第114話 勇者と先生の『膝枕』
フリージアが見とれる程のニューの自然体の構え。
だが、その構えの先にあるものを、彼女は同時に捉えている。
彼の構えは、例えるのなら、
森にどっしりと根を下ろす大樹のように、雄大で。
さらさらと音を立てて流れる小川のように、穏やかで。
暑さに耐え忍ぶ中、頬っぺたを優しく撫でるそよ風のように、優しく―――。
構えから伝わってくる、自然の穏やかさ。
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火山のような凄みも、氷河のような凍てつく鋭さもそこにはなく、相手に向ける殺意がないのである。
(ん? これはまるで、御師様が稽古で時より見せるあの表情のようなもの?)
フリージアは、ニューの蟻の女王への思いのようなものを感じながら……ふたりの時間を見守る。
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「僕の質問に対する答えは?」
と、ニューに問われて少し頭を捻りながら考える蟻の女王。
「勇者ちゃんは、妾にどんな答えを望んでおるのじゃろうかのぉ?」
案内蟻のぎーちゃんに蟻の女王がそう聞くと、ぎーちゃんは「ギギギッー!ギ~……。」と、ジト目で女王に何かを訴えている。
「まぁ、そう言うでない……分かっておるわぁ。」
蟻の女王は少し困った顔でぎーちゃんに言う。
そして、はぁ……と息を深く付くと、
「それで、勇者よ―――。妾に剣を向けると意味を分かっておるのじゃな?」
細目で笑っていた目をぎろりとした目に変え、女王が勇者に凄む。
その顔にニューは……。
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「うぅ~。」と、凛とした勇者の顔から、親に怒られた子供のような半べその顔へと変わって項垂れている?
「ふぇ?」
その顔に、互いの顔を見合わすチーム『大空』の面々。
うぅ~と唸りながらも、やっとの思いで「少年ニュー」は、女王に向かって尖らせた口を開く。
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「―――だってさぁ。久々に『先生』に会えたかと思ったら……蟻の女王とか、『聖智龍』とか、変なことしてるし~! 僕が居るの分かってて呼んだような口癖だったし~! でも、よそよそしくて、何かさぁ、寂しいじゃんかぁ~~。ふえーん。」
(あ……泣いた?!)
エヴァですら、突然のその光景に目を丸くする。
そして、遅れて脳裏に届くニューの言葉。
「ふぇ? 『せんせい』?」
「うん……ぐすん。この人は僕の先生、『ファフニール先生』だよ。久々に会ったのに……ふぇん。こんなところで蟻と戯れているんだもん! 僕のこと他っておいて! ふぇえええん。」
「え? あ。うんうん。大丈夫だよ~ニュー。この女王様、さっきからニューのこと、お母さんのような優しい目で見てるから……大丈夫。ね?」
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ニューを慰めるように、でも、きらきらと目を輝かせ、エヴァの『魅力』がニューに向けられる。
「うん……。」
子供のように頷くニューの頭をエヴァは「よしよし」と撫でると、不安を抱く子供の顔をしていたニューの顔に落ち着きが戻っていく。
「よしよし、びっくりしちゃったんだよねー。だから、《《出したくない》》『勇者』の顔を出しちゃったんだよねー。」
白い歯を見せてニカッと笑うエヴァを見て、蟻の女王……ファフニールが少し驚いた顔をする。
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(ほう……『花』魔法の子。《《出したくもない》》と言いおったわ。しかも、状態異常無効という勇者スキルの、『副作用』ともいえるこやつの『孤独感』を和らげおった!? 恐らくは『魅了』持ちなのじゃろうが、あれは天然よのぅ。魅力は『S』かぇ? ふむ……。)
「ギー!!!ギギギギギギギー!!!!」
それを見ていたぎーちゃんが、我慢の限界と自身の女王ファフニールに向かって腰に手を当てて怒っている。
「えーい、五月蠅いわい。分かっておるとゆーておろうがぁ!」
透明感のある黄色の髪の毛を両手でぐしゃぐしゃとして、彼女はニューの前に歩み寄る。
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「まぁ、なんじゃ……ニュー。久ぶりよのぉ、、、」
ばつが悪そうに、片目を閉じてニューに向かって言う。
「ごめんなさい。先生が訳のわからんことしてるから、僕、つい……。」
「あぁ~もう! 謝らんでもよい。妾も ”おいた” が過ぎたようじゃ。しかし妾に向けた剣先、殺気は乗っておらんかったが、自然体で良い構えであった。成長したのぅ。」
「うー、先生。」
抱きつく勇者ニュー。
それを、困った顔でそれを受け止める蟻の女王ファフニール。
「ふん。殺気が乗ってない美しいだけの構えと、あのおばさんの目。私は何となく分かってたんだけどね!」
フリージアが、何故かリンデンに向かって胸を張って自慢する。
「ふぇ? えっと?」
「ウフフフフ。「あなたよりも見る目がありましてよ!?」と、彼女は自慢をしているのですわ。」
マーガレットが、フリージアの頭を撫でながらリンデンに言う。
「は……はぁ。」
良く分からないなぁ、とリンデンは首を傾げるが、フリージアの鼻はつ~んっと伸びまくっている。
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「それで、お初にお目にかけます。導師ファフニール。西の神殿で修練を積んだ『マーガレット・フォン・マルガリーテス』でございます。」
マーガレットは、スカートの裾をちょこんと摘み「本名」を名乗りながらお辞儀をする。そして、
「正直、わたくし共は『おまけ』で『蟻穴』に落ちたようで、何が起きているのかさっぱりなのですわ。出来れば……ご説明を頂けると助かりますの。」
社交界で見せるような不敵な笑みをしたためて、マーガレットは蟻の女王に尋ねる。
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「すまんかったのぉ。妾も『アリ穴』の主ゆえ、ビシッ!っと登場しようとしたのじゃが、この馬鹿弟子がびっくりしてもうてのぅ……って、フフフ、寝ておるわ。」
久しぶりの再会だったからなのであろう。
女王に抱き着き寝てしまっているニュー。
ファフニールは優しく弟子を膝枕し、ニューの猫っ毛を愛おしそうに撫でる。
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「まぁ、こやつも寝てしもーたし、ゆっくりと話そうかのぉ。それで、そちは『西』の神殿の修練者かぇ? そして、成程。マルガリーテスの者か……。確かにスパティによぉ似ておるのぉ。」
「あらぁ、お母さまをご存じで?」
「白々しいわ。知っておったじゃろ!?」
「さて、何のことでしょう?」
「まぁ、良いわ。それでじゃ……何から話そうかのぉ。」
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『アリ穴』ダンジョンの蟻の女王、『聖智龍』の末裔、そして勇者の先生ファフニールは、弟子の勇者ニューの頭を膝の上に乗せながら、ゆっくりとチーム『大空』の面々の顔を見渡す―――。




