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俺の異世界冒険記!  作者: ワシュウ
聖王国編
410/411

閑話 グラ・スクラントン 帰郷の巻

これは、マリーウェザーが聖王国の冬期講習に行ってる間のお話し。グラ視点

夕暮れの逢魔が時、空に巨大な美しい魔法陣が出現し人々に奇跡の祝福の光が振り注いだ。


「おお、神よ。我らの罪をお許しください」


パックリ切られた背中の傷がみるみる治った男

バッサリ切られた腹が塞がった男

失った指が再び生えてきた男


「大昔に潰れた目が…?再び光が見える!おお奇跡だ!」

眼帯の男が歓喜の声をだす


「長年患った関節痛がなくなった?!」

腰のまがった年老いた男がシャキッと立った


「お兄ちゃん!顔の火傷が治ってるよ」

「え?!…あっ肌がボコボコしてない?!治った?!」

顔の半分が焼けただれた少年とその弟。お互いの顔を見つめ、それから顔を上げる。世にも美しい奇跡の空を見上げ、光の粒が手の平に落ちてくるのを見つめた


「天使が舞い降りた?!」

「凄い!本物の天使だ!」


輝くローブをまとい馬車の上に立ったそれは、子供のような背丈だった


「私は時の大賢者の弟子です!人の子らよ争う事なかれ」


幼い声が紡がれる。集まった人々が静かに聞いていた


そして目を開けていられない眩しい強い光が辺りを照らす…次に目を開いたら馬車の上には誰もいなかった


「奇跡じゃ…賢者様が我らをお救い下さったのだ」


「うおおお!俺は奇跡の瞬間を目撃した」

「我らは伝説に立ち会ったのだ!」

「我ら貧しい民の為に、天が遣わしてくださった賢者様だあ!」


先程までお互いに斬りつけ合っていた人々は、奇跡に歓喜の声をあげた――


最近までアルラシードど戦争していて鎖国していた、コルドバータ。今も国境では小競り合いが多い。

コルドバータ国内が安定しない中、僕グラ・スクラントンはアレナ女王陛下からグロステーレと国交を結ぶべく、留学した。


スクラントン公爵の血筋で生き残ったのが僕だから、そのまま公爵を継ぐことになった。


僕の父は公爵だけど、母はアルラシードから誘拐されてきた奴隷メイドだった。そして奴隷から生まれた子は奴隷。だけど僕は公爵邸で従者をしていた。公爵の息子達は僕の腹違いの兄達だけど、兄弟扱いは許されなかった。


母は公爵の寵愛を受けたせいで妻達に虐め殺されたらしい。僕は何があっても奴隷従者で、公爵子息むすこになる事は絶対になかった


それがある日、没落の一途を辿る。アレナ姫が双子の妹姫に冤罪をかけられ、牢へ送られ、更には犯罪奴隷と共に戦地へ送られる事になった。


そして、アレナ姫に関与があった兄と他の貴族も見せしめに最前線へ…僕は戦場で死ぬはずだった。


アレナ姫は試練の塔を攻略した戦姫だったが、アルラフマーンは遥かに強い戦神だった。皆死ぬと思った…


そこへ慈愛と豊穣の女神マリーウェザー様が現れ僕の運命を救ってくれた。あっという間に戦場を鎮め、草木も生えない荒地だった血みどろの荒野を緑の大地へと変えた。


その後、マリーウェザー様はコルドバータを救うために、アレナ姫に姿を変えて戦神アルラフマーンを従えて、試練の塔を攻略し、王宮に救う悪鬼を木っ端微塵にぶっ飛ばした。


だから皆は、アレナ女王陛下の勇姿だと信じて疑わない


マリーウェザー様と過ごしたカレッジ留学はとても楽しくて幸せな時間だった。

摩訶不思議な魔法のような奇跡と冒険の連続だった。思い出すだけで、僕を物語の主人公にしてくれる


たくさんの出会いがあって、グロステーレの人達は皆とても暖かくて元奴隷の僕にも良くしてくれて、母国コルドバータとの違いに涙した。

マリーウェザー様は聖王国に行ってしまわれたけど、クラスメイト達やスコット様は変わらず接してくれた。


卒業してコルドバータに戻らなければいけないと思うと憂鬱になった。卒業して、本格的な冬が来る前にコルドバータから迎えの使節団が来た。見知らぬ団長殿に挨拶されたけど、同じ褐色肌なのに知らない民族に見えた。


1年半程で、僕は自分がグロステーレの貴族になったと勘違いしてしまいそうになった。


僕の世話役のカヤックとルウと過ごした日々が愛おしくて、帰りたくなくて憂鬱になる。

使節団の人達とグロステーレの城でパーティーを開いてもらったけど、少しも馴染めなくて寂しかった。


僕を気遣ってくれたアイザック王子が話しかけてくれて、スカーレット姫の結婚式の為に聖王国に行くと言っていたのが眩しくて羨ましく思えた。


聖王国は人種差別が根強いから、コルドバータとの国交はまだない。だから僕がマリーウェザー様に会う機会は、もうなくなってしまったと気付いた。


スコット様が領地の温泉街に寄っていくかと誘って下さったけど、使節団の人達が予定を押してるからと、どこにも寄らずに最短ルートで帰る事になった。


お城のパーティーに呼ばれてなかったから、学友のモーリス達とも卒業式が最後の挨拶になった。


カヤックとルウはアルラシードの人間だから、使節団の人達が邪険に扱うようになった


ブサーヤ団長がカヤックとルウに「貴殿らの宿は取っておらぬ、別の宿を探されよ」と言って、まだ部屋に空きがあるのに追い出した。


「あー、じゃあ俺らは馬車で寝ますんで…では明日の朝…ごきげんよう?」


カヤックとルウの馬車はマリーウェザー様から下賜された魔法の詰まった馬車だった。宿に泊まるより馬車で寝たほうが快適だったから、笑顔で馬車に戻って行った


(※コルドバ語)

『ブサーヤ団長!なぜ彼らを追い出したのてす?

カヤックもルウもカレッジ留学中はとても世話になった、恩人を蔑ろにしないで頂きたい!』


『スクラントン公爵閣下…彼らは他国の人間です。我々とは違う、信用してはなりません』


『はあ?そなたは何を言うのだ?彼らの何を知ってるのだ?』


『留学していた閣下はコルドバータ情勢を知らぬのです。鎖国を解いたせいで我が国の民が奴隷にされ、アルラシードに流れています。国境付近では豊かになったコルドバータの緑の大地を荒らしています』


『鎖国前からアルラシードの民を奴隷にして連れてきていたのはコルドバータの方だ!

自国の民ですら奴隷にしていたのに何を今更。それに戦前まで国境付近のアルラシードの村を襲っていたのもコルドバータの方だ!』


『やはり信用なりませんな、閣下は彼らに嘘の噂を吹き込まれたのですよ』


『…は?何を言う?この目で見た真実だ!私は最前線にいたのだ!』


『最前線?何を……ああ、閣下は元奴隷の成り上がりでしたな。それでは愛国心もないでしょう。アレナ女王陛下の治世を支えるつもりもないと言う事ですか』


『貴様ぁ!私はアレナ女王陛下と共に戦ったのだぞ』


『若造が偉そうに…』ギリッ


『何だと!!』


『団長〜、そろそろ静かにして下さい、うるさいですよ』


『公爵閣下の我儘に付き合っていたのだ、もう話は終わった』


『話はまだ終わってない!』


『はいはい、ここの安宿は壁が薄いから他の人に迷惑です』

『ガキみたいに喚くのはおしまいにしてお静かに』


怒りと屈辱と悔しさで頭に血がのぼる

コルドバータの民度の低さに嫌気が差す、カレッジでこんな扱いされなかった


あてがわれた部屋は、大部屋でベッドの上は酒瓶と食べカスで汚れていた


『あ〜、公爵閣下だぁ、ヒック、安全のため護衛を務めますぅ ヒック…グロステーレの酒は美味いなぁヒハハ』


犬のように食い散らかして家畜のように寝床を汚す。

我慢してベッドに入るが怒りで頭が沸騰して寝れない。護衛のイビキと歯ぎしりと口臭…


僕も馬車で寝たかった


翌朝、カヤックが「最初からミシェランドの街道を行くよりも、途中まで中立派の領地を通ってブローニュの辺りでミシェランド入りして国境を越えた方が良い」と進言した。


昔、マリーウェザー様に教えられたルートらしい


ブサーヤ団長が「は?わざわざ遠回りするなど馬鹿なのか?話にならん予定通り最短で行くぞ」とすげなく却下した


「スクラントン公爵閣下は我々の馬車に同乗を、これ以上余計な事を吹き込まれる前に洗脳を解いて差し上げます」

「は?私は洗脳などされておらぬ!」

「では、我々の馬車に大人しく乗ってください。洗脳などされてないのでしょう?」


コルドバータの馬車は窮屈で臭くて乗り心地が最悪だった


問題が起きたのはミシェランドの宿の時だった。

来る時に団長らが宿でトラブルを起こしていたようで、宿泊拒否された。それどころか、無関係なカヤックやルウまでもが同じ褐色肌だから野蛮人扱いされた。

近隣の宿に噂が広がっていてどこも泊まれなかった


仕方なく街から外れた場所で野宿する事になる


『グロステーレの人間もこんなもんだ』

『我らを人種差別しやがる』

『こっちは金払ってるのにあの態度は何だ!』

『コレだから選民意識の強い奴らは』


カヤックが『俺、何か買ってきます。飯いりますよね?』と馬車に鍵をかけてルウを連れて街まで戻った。

しばらくして二人とも両手にパンや肉を持って戻って来た


「今から調理しますけど…そちらさんは自分らでやりますか?グラ…あっ、スクラントン閣下はどうします?」


もうカヤックにグラと呼んでもらえないのか…カレッジの寮で過ごした時間がもう懐かしい


「私は、迷惑でなければカヤックと食べたい」


カヤックは苦笑いして「迷惑じゃないですよ、じゃあ用意します」と準備にかかった。


馬車の荷物棚から椅子やテーブルとタープを出してキャンプの準備をした。すっかり暗くなった星空の下でランタンの明かりが煌々と輝いた


団員達は地べたに座って、近くの林から集めた枝に火をつけた。枝に肉を刺して焼いて、焼き具合も確かめずにパンに挟んで食べていた。


「カヤック、あいつら自分たちの持ってる水袋の水で腹を壊す」

ルウの未来視さきみで、出発が1日遅れると言う。ルウはマリーウェザー様が信頼する凄腕の占星術師で凶兆が読める


「ポーション使うの勿体ないから薬草スープ作って飲ませてやれ」

ルウの持っていたマリーウェザー様を模した人形ぬいぐるみが突然動いた…と思ったら本物のマリーウェザー様がいた!


「あれ?マリーウェザー様来てたんすか?」コソッ

「これ夢か意識の一部かな。カヤック手伝う」


数々の奇跡を起こす、豊穣の女神マリーウェザー様は時々、ルウの持ってる人形を依代に顕現される。


僕も幼子のように泣いて縋れば人形をいただく…いや僕はなんと図々しく厚かましい事か。


冬の風が寒い中、カヤックが作った薬草スープを団員に分けてやっても感謝の言葉もない。カヤックは気にしないと言っていたけど僕は恥ずかしい


グロステーレに来るまでは僕もああやって地べたに座って、くちゃくちゃとパンに齧り付いていたのに…今はマナーのない野蛮人に見える。

椅子とテーブルに座ってお行儀よく静かに食事するルウを見習ってほしい(※ルウは農奴出身)



ブローニュの赤レンガ倉庫街は、アルラシードからの荷馬車や商隊がいた。

カカオ、コーヒー、紅茶、ドライフルーツ、革製品、茶器等の競り取引きが行われていた。


「スクラントン閣下の奥方へお土産を買って行かれては?えっと、マリーウェザー様がここで買っておくよう言ってませんでした?」

「お師匠様がコーヒーとカカオは高いからジャスミン茶にして茶器とセットで包んでもらえって……青いリボンの店のは割れるから」

「おお、ルウの未来視さきみでそんな事も分かるのか。こりゃすげー。俺も母さんに何か買っていこうかな、ルウは何がいいかわかるか?こーゆーの何買えばいいか分からねぇ」

「ブローニュのワインとかジャムは料理にも合います、織物や糸も喜ばれる」


ブサーヤ団長は買い物より早く進みたいみたいだが、小遣いを握らせると皆黙った


この街からは、アルラシードの褐色肌の商人が多いから、僕らコルドバータの人間だからと差別されなかった


土産を買いすぎて僕が団員の馬車に乗れなくなったから、またカヤックの馬車に乗った。

やはり気心の知れた相手だと快適だった


ヨークの関所をこえると湿地帯ジャングルの道を進み、濁流の川に橋がかけられていた。


「グロステーレの技術力の高さに感嘆する」

「…コレは、お師匠様とアルラフマーン大使の橋です」

「なにっ?!マリーウェザー様が?…流石だ」


それから、野生動物のうろつく荒野を進む。

カヤックが猛獣の糞尿の染み込んだ布を馬車に引っ掛けて対策した。


「感心する、賢いやり方だな」

「これ、獣人保護区の皆さんの手拭い布をマリーウェザー様が貰って来たんですよ」

虎獣人のタイガが頭に浮かんだ。


日暮れと共に休んで、日の出と共に出発する。

カヤックの馬車は快適で、寝る時は天井が開いてロフト部分に広々と寝転がれ敷物ベッド

清潔で美味い水、スープとパンと肉料理、それはどの宿屋よりも美味かった


『水、スープ、欲しい人、皿持って取りに来て』


『カヤック、コルドバ語を話せるんだな』

『実家が料理屋らしいぜ』

『飯が美味いわけだ』

『なぁんだ、カヤックお貴族様じゃねーの?』

『平民出の兵士だって俺等と一緒だな』


『ちょっと前まで貧乏。今はそこそこ人気店です』


『お高い飯屋か?』

『繁盛してるんだろ?』

『アルラシード行ったらお前の店寄るわ』


いつの間にか愛想よいカヤックは、カタコトのコルドバ語を話せるようにもなっていて、団員達と打ち解けていた



――コルドバータ近くの村で事件は起きた、宿屋を探していた時に盗賊が出て馬車が襲われた。


「何があっても馬車から出るな!」

カヤックは剣を抜いて応戦していた


団長がコルドバ語で叫んだ

『我らはアレナ王女殿下の命を受けし使者ぞ、無礼者め!』


『ちっ、同族かよ』

『構わねえ、やっちまいな!』

『積荷を置いてけば殺しは死ねえ』


『そなたらはコルドバータ人か?同族同士で揉め事はしたくない。我らはアレナ王女殿下の命を受けし騎士団と知っての狼藉を…』

『うるせえ!』

『食いもん寄越せ』


『ぐはぁ…』

同族だと油断した団長が切られた


『団長!おのれぇ』

『逆賊ども死ねぇ!』


カーテン越しにグラが窓から覗いていたのが見つかった。咄嗟にルウがグラを突き飛ばす


次の瞬間、ガラス窓が割れてルウが破片を浴びた

「うぐぅぅ…」


盗賊の男の傷だらけの痩せた腕が割れた窓から伸びる

「ぎゃあ!」


そこをカヤックが斬りつけ、盗賊を蹴り飛ばした

「大丈夫か?」


「あっ、ルウが破片をかぶった」


「ルウ!無事か?クソッ、後で薬を渡すからそのまま隠れてろ」


カヤックがもう1人切ったところで、外から子供の声が聞こえた


『やめてー、兄ちゃんを殺さないでぇー』

『バカッ隠れてろ』


「何でこんな子供が?村人が盗賊まがいの事をしてるのか?」


『大陸共通語?アルラシードの馬車だったのか?くっ引き上げるぞ!』


『アイツ等は?』

『構うな、怪我人は置いてけ!』


『待ってくれ、お頭ぁ』

『クソッ、こうなったら一人でも道連れにしてやる!』


「おい、ヤメロ!『武器を捨てろ!もう止まれ!』」

カヤックはコルドバ語で話しかける



ルウは震える体で這っていき、床に血で文字を書き、白髪の人形を置いた



「お師匠様、お師匠様、どうか顕現下さい。お師匠様、お師匠様、どうかおいで下さい。

お師匠様…たすけて」



それはまるで簡易な儀式のようだった。


あの人形はマリーウェザー様が顕現される依代だが、いつも突然現れていて、こちらから呼んだことはなかった


ルウの血で書いた魔法陣が淡く光ると横たわる人形がピクリと動いて立った…そしてマリーウェザー様が顕現された


「え?ルウどうしたの?馬車横転した?え?外で争ってる声?…もしかして略奪にあってる?うわぁー…ルウ大丈夫か?目を怪我してるじゃん」


ルウは、僕を庇った時に破片が目に入ったようだ


「マリーウェザー様?来てたんスか?」ホッ


「カヤックも血まみれ?!…エクストラヒール」


「あ、これ返り血…って、何やってんすか?!目立ちますよ??はぁー…」


マリーウェザー様はローブを着て顔を隠し、馬車の上に立つと奇跡を起こした。


そして冒頭へ至る――



日が落ちて、馬車の外でカヤックがスープを作り、バーベキューをする。

村の真ん中で奇跡を起こしたせいで皆に見られてお祭り騒ぎになり…


「おい、にーちゃん、スープ一杯いくらだっけ?」

「スープと肉パンと水のセットで50銅貨ッスね」

「おー、安いな4セットくれ」

「はいよ」


「うんまっ!」

「父ちゃん母ちゃんおいしいね」

「ああ、腹いっぱい食え」

「おいしいわね」


「俺もくれ!」

「私も欲しいわ」



カヤックが始めたわけじゃない――

騒動の後、いつも通り馬車の横にタープを張って夕食の準備をしていたら、村人が数人来て「なあ、いい匂いがするな…いくら出せば食える?」と並んだのが始まり。


グラとルウは、その様子を馬車から眺めていた


「肉もパンもまだあるから、ルウこれカヤックに持っていってやれ」

「はい、お師匠様」


人形の姿のままで喋るマリーウェザー様に、色々と慣れてもう驚かなくなった。


スープとバーベキューをブサーヤ団長と手下に任せて、カヤックが馬車に戻って来た。


「あれ、何食ってんスか?」

「デュランのミートパイだよ、カヤックお疲れさま。さすが飯屋の息子」

「それ聞いてたんスか?アハハ」


カヤックが紅茶を淹れてミートパイを食べた

「うまっ…デュランさんまた腕をあげましたね」


「グラ、公爵家に迎えに来てもらえよ。王都まで1日だけど、早馬ならすぐだろ?」


「公爵家の人達は…僕を迎えに来るでしょうか?」


「バリバリ仕事できる伯爵令嬢だった奥さんいるじゃん。良縁なんだろ?なあ?」

「はい、お師匠様。グラ様に必要なお互いの欠点を埋めれる奥様です」


数回会っただけですぐに結婚して、そして留学してからは手紙を数回、正直顔もうろ覚えだ


「へえー、そりゃ理想的な奥さんッスね」


「大丈夫、手紙にお前の似顔絵描いて出してるし!夏にお土産送って返事の手紙貰ったじゃん!向こうは結婚してすぐに留学した旦那の為に領地復興したり、健気にもお前を待ってるんだろ?え?何が不満なの?」


「不満なんてありません…ただ、今更どんな顔して会えば良いのか」


「マリッジブルーってやつだな?ハッサムもこんな感じだったの?」


「ハッサムのは恐妻達の板挟みで、もっと…こんなんじゃなかったですよ」

(※ハッサム本人は商家の娘を母に持つ男爵子息。アブドゥルの縁談が転がってきて、出世して王女と公女を娶った頃)


「グラは領地と公爵家を仕切る出来たお嫁さんだろ?感謝を言葉にして毎日肩揉んでやれよ?」


「僕は厚かましくも何もしてないのに公爵になっただけの無価値な男です…妻になる人に申し訳ない」


「…まあ、押しつけられた公爵だしな。同じ立場なら相応しい人に譲りたいとか思うかもしれん」

「全くその通りです…僕なんかより、しっかりした人が公爵家を治めるべきです」


「だったら尚更、嫁の子供を立派な公爵に育ててやれよ。妻の血の方が優秀なら後世に残すのがお前の仕事だろ?精々しりに敷かれてろよ」


「後世に妻の血を残すのが僕の仕事…?」


「え、何その顔?難しく考えんなよ?夫婦円満が子育ての秘訣だよ?頑張れ、な?」


見かねたカヤックがフォローに入る

「マリーウェザー様はグラと奥さんの幸せを願ってるってことだ。

占いが全てじゃないけど相性の良い奥さんって分かってるだけでもさ、グラは有利だと思うぞ。奥さんの方だって、夫がすぐに留学して色々と心配してないか?」


カヤックに言われて自分の事ばかりだと恥ずかしくなった

「実家の伯爵家で領地経営を学んだしっかりした女性ひとだ。私の事なんか気にしなくていいのに」


「ルウ、なんかアドバイスないの?」


「はひょっ?!…えーと…そうですね、奥方の異母妹に注意が必要です。

公爵夫人になった異母姉を妬んで嫌がらせが始まります。今までは夫がいない哀れな夫人でしたが、グラ様が帰って来て円満になってくると、面倒なちょっかいかけてきます」


「おお!円満になってくる…って事は、そこそこ上手くいってるんだな?良かったね」


「異母妹の罠にかかって二股すると…奥方の信用をなくして破局の末に賠償請求され、最終的に顔を焼かれて砂漠に捨てられます」


ゾッとして血の気が引く…


「うわぁー…怖ぁ…それは悲惨な最後だね。

異母妹はアレだな出禁にしてやれ。奥さんには、あの女の匂いが臭いから家に入れないでって言っとけばいいよ、苦手なタイプだから相手したくないとか残り香で吐きそうとかとにかく近づくなよ」


「はい…」それで防げるのか?社交界で会う可能性もあるだろう…


「マリーウェザー様、それはさすがにあんまりじゃ?一応奥さんの親族なわけですし?」


「グラより権力者って、もう女王陛下くらいでしょ?一応グラはアレナの従兄弟になる?死亡フラグに近寄るな。我儘言える爵位で良かったね?公衆の面前で妻の親族だから首の皮一枚繋がってることを忘れるな…って脅しておけば?」


「さすがお師匠様です大正解です。未来視が出来るようになりましたか?」


「え?当たってた?じゃあグラは、死にたくなければ忘れずに異母妹は出禁にしろよ、奥さん大事にしろよ」


社交界に出た時にそう言えばいいのか。マリーウェザー様は僕の未来を導き照らす太陽のようだ



――翌日


起きると身長が少し伸びていた。


僕が出発した時と全然違う、緑の増えた王都に入る。

あのドブのすえた匂いが、建築ラッシュの木の香りに変わり、店先に花が飾られるほどの美しい都になっていた


僕には馴染み深いけど、良い思い出のない公爵邸に入ると…あの頃より美しい庭になっていて花壇には花が咲いていた。


窓から覗くと、見慣れない門番が僕に気付いて門を空けて、にこやかに挨拶をした

「おかえりなさいませ公爵様」


彼はどうして僕が公爵だとわかったのだろう?

その理由はすぐに分かった


「お帰りなさいませ、旦那様」


留学前のうろ覚えだった女性の顔が鮮明に思い出された


「ただいま戻りました…」


屋敷入ってすぐのエントランスホール正面の階段の上。以前は前公爵の肖像画があったところに、小さな額縁が…


マリーウェザー様が手紙と一緒に描いた僕の絵があった。なるほど、これで僕の顔が屋敷の人間に周知されていたのか


「留学中に背丈が伸びましたね、仕立て屋を呼んで新しく作らせましょう旦那様」


「あ、はい、分かりました」


「旦那様は公爵です、私に敬語など不要でございます」


ニコリと笑ったのに、何だか緊張する。


カヤックとルウを客間に案内して、僕も自分の部屋に戻る。豪華な部屋は少しも落ち着かない…父上の部屋だったから当然だけど


「ハァー…帰ってきてしまった」


夕食の席に着くと、遠くなった席にカヤックとルウが座ってる


「まあ!カヤック様はアブドゥル・アルラフマーンの部下でいらしたのね。武勇伝はこちらにも伝わってましてよ」


「アハハ俺が活躍した訳ではないので…

それより留学中の閣下の話しは?」


「まあ、聞きたいですわ旦那様」


「えっと、留学中はコルチーノ兄妹にお世話になっていて」


「お手紙にあったスコット様とマリーウェザー様ですわね?リヒテンシュタイン城の紅玉芋は輸送中に半分芽が出たので畑に植えたのです。アレナ女王陛下がよい土地を探してくださったのですよ」


「ああー、紅玉芋は美味かったッスねー。グロステーレでも高級食材ですね」

「お師しょ…マリーウェザー様がサザーランドのお菓子の大会で出してましたね」


「んまあ!お菓子の大会がありますの?グロステーレは聞きしに勝る豊かさなのですね」


「寒暖の差が激しいから冬は雪が振って一面真っ白になるのだ。とても美しい景色だった」


「雪と言うと寒くて冷たい冬の悪魔だと聞きましたわ」


「うむ、備えがなければ死者がでるらしいな。コルチーノ伯爵領で冬を過ごさせてもらったが、あそこは――」


「雪を見ながら入る温泉は故郷じゃ味わえないッスねー」

「心身癒される湯ですね」


カヤックだけでなく、普段は大人しいルウも会話を盛り上げる手伝いをした


「カレッジでは、スカーレット王女殿下が聖王国に嫁ぐ前まで我らを気にかけて下さったのだ」


「あら、レイナルド王太子ではなく?」


「うむ、在籍するクラスが違ったから私と接点はそんなに無かった。それにレイナルド王太子殿下のクラスにはアルラシードのザエルアポロ第二王子殿下がいたのだ」


「あら、それはカレッジ側の(政治的)配慮かしらね」


「だが、アイザック殿下とは親しくなれたと思う。ダビルド公爵子息ショーン様とも話す機会があったのだ」


「まあ!それは素晴らしい留学でしたのね――」


話し上手なカヤックと妻のおかげで夕食は話題が途切れなかった。


自室に戻りパタンと広いベッドに寝転がった。柔らかい布と知らない香油の香りがした


コンコンとノックの音がして、妻が入って来た


「旦那様、少しお話しがございます。お疲れとは思いますがよろしいかしら?」


「あ、はい…ああどうぞ」


メイドがお酒とつまみも持ってきた。

グロステーレのブローニュの赤レンガ倉庫街で買った焼き菓子とワイン…とバターで焼いた紅玉芋


「お土産をありがとうございます。実家や知人に渡す前に私も味見しとうございます」


よく考えたら初夜らしい事はこれが初めてかもしれない


「それで、旦那様はマリーウェザー様とはどういったご関係ですの?」


は?

夕食であれだけ説明したのだが、伝わらなかったのか?

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