第112話 砂漠の雄たけびと『水寄せの杖』
マーカス達の参戦で、ひよっこ達の戦いに安定感が完全に戻る。
また、トルドも意地を見せ、Bチームの面々を上手くAチームとCチームの支援に迷宮探索家を分けて向かわせる。
補給の任には、ウノと彼の選んだ敏捷性の高いヒーラーを当てることで、迷いがなくなり安定感を増したのだが、そこにはウノの在庫を適切に把握して、それを必要な分だけどちらかに届けるという無駄のない仕事が地味に生きていた。
戦いが完全に安定してから15分程度経つと、モンスターの数が減り始める。
となると、少しの余裕が出来てくるもので、交代で少しの休息をさせる余裕が全陣営に出来てくる。
― ☘
―――ここで、活躍したのが、まさかの『水寄せの杖』であった。
✿
『水寄せの杖』は、砂漠で試験が行われると決まってから怪しくもギルドで発注され、試験参加者や職員に配られた「水を一定量出すことのできる」で支給アイテムである。
― ☘
セビオを探っていた『三つ葉』の面々もサーシャも、その数と発注タイミングが明らかに ”目立つ” ことから「この試験には何かある」と怪しんだ切っ掛けの、ある意味要注意アイテムでもあった。
ただ、それについて怪しんでいるのは、この場では、セビオを調べていた『三つ葉』のライティアだけである。
ラウスもトルドも、それは知らないことであり、Bチームの面々に熱中症に陥ったものが出たことで、支給されている「水を一定量出すことのできる魔道具」を使い水分補給を順に命じたのである。
「すまん、支給品でこの杖があることを見落としていた。少しの余裕を利用して、順に水を飲んでくれ!」
AチームもBチームも、そのラウスの指示で水分の補給を行う。
その光景を、セビオが仕掛けた罠を警戒し、固唾を飲んで見守っていたライティアであったが、以外にも何かが起こる気配はない。
それどころか、水を大量に出し浴び出したひとりの迷宮探索家を毛嫌いをしている様子を見せるモンスター達。
◇
― ☘
「どうやら、貴方はあの杖を怪しんでいたようですが、逆にあの杖は『砂漠』では、渡りに舟かもしれませんよ?」
その光景を見ながらモンスターを駆逐して、マーカスがライティアに言う。
「そうかもしれませんね……。しかし何故? と思わない訳ではないけど、ならば、今は使えるものを使ってみるべきですよね。」
『Cチームも支給品使って、順に水分補給を―――。それと、補給が終わったらそのまま、杖の出力を最大にして『水』を砂漠のモンスターにぶつけてみて!!』
―――ライティアのその予測は当たる。
ここのモンスターは大量の水に弱く、弱体化する。
そのため、奴等は、それらから逃げる、若しくはヘイトを持つ傾向がある。
◇
Cチームで最初に休憩に入った迷宮探索家は、エヴァ達が戦いを応援していたときに、水魔法で活躍していた女の魔導士であった。
彼女は、砂漠のモンスターが水に弱いことを知っていたため、水を飲み終わった後に、杖の出力最大限にして、自身の水魔法と合わせて赤蠍と砂リザにぶつけてみる。
「!?」
一瞬、何かから目が覚めたように体を硬直させる砂漠モンスター達。
そこへ更に飛んでくる大量の水に、体が勝手に反応してしまう。
怒りというより恐怖に近い混乱を見せる赤蠍達。
そして、進行方向とは逆の方へと一目散に逃げていく。
― ☘
実のところ、スフィンクスの目により街への進行を誘導されているモンスターパレードの『砂漠』モンスターであったが、その本能ともいえる『水への恐怖』は、この大量の水を向けられたことで、その誘いを解き、恐怖だけを呼び寄せる結果となる。
「どうやら、水を大量に受けることで、スフィンクスの誘導を止めれるかもしれませんね。これを……、パレードを先導していたと思われるスフィンクスの『目』でございます。」
「え!? このパレードは……砂漠の民に操られていた? あ!!!」
ライティアは、全員に『水寄せの杖』を使って、ありったけの水を砂漠のモンスターにぶつけるように指示を出す。
✿
「ん? 何だぁ~?」
ラウスが後方Cチームの異変に気が付く。
杖で大量の水を掛け、モンスター達を倒すのではなく追い払っている。
トルドもそれに気が付いたのであろう。杖と水魔法で『水攻め』をするように、自身の指揮するBチームだけでなく、フォローをしているAチームの迷宮探索家に叫んでいる。
「えー? そりゃ水は奴らの弱点なんだろうけれどさぁ……。まさか、そんな単純な手でこいつら逃げていくのかぁ~。でもまぁ……実際にそうなってるんだけど。」
ラウスも「やれやれ」と、Aチームに『水寄せの杖』を使うように指示を出す。
サンドゴーレムは、残念ながらすべての個体が逃げ出す訳ではなかったが、半数は鈍足の足を駆使して、ゆっくりと逃げていく。
そうなれば、後は数の暴力―――。
迷宮探索家対沢山のモンスターは、転じて、モンスター対沢山の迷宮探索家となっている。
― ☘
そう、ここに最弱E級迷宮探索家のランカーチームが挑んだ、砂漠での『モンスターパレード』戦は、重傷者1名、軽症者沢山という結果で、死者を出すことなく、完全勝利となったのであった。
✿ ❀ ✿
『よっしゃー、お前等~お疲れさん! そして―――大金と昇格おめでとお!』
― ☘
自分の左手に持つ「ボロボロ」となった盾を、砂漠に降り注ぐ太陽の光に向けて思いっきり投げながら、ラウスが大声で叫び、そして砂漠に寝転ぶ。
” ―――――ウオオオオオオオオッ ”
迷宮探索家達の勝利の雄たけびが砂漠に響く!!!
抱き合うものもいれば、『水寄せの杖』から水が出なくなるまで水を出して「シャンパンファイト」をするものもいる。
(ここも、一応モンスターが普通に出る場所なのだけれどねぇ……。)
ライティアは少し呆れながらも、「何か出たら倒してあげる」と警戒を再び強めたそのとき、彼女は大きな声を上げてしまう。
『……あ!?』
一同が、その大きな声の先を見ると―――。
― ☘
大盾に『セビオ』を括り付けて、物凄いスピードで大盾使いの技である『シールドダッシュ』で、こちらに向かって走ってくるローズヒップと、その走りに辛うじて付いてきている『ランカー第1位』のシドニー・スカルゴン。
全ての目線が向けられているその先は、息はしているのであろうが、下半身を濡らし、目を回しながら、涎が垂れる口元に気持ちの悪い笑みを浮かべて、体中血だらけ、傷だらけとなっている『セビオ』……。
その変わり果てた情けないセビオを姿見ながら、勝利のポーズをのままに口を大きく開けたままで固まる迷宮探索家達。
― ☘
そして、ローズヒップ達がこの場に辿り着くまでの短い間、彼等は大きく開いたままの目ん玉でぎょろぎょろと彼女達を目線で追いながら、その固まった体制を崩すことなく、大盾に縛られ『盾となっているセビオ』を出迎えるのであった。
―☘第8章:Fin ✿
===============☘
✿ 読者の皆様
これにて ✿ 第8章:ラセール砂漠 ✿ はおしまいです♪
砂漠の戦いを制した名も無い迷宮探索家達。ここでこの章を区切りとさせて頂き、エヴァ達の行方は次の章とさせて頂きます。
次の章では、遂に勇者とこの世界について、その一端が示されます。
ここまで、お読みいただきまして、ありがとう☆ございます。




