わるはずもなく……。
彼女達が報告する砂漠での出来事は、この試験での真相を既に知っているルイゼ達でさえ再び驚かされ、カイトに関してはまた大笑いをすることとなる。
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エヴァ達がロビーに着くと、娼館から先に戻っていたサーシャが、嬉しそうに、そして、申し訳なさそうに、彼女達を出迎える。
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正直に言うと、『ギルド』はルイゼ達との交渉の末、エヴァ達を敢えて「不穏な」砂漠の昇格試験に参加させた側面があった。
それが、ギルド長の取った作戦であり、彼女達の義理母親に向けた書簡の中身で一番の肝であって、つまりは、彼女達の強力な「支援」を得ようとした訳であった。
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何も起きないはず―――。
ギルドを取り巻くこの不穏な状況下で、そんな希望的観測など一切ない昇格試験であることは分かっていた……。
その危険に敢えて彼女達を送り込んでしまったことに、サーシャは胸を痛めながらも、無事の帰還を祈ることしか出来なかった。
とはいえ、サーシャがエヴァ達にその危険を説明し、試験への参加を諦めるように促したところで、彼女達がそれを了承するとは到底思えなかったのも事実であって……。
その複雑な思いが……今の彼女の顔をそうさせていた。
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「ただいま~サーシャさん!」
エヴァが、サーシャに右手をぶんぶんと振る。
「これ、無事合格……でいいんだよね?」
フリージアが、人差し指を眉間に当てて首を捻る。
「何か、試験に行った実感のない終わり方でしたものね。」
納品して直ぐ帰還の徒についた現状から、マーガレットもよく分かっていない様子である。
「あ、うん……試験は合格よ。でもね……ごめんね。この試験が危険と知っていて私……あなた達を……。」
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「あー、ニューの担当セビオだったっけぇ~? 酷いよね!」
「本当ですわ! 担当の子に手を出して端金を稼ぐ小者。情けない恰好で捕まっていて、いい気味でしたわ!」
「サーシャさんとは大違い。」
「え?」
「とはいえ、わたくしたちには、余り関係がなかったというか……?」
「そいつに会ってもいないし、砂漠で起きたことは嬉しい誤算だったし?」
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「そうなんだよ! 聞いてサーシャさん! 『アリ穴』に落ちたらね、蟻の女王様に会ったの! そしたらね、女王様が教えてくれたの!!! 『お父さんが……お父さんが世界樹で生きている』って!!!」
「ふぇ!?」
『第2階層事件』から続き、この昇格試験でのギルドのいざこざに巻き込んでしまった事実に、心から申し訳ないと思い謝罪をしようとしたサーシャであったが……。
エヴァ達はあっけらかんとしていて、よく分からないことを言い出す『いつも』のこの状況に、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
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「あぁ~《《やっぱり》》行ってたんだ……。サーシャさ~ん別室がいいかも? 多分……驚きしかない報告が、この子達からあると思いますよー!?」
ギルド職員のローズヒップが、リンデンをチラッと見てからサーシャに進言する。
「あはは……」と、蟻の女王のことを『三つ葉』のふたりに隠していたリンデンが気まずそうに笑い、
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「えーと、『木の根の黒猫級』の出来事がありまして……。それに、この方ニューさんとの出会いも……恐らくは?」
と、後ろで興味なさげにジュースを飲んでいる少年の方を見る。
「あー、こんちゃぁ~。」
と、気怠く挨拶をしてくる少年の顔を見てサーシャは溜息を付く。
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「はぁ……なるほど、ここに「ランキング7位」が居るということは、報告書にはなかったことが沢山ありそうね……。そして、それが『黒猫級』な話に繋がるってことかしら?」
「あははは……そういうことになります。」
と、サーシャの溜息にリンデンが再び苦笑いをする。
「私達も馬車の中で話を聞いて驚いたことが沢山……。」
「しかも~その『黒猫級』? それをリンデン君が隠してたから~、私達が知らないこともいっぱいありそう?」
『三つ葉』のふたりも呆れて彼等を見る。
「もう……頭が混乱で爆発してしまいそう。それで……リンデン君はセビオのことを何処まで聞いたのかな?」
頭を抱えながらリンデンに聞くサーシャに、彼は「全部です」と答える。
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その落ち着きを払った彼の態度とその回答からサーシャは、彼にとっても『それ以上』の出来事があったようね? と真剣な顔付に戻る。
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サーシャはミーティングルームの手配をローズヒップに頼み、ライティアには「娼館」で話をしているギルド長達にこのことを伝えるよう指示を出す。
そして、受付カウンターにある端末を操作しながら、
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「話を聞く前に、『昇格手続き』を終わらせておこっか!」
と、エヴァ達に向かって笑顔で言う。
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その言葉にエヴァ達の顔は ”ぱぁ~” と明るくなり、自分の『迷宮探索家カード』を取り出し嬉しそうに サーシャへ渡す。
そして、照れくさそうにカードを渡してくるリンデンには、
「辛い仕事を任せちゃってごめんね。でも……結果的に《《あの子達》》の弔いになって良かったわね。」
と、サーシャは彼の肩をぽんぽんと叩いて言う。
「はい……。あ、サーシャさん、出来れば彼のも……。」
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リンデンは、セビオが捕まり担当が不在となっている「あの時の自分と同じような状況」のニューを案じてサーシャにお願いをする。
「そうね……いいわ! ニュー君もカードを。皆で一緒にD級へ『昇格』しちゃいましょ!」
ニューは、サーシャの笑顔に対して素っ気ない表情ではあったが、それでも事態を悟ったかのように、
「あぁー、セビオが僕にちょっかいを掛けたのがバレて捕まったんだっけ? 馬鹿だよね!? あんなのは死刑でいいよー。あはは!」
と、自分のカードをサーシャに手渡しながら、悪気なく笑う。
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このときサーシャは、そのニューの笑顔の裏に危ういものを感じるのだが、それは後にリンデンからあった彼の説明で彼女は納得することとなる。
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5枚の『迷宮探索家カード』を謎端末にセットをし、キーボードを叩き操作するサーシャ。
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ぽわん~と光るそのカードに、E級の文字が消え『D』級の文字が刻まれる。
それ伴い、サーシャが見ているディスプレイにも、彼女達の最大到達可能階層や各ステータス等々も更新され映し出される。
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「わっ!」
エヴァのステータスを見てサーシャが声を上げる。
「エヴァちゃん!! 『花』魔法のレベルが上がってるわよ! あ……強運もだね……あはは。」
サーシャは、彼女の ★ スキルの成長を見て喜ぶのであったが……あのクエストバランスを崩すスキル『強運』のレベルアップにも気が付いてしまい、エヴァの顔を見ながら苦笑いをするのであった。




