第108話 案内『蟻』とモンスターパレード
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『神秘の涙』、『世界樹の意思』、そして『★勇者』。
何故、この最低ランクの迷宮探索家昇格試験で、この言葉が飛び交っているのであろうか?
場所は、王都でも世界樹でもなく、そこから徒歩で1日以上馬車で半日の、樹木も花も少ない「砂漠」の地、更にその底にあるダンジョンの中にいるというのに。
……これはやはり!?
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リンデンは、マーガリス家のスパティを通じて聞かされている「ギルドの現状とこの試験に見え隠れしている悪意」と、この「世界樹を連想させるこれらのキーワード」を、一色単にして ”壮大な陰謀” として捉えていた。
それは、ニューという「勇者」の担当者が、あの『セビオ』であったことが大きく影響しており、場合によっては、この全てが『セビオ』による罠である可能性すらも考慮している。
最も、リンデンのこの考察は、ご存じの通り的を射ていない。
この状況は、先にも述べたように、「ニューによる無邪気な結果」と「セビオの計算外からくる自滅」による『偶然』の爆破2発によるもの。
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実際に、ギルドもフィオレ達も、セビオ含めた組織「ビー・ディ」に加担する悪意でさえも、「エヴァ達が砂漠の下に落ちた」ことなど、予想すらしていないのだから……。
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そんなリンデンの葛藤を他所に、『もも』達が示した横穴の「光る何か」から更に奥に進んだ広い ”部屋” で、椅子に座り、足を組み、グラスを傾けながら、何者かが微笑を浮かべる。
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実は、この微笑む者こそが、この現状を把握している唯一の人物であり、彼女達を「アリ穴」に誘った張本人である。
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光りの濃淡で意思を示しているような、横穴の奥から見える灯に誘われて、エヴァ達一行は、その横穴をどんどんと進んでいく。
わくわくと同時に、警戒を解くことのない勇者とぷち勇者達ではあったが、やはり「蟻」達との遭遇どころか、その気配すら感じない。
発光するその明度は、進に連れて徐々に高くなって行くのを感じる。
恐らくは、次の広めのスペース。その発光の光源が、そこにあるのを確信し、彼女達の足は早まっていく。
そして、踏み入れたその部屋で―――
待っていたのは、人の背丈程の「蟻」。
器用にもケンタウロスのように4本の脚で立ち、2本の前脚で「蛍」のような光る虫型モンスターを入れた籠を持ち……。まるで、行燈を持った御者のように、礼儀正しい姿勢で、その蟻はエヴァ達を待っていた。
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『ギ、ギギギ―、ギーーッ。』
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分からない何かを話しながらも、軽くお辞儀をするその蟻に殺意は感じられない。
また、導きの妖精の『もも』が、エヴァの肩から蟻の肩に宿り木を変えて、敵意なく笑いかけているのを見て、それは大丈夫な蟻なのだなと、エヴァ達は悟る。
「ふーん、案内……蟻? まるで、『にょ』とか言う糞猫が出てきそうな流れ。」
フリージアが心底嫌そうな顔をしながら、第2階層スライムエリアでの出来事を思い出しながら言う。
「そうだねー。あのときのイエロースライムに似ているよね?」
エヴァは、何故かそれと《《同じなのだな》》と確信を持っていた。
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(不思議だなぁ。わたしを待っている気がする。)
彼女はそう思いながら、横目でふとニューを見ると、彼はそれに気が付き、『多分そうだよー』と優しい笑顔で首をコクコクと振る。
(だよねー!?)
エヴァも、何故かニューが何を言いたいのか分かる気がして、顔を少し前に出し、「ね!」と、ニューに合図する。
この、無言での意思疎通。
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きっと、その何かが「待っている」のは、エヴァだけでなくニューに対してもであり、ふたりはお互いにそれが分かっているからで、
その、ほんわりとした関係性は、
エヴァには、とても居心地が良いものであって、安心感をもたらしてくれる。
「えへへ。」
「いひひ。」
エヴァのそれと、ニューのそれとが同じなのかは分からないのだけれど、
でも、やっぱりふたりは楽しそうで、その無邪気に笑い合う顔を見ながら、エヴァの導きの妖精『もも』も案内蟻の肩の上で、嬉しそうに笑う。
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一方その頃、砂漠の入口に設置されたギルド簡易コテージでは、遅れて到着して来たE級迷宮探索家のランカー達への対応で、内部はごった返していた。
20名弱の迷宮探索家達が、やっとの思いで砂漠の拠点に着いた途端に、コテージ内待機を命じられたのである。
しかも、セビオの指示は「待機をさせろ、でも試験の期限は変えない、夜には帰って打ち上げしたいから」であり、彼らを宥める職員達も釈然としない気持ちで、「今すぐ狩りに行かせろ!」と怒っている者達に対応している。
その騒然とした雰囲気の中、
背筋を伸ばし、優雅にそして厳かに、ひとりの執事が入ってくる。
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そして、その落ち着き払った声で言った言葉は、
何故であろうか、
この慌ただしい中でも、全てのものの耳に聞こえてきて、
そして、それは、彼らの顔を一瞬で青冷めさせる。
―――5分もしない内に、
100を超えるモンスターがここを通る模様です。ご注意下さいませ。
尚、奴らの目指す先は、南の町アサールムと見受けられます。
ここで、食い止めなければ、町が……まぁ、心配でございますね。ではでは。
「え? 今のって?」
「100超えのモンスター!?」
「それって……モンスタートレイン!?」
「いや、そんな数じゃない!」
「これは……」
『―――砂漠の魔物の、モンスターパレードだ!!!!!』
指揮を執るギルド職員が不在の中、只でさえ騒然としていたギルドのコテージ内は、その執事のひとことで、更なる混乱へと陥っていく。




