第111話 動く『戦局』 活きる5分の教え
スフィンクスを、卒がなく倒した執事マーカス達であったが、砂漠のモンスターを操っているはずの「奴ら自身」の行動がおかしいことに気が付き、その死体が泡と化す前に、その体の一部を特別な方法で保管している。
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その部位は「目玉」なのであるが、抉り出したそれは、絶命後も『赤い目』から
元々の色である緑に戻っていないのである。
「ふむ、これは些か不思議な現象ですね。人為的……でしょうか?」
ほのかに香る甘い臭いに怪訝そうな顔を浮かべ、マーカスは、それでも止まらないモンスターの進軍を御者のウノと共に追う。
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第一ラウンドをしっかりと制したギルド職員とE級迷宮探索家3チームであったが、数の暴力と巨大な赤蠍の参戦を期に、少しづつ劣勢の色が見え始めていた。
「すまねぇ、抜かれた。C頼む!」
「OKだ、まだこっちは余裕がある、無理せず通せ。」
「Bチーム! ここは赤蠍の毒にやられた奴の回復を頼む。」
「なら、Cに殲滅は任せるぞ。」
そんな中ではあったが、チームの担う役割が全員に浸透していき、E級迷宮探索家同士で、チームを超えた連携が生まれていた。
「へぇ~、そこはランカーってとこだねー。」
片手剣に盾というオーソドックス剣士スタイルのライティアが、赤蠍のコアをしっかりと斬り落としながら、彼等の連携に目を細める。
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だが、『本番』はここからである。
モンスターは、まだ半数以上残っており、更に、このパレードで最も厄介なモンスター『サンドゴーレム』が、ここから参戦してくるのだ。
Aチームは、ここからは、奴達に力を割くこととなるはずだ。
E級迷宮探索家を率いている以上、ラウルもそいつに専念せざる得くなる。それだけ、サンドゴーレムの砂風を利用した攻撃が、団体戦においては面倒なのである。
そうなると、Aチームを通過するモンスターの数は増え、攻防の境界線はCチームへと移っていく。
ここから一番の重要なポイントは、遊撃であり一人親方の塊であるBチームが、どれだけ臨機応変に立ち回れるかとなる。
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つまり、職員で今Bチームを率いているトルドが、この烏合の衆をどう扱うかに掛かってくるとも言えた。
―――だが、残念ながら、戦局の綻びはそこ生まれる。
徐々に、Aチーム、Cチーム共、ギリギリの戦いとなって行き、Bチームに求められる要求が、難解なものとなっていく。
彼らは、云わば「独り身」で試験に臨んだ者達である。
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遊撃的にモンスターと戦うことは得意な彼等ではあるのだが、それが、回復や物資補給の『支援』となると、わかる範囲のことを手探りで行うことしか出来ず、徐々にその動きに迷いと遅れてを生じていく。
序盤は、戦局的に余裕があったこともあり、正直、巧く動き過ぎていたE級迷宮探索家達に、トルドは「彼等なら出来る」と過度の期待を持ってしまっていた。
一方で、戦局が進み、彼等に余裕が無くなっていくのもトルドは感づいていた。
だが、ミスがない彼等に「もう少しやれる、もう少しやれる」と希望的観測をし続けた結果、遂にBチームが『活動限界値』に達してしまう。
特に、慣れない仕事を必死でこなしていた彼等にとって、”砂漠の暑さ” は、無自覚に体力を奪っていく。
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BチームのひとりのE級迷宮探索家が、知恵熱と暑さで、眩暈と嘔吐を伴い、戦場の真ん中で倒れてしまう。
熱中症だ―――。
その倒れた体を『砂リザ』が噛み付き、彼は致命傷を負ってしまう。
幸いにも、奴等の食事となる前に、彼は、近くにいた迷宮探索家に助けられ、トルドの居るところまで抱えられて逃げ帰ってくる。
だが、これにより、Aチームの毒の回復に支障がでる事態に陥る。
そして、何より……ここまで善戦していたBチームの士気が、目に見えて一気に低下してしまうのであった。
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「トルドさん~。一度Bチームを下がらせて休息と立て直しを~!」
「うむ……。」
「限界点超えてます~。彼達はE級なんです。それまでCチームで耐えますから!」
「しかし……。」
ここでBチームが一度引いてしまうと、一気にモンスター側に蹂躙されてしまう可能性もあり、戦局を見れる彼であるからこそ迷ってしまっている。
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「彼女の言う通り、一度お下がりなさい。わたくしと御者がお役目を一時担いましょう。しかし、貴方様は、全体を見過ぎてしまう傾向が強うございますね。」
突如気配を感じることもなく、御者を連れ表れた執事姿の男マーカスが、ライティアに目配せをしながら、トルドにチクリと言う。
「マーカスさん!! トルドさん、ここは彼達に御助力頂きましょう~。」
「わか……った。」
「それで宜しいかと。では……。」
その言葉を聞き、老人と若者は戦況を立て直しに颯爽と走り去る。
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「ラウスさん! 毒消しが尽きた。こいつ毒が回ってやばいかもです。」
「あぁ、はっきり分からんがBチームに限界点が来たかもしれんなー。」
「どうすれば!? くっ、サンドゴーレムの攻撃が重くて、ひとり減るだけで結構辛いっすよ。」
「あふぉー! 気合い入れろ。後ろはきっと立て直す。それを信じて、それまでは回復魔法と薬でそいつの体力を持たせとけー。あー出し惜しみは無しでだぞ。」
「わ……わかりました! 後ろ信じて踏ん張るっす!」
『よーし、お前等! ここが正念場だああー! 終わらせて、金もらって、昇格して……帰ったら浴びるほど飲むぞ~~!』
『―――オオオオオオ!!!』
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Aチームとラウスのこの踏ん張りは、この戦いにおいて『最大のターニングポイント』となる。
そして、モンスターパレードとの開戦前に出来た『5分』の時間、そこでラウスからあった教えが ”ここ” で活かされる。
Aチームは、「後ろを信じて」崩れない。
加えて、この逆境を根性論に持って行ったラウスの鼓舞が、何よりも彼等を後押しする。
―――時間にして数分。
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ここを耐え忍んだからこそ、ウノの補給が間に合う。
ウノは何も言わずに、てきぱきと毒に侵されている迷宮探索家達の処置をし、併せて疲れが限界にきている面々に適切に回復を施してして行く。
これによって、Aチームは立ち直り、加えてマーカスという手練れの参戦が、迷宮探索家側にとって不利側に傾いていた局面を、一気に有利な方へと押し上げていく。そう、まさに、風向きが変わったのであった。




