第128話 『水寄せの杖』込められたメッセージと保険
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「私は統括の立場ですので、★ をはじめ、上役でしか知り得ない情報を得ています。それ故に……ここ最近のギルドの不穏な気配、それが見え隠れしているこの現状に……私は危惧を抱いていました。」
「……。」
「そんな中、「神殿騎士の森」の村の惨事が起こります。先に述べたその不可解さに加え、あの『第2階層事件』の後にも関わらず、試験の責任者に『セビオ』が大抜擢された違和感……。」
「ふむ……。」
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「そんな中、私が配達された大量の「ラミアの爪」を受け取るのですが、それがその疑念を決定付ける切欠となります。」
「あ……それって、まさか!?」
「あぁ……『花』魔法の子達の「ラミアの1000本ノック」から得た大量の買取品だ。最も解体費と相殺したものらしくてな……「死に落ち」で出たもの全て。その数の処理をするものが試験会場の変更で忙殺されいなかったので、私が対応したのだ。」
「あ……異常な「死に落ち」数でしたからね……。私の差し金ですが。」
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「それがあって『帳簿』を見たのだが……。巧妙な手口で最初は私も気が付かなかったのだが、良く見ると明らかな改ざんがされているではないか。しかも、『幻惑貝の魔香水』、『爆弾ワームの破裂殻』、『硬ゴムの実』と使い道が不穏なものばかり……。」
「!?」
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「それで気が付いたのだよ……何故『砂漠』が代替地になったのか。砂漠のモンスターは『水が苦手』であるのと同時に『音にも敏感』だ。過去に「爆弾ワームの破裂殻を使った砂漠モンスターの追い込みという手法」があったと、古い文献に残っていてね……。」
「……それが何故『水寄せの杖』が『メッセージ』と『保険』となるのかね?」
「あ、はい。この件は、ギルドの上層部が絡んでいる可能性がありました。ですが、誰が絡んで、誰が得をしているのか……セビオ以外は皆目検討も尽かない状況でしたし、私にはここに居るような方々との繋がりもなく、ひとりで調べるには限界がありました。」
シトラスは、ルイゼとアリアウルフを見る。
「それに、私の思い過ごしである可能性も消しきれませんでしたので……。なので、一部の可能性を信じ、帳簿にメッセージを残そうと考えたのです。」
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「成程ねぇ。『砂漠』で『水寄せの杖』は、いざとなれば水を生み出す貴重な魔道具となる。だが、腐っても魔道具だ、結構な額となる。それに、ギルドが昇格試験なんざに魔道具を買い与えるなんざ前例にもないだろうしねぇ。」
黙って話を聞いていたルイゼが口を開く。
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「ふ~ん。その帳簿に『敢えて正規』に堂々と用意しておけば、そもそも与える必要のない魔道具に疑問を持つ者が出るかもしれない。あわよくば、その誰かが止めてくれる可能性も……。だから「メッセージ」ってことかしら?」
続けて、アリアウルフが諜報を解析するように聞くと、シトラスは、
「そうだ……。」
と、首を縦に振る。
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「では、試験参加者が過酷な砂漠で事件に巻き込まれたときに『役立つ品』……それを敢えて選んで用意させたことが……「保険」ということかね?」
ギルド長が顎に手を当てながら、シトラスにギロッとした視線を向ける。
「はい、その通りです。砂漠のモンスターは『水』を苦手としていますし、『水寄せの杖』は打って付けでした。」
「ふむ……。」
その答えに、ギルド長は再び長考に入る。
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だが、サーシャもルイゼ達も、そしてギルド長自身も……『水寄せの杖』が『砂漠のモンスターパレード』でもたらした活躍を知っていて、この時点で、シトラスのその発注が悪意あってのものではないと確信をしている。
長考の末、ギルド長はシトラスにひとつ謝罪を入れ、改めてその機転と行動に礼の言葉を述べる。
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そして、彼にとって無常の一言となるであろう……信頼してきた長年の上司「副ギルド長エリック・コマス」が、本件の黒幕のひとりであったことを……力ない声で、ギルド長はシトラスに告げる。
「そうですか……。」
シトラスは、そうポツリと言うと……無念そうに眉間を歪ませ、しばらくの間、無言で目を閉じていた。
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一方その頃―――、
砂漠での仕事を終えた『影縫い』のフィオレと『アリアウルフの糸』ぺスカも、馬車に揺られて王都に帰還する。
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『砂漠のモンスターパレード』。
D級昇格を目指す迷宮探索家達が、エヴァ達お気に入りの英雄譚になった裏には、彼女達の活躍があってこそ。
彼女達が、その進行を止めていたモンスターの数は500を超える。
その中には、砂漠の民と呼ばれるスフィンクス達と、サンドワームと呼ばれる厄介な砂漠最強のモンスターの眷属達が含まれた。
それらの殆どを彼女達が抑えてくれたからこそ、そこを抜けたモンスター達が、試験参加の迷宮探索家達程度で何とかなったと言っても過言ではない。
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そして……、
多少の傷が見られる彼女達の足元には、布に包まれた『首』がひとつ。
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その首は、捉えた盗賊のものではなく、砂漠の民スフィンクスを狂わせ街を襲うようモンスターパレードを仕掛けた張本人で組織『ビー・ディ』の幹部ミカエラ……それの首であった。
これにより、組織はルイゼ達「こちら側」の全面的な関与と「本気の警告」を認識することとなり、ギルドから手を引き、暫く影を潜めることとなるのだが……。
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その沈黙は逆に、ルイゼ達にとって不気味な何か嫌なものを予感させるのであった……。




