アイザック 聖王国へ留学する
結婚式の翌日から俺の唯一の仕事の「湯浴みのお手伝い」は来なくてよいと言われてしまった……え?解雇?
「姫様は、朝起きてすぐに湯浴みするから。マリーウェザーはしばらく学業に専念なさい」とメアリに言われた。
別にキスマーク付いてるのをからかったりしないよ?子供に見せるのはまだ早いとか思ってんのかな?
カトリーヌ達がしばらくいるから大丈夫なんだとさ……ああ、俺の癒しの園が
それとは別に、グロステーレ第二王子アイザックが聖王国に残って、留学生をやる事になった。
王様に我儘言って通ったらしい。
スカーレットの結婚式の件で心配だからとか建前言ったようだ。
アイザックは編入試験を受けたりして、正式にサイモンのいる12歳のクラスに入ることになった。(※14歳だけど)
それに伴い、何故か俺もサイモンのクラスに組み込まれた。
王様直々にお願いされた…急に呼び出さないで欲しい、粗相があったのかとびっくりしたやんか!
当たり前だけど、クラスメイトは騎士を目指す12歳の健康優良児ばかりで、8歳の俺が紛れ込むとチマっとしてる。
14歳だけど、小柄なアイザックは身長だけならクラスに溶け込んでる。
見た目詐欺の引き締まった高身長のサイモンが、俺にくっついてくるせいで余計に凸凹コンビに見える。
「マリーウェザー、良かったのかい?…私の我儘に付き合わせてしまったね。このクラスは選択授業が騎士コースなのだけど…マリーウェザーは文官志望なのだろ?」
「私は騎士コースを選択してますから問題ないですよ?」
そう言いつつ、目の前には書類の束…
冬期講習で書いたレポートをオリンピア大祭で発表する為に、まとめ直したり、挿絵や図を描かされたりしてる。
ついでに、先日やった実力テスト(※アイザックは編入テスト)で、全ての学年で首位を取った。やたら大量にあるなと思ったら、全学年分のテストやらされてたらしい。
(※認めない先生のイヤガラセで増えたがマリーウェザーが完封した)
成績スコアがババーンと貼り出されて、見せびらかしてるみたいでなんか恥ずかしっ!
他の学年の生徒が「マリーウェザー・コルチーノってどいつだ?」と見に来たりするけど、だいたいサイモンとアイザックに隠してもらってる。
(※アイザックは意図して隠していて、サイモンは図体がデカいだけ)
ひやかしですぐ帰るし、他国の王子様をジロジロ見てはいけない良識くらいはあるらしい
問題は、騎士科の基礎運動についていけない事だ…クソッ!
平均的な8歳の体力しかないのに、騎士を目指す体格の良さげな12歳児と一緒に体力づくりの走り込み…ヘロヘロですよ!
鉄棒だって手が届かないよ!
走り幅跳びだって皆んなより短いよ!
高跳び、障害物レースたって皆んなよりハードル低いですよぅ!
今日は、運動場のランニングコースのトラック最後尾をチンタラ走る…俺の横にはアイザックが並走してくれてる。
「ハァハァ…マリーウェザーに1つ勝てた事が嬉しいよ」
「ハァハァ…お喋り、余裕、あるのですね…」
あんま話しかけんといて体力無くなるやんか!んひぃ〜…クッソしんどい!
ポケットから出した風にアイテムボックスから小さな水筒を出して、こっそりぐいっと飲む。
もちろんポーションだ!
スゥ~っと体に染み込むと疲労が回復する!筋肉に溜まった乳酸が溶けて消える!減った体力がギュンギュン戻る!流れた汗がまた出てくる※シャツがビチャビチャ
軟弱なお前も辛いはず、遠慮するな…「アイザック様も飲みますか?」コソッとニコリ
「えっ(関節キッス?!)ハァハァ…もらおう!」
アイザックも嬉しそうにぐいっと飲んだ
「ハァハァ…マリーウェザーのくれた水だと思うと、凄く美味しく感じるよ!元気が出たありがとう」
うん、飲む前から元気そうだね。
それポーションだからね?体力回復した?
そしてサイモンも汗かいてびちゃびちゃなのに、なんか爽やか飲料のCMみたいな涼しい顔で完走して、エースのスポーツ青年みたいに余裕でストレッチをしていた。
足の長さか?ズルいよね?サイモンのくせに!
体操服が小さくてへそがチラリと見えたけど、何でそんな腹筋引き締まってるの?いつの間に鍛えたの??
そう言えば、斬鉄と早朝ランニングしてるんだっけ?…俺はヴラドが起こしに来るまで爆睡してるのに!
俺を見つけたサイモンがパァァと顔を笑顔にして、犬のようにやって来る
「お嬢様大丈夫ですか?8歳なのに凄いですね」
「コルチーノ嬢、大丈夫かい?まだ休憩が必要かな?」
教官が気を使ってくれる
「もう体力づくり嫌です!……スミマセン心の声が漏れました、問題ありません」キリッ
「おや、意外と元気そうだな。よし、それじゃあ木剣を持ってペアを組んで素振りと打ち合いをしよう…と言いたいところだが、君と身長の合う生徒がいないんだ」
と言う事で、一人だけ前に出て先生のお手本の真似をさせられる
「剣を振り抜く時に気をつけるのは、この部分…脇が甘くなる所だ。コルチーノ嬢のように素早く体勢を戻して次の動作に繋げ体幹の軸を――(以下略)」
大きな藁人形に向かってひたすら型の練習…打ち返してこない相手にバシバシ―。
「頭良くてもチビじゃ騎士になれないな」
「成績だって本当に実力で首位になったのか?」
体力だけが自慢の頭悪そうな貴族子息の辺りから、心無い声が聞こえてくる…
「マリーウェザー気にしては駄目だよ?」
アイザックが気を使って言ってくれるが…
「あら?もしかして私の事でしたの?8歳の女の子に意地悪を言ってると思いませんでしたわ」
そう、俺はまだ8歳だからね?
「どこのどいつですか?必死に頑張ってるお嬢様に意地悪する輩など、騎士の風上にもおけない!私が斬り刻んできます!」
見た目詐欺のサイモンが爽やか笑顔から一転、親の仇を見るような目で睨みつける
自分より強そうなサイモンには近づかない。脳筋集団のくせに狡賢いじゃないか。あんま調子乗ってると校舎裏に呼んでボコボコにしてやるからな?
――教室に戻ったら机の中に、放課後の校舎裏に呼び出し状が入っていた。よほど俺が気に入らないんだな。
衝撃結婚式の件でアーデルハイド派がぐらぐら揺らいでるから、今まで燻ぶっていた勢力が出てきたみたいだ。
「ヴラド、誰からだ?」
「ノルン・ボーへル。アインホルン侯の分家の三男です」
「アインホルンの一族は脳筋が多いな」
陰に問いかけるとヴラドから返事が来る。一体いつの間にどうやって調べてるんだろう?まあ、いいや。
宛名の無い手紙なんて何に利用されるか…思い知るがいい!
学年で一番ゴリゴリムキムキのウホ疑惑があるゴリ雄の机の中に入れ直してやった。
ゴリ雄が手紙に気付いた所で忍び寄り「それ…ノルン・ボーヘルの手紙ですよ。恋文ですか?」とコソッと言い逃げ。
嘘はついてないよ?
翌日、ノルンがケツを押さえて登校していた。椅子に座るのが随分としんどそうだ、ザマァみろ
――カトリーヌ達が帰る日の前日
王宮のホールで、ささやかながらお別れパーティーが開かれた。
俺はアイザックにエスコートされて参加した。
「マリーウェザー…これを君に」
「花飾りですか?ありがとうございます」
アイザックから椿みたいな簪をもらった。お団子ツインテールのリボンの片方に差してもらった。
スカーレットのお友達や派閥のご令嬢&ご子息が招待されていて
俺の友達を呼んでもいいと言われたから、キャシー、ビクター、エリアス、ミハイルと姉のコリーナそれからアンジーナと神官カツェーリを誘った。冬期講習で仲良くなったから
それから、幼年学校で同じクラスだったマックとリーリックも招待した。
マックは、スカーレットのメイドのゼラの甥だから同派閥で問題なかったけど
リーリックはヘンドリックの弟だ…。リーリックからヘンドリックに話が伝わり、そこからアベルに話がいったようだ
リーリックの馬車にヘンドリックが乗ってたのは兄弟だから仕方ない…がしかし、アベルが堂々と自分の馬車で来た
俺は誘ってないよ?
でも、なんかアイザックが嬉しそうに話しかけに行ったから不問になったっぽい。
――アイザック視点――
スカーレット姉上の結婚式の事件は、何が起きたか頭がついていかない内に、鮮やかに解決した。
父上と聖王猊下が話し合いの間、僕は学校へ体験入学させてもらえる事になった。僕がふらふらしていても何の役にもたたないから
だけど、姉上が手を回してくれてマリーウェザーと同じクラスに…!やっぱり姉上は聡明で頼りになる。周りをよく見ていて気遣いができて、僕を可愛がって想ってくれる。
はぁー…姉上がグロステーレに残ってくれたらなぁ。そうすれば姉上を共に支えようとマリーウェザーに求婚出来たのに。
マリーウェザーに馴れ馴れしく話しかける男が誰かと思ったらサイモンだった。あのヒョロヒョロが!?僕もこんなに大きくなるのだろうか?
クラスに馴染めるようにマリーウェザーがアレやコレや世話を焼く。マリーウェザーの説明は要点と疑問点と答えがとても分かりやすくまとめられている。マリーウェザーは僕に合わせて急遽入ったクラスなのに、翌日には学校の教材と間違えた程の完璧な資料を用意してきた。
やっぱりマリーウェザーの賢さは他の追随を許さない
聖王国のアベル王子が側近を連れて挨拶に来た。
年相応の快活な王子だと思った…が、マリーウェザーの価値を理解してる!侮れないと思った
と言うか、僕とマリーウェザーだけの秘密の出会いを話してしまった。ゲテルバーデンや妖精の話が普通に話せて驚いたけど…もしかしたら全ては、マリーウェザーの周りの出来事なのかもしれない
僕以外の王子と仲良くするなんて…マリーウェザー?どういう事かな?
以前、姉上からアベル王子は田舎で暮らしてたからよく知らないと聞いていた。塔の中で暮らしてた僕と違って、自由に伸び伸び生きてきたのが言動で分かった。
マリーウェザーもアベル王子の自由な所にちょっと戸惑ってる様子だった。マリーウェザーは賢い人が好みだから僕のほうが勝算はある
マリーウェザーは運動神経もよくて、一度見ただけで剣の型を模倣していた、素直に称賛する。
だけど、年下の女の子だと初めて改めて理解した。
マリーウェザーがマラソンでバテだした時は胸が高鳴った。
そんなマリーウェザーから目が離せなくて一緒に走った。あのマリーウェザーが僕と一緒に走ってる!
こっそり水を飲む唇が可愛いと見ていたら、おもむろに差し出してきた
「飲みますか?」
飲・み・ま・す・か?
それって、間接キッス?!
マリーウェザー、君は分かってるのかな?僕が飲んだら君も僕の間接キッスだよ?
妖精のような可憐で可愛い君の唇から目が離せない。
胸が騒いでその夜はなかなか寝れなかった。
座学の授業はマリーウェザーが突出していて、実技の授業はサイモンが目立っていた。
僕はマリーウェザーの参考書のおかげでカンニングをしてる気分だ。
――姉上の側近だったリヒテンシュタイン嬢らが帰る前に急遽パーティーをすることになった。
「マリーウェザー、アイザックのエスコートを頼むわね」
「かしこまりました、お任せください姫様」
ドレスのプレゼントは間に合わないし、装飾品もない
「せめて、ドレスの色だけでも知りたいのだけど。マリーウェザーに合わせて来るよ」
「……えっと、以前下さった青い石のネックレスと制服で」
カトリーヌ「マリーウェザー、制服でパーティーに来るつもりなの?」
スージー「ないのなら、今から買いに行く?」
メリンダ「子供用ならどこで買えるのかしら」
「薄いピンク色のポンパドール・ドレス持ってますから、差し色の腰のリボンは赤です」
「アイザックの服は?」
「青いのと、緑のと、白いのです」
カトリーヌ「では青いリボンをマリーウェザーの髪につければどうかしら?」
スージー「あら、白い衣装ならマリーウェザーの髪色に合わせた感じになりませんこと?」
メリンダ「マリーウェザーの腰のリボンを白くすればお揃いになりますわ」
スカーレット「あら、マリーウェザーの髪が白いからリボンまで白くすると全体がボヤけないかしら?」
マリーウェザー「子供は何を着ても大体似合いますよ。白のリボンも持ってます」
令嬢達がマリーウェザーに髪型はどうするとか盛り上がっていた時に、姉上にこっそり花の簪を渡された
「東国の貢物なのよ、マリーウェザーにアイザックから渡しなさい。私からだと言わなくていいのよ」
「え?姉上の大切な品ではないのですか?」
「いいのよ、私からマリーウェザーだけにあげたら贔屓になるでしょう?アイザックから渡してあげなさい」
「ありがとうございます姉上」
「ふふっ頑張るのよ」
そう言って姉上は優しく微笑んで僕の頭を撫でた。
――パーティー当日
馬車で迎えに行って簪を渡した。
「ありがとうございます。ヴラド、髪に差して」「かしこまりました」
「マリーウェザーの絹のような白い髪に赤い花がよく合うよ」
「椿の花ですね。ちょっと大人になった気分です、長く使えそうですね」
笑った顔が花の妖精のようだよマリーウェザー
パーティー会場に着くと、マリーウェザーの友達を紹介された
「マリーウェザー、招待ありがとう。可愛らしいドレスと花の飾りだね。アイザック殿下ご挨拶申し上げます」
「ミハイルはご存知ですよね、こちらはコリーナお姉様です」
「グロステーレ第二王子アイザックです。よろしく」
「お会いできて光栄ですコリーナ・シューマッハです。弟がお世話になっております」
「そして、こっちがアンジーナです」
一通り紹介が終わった所で、アベルが入ってきた。
「マリーウェザーだったのか、花の妖精がパーティーに紛れ込んだのかと思ったぞ」
「ごきげんよう。お褒めいただき光栄です殿下」
「頭の花飾りがよく目立つ」
「アイザック様から頂きました」
「私からの贈り物だよ、マリーウェザーの髪にはえるよ」
「うむ、私も次は何か贈ろう」
「お構いなく」
「遠慮せずともよい」
「遠慮しますよ」
僕が口を開く前に、ミハイルが先に進言した
「アベル様、必要な時に必要な物を贈らねば迷惑ですよ。筆記試験の前に剣を贈られても困るでしょう?」
「あ、あぁ、そうだな。マリーウェザーも困ったときに私を頼るといい。私は十分に世話になったから」
「ありがとうございます、あっ、じゃあカツェーリ先生を皆に紹介してください」
マリーウェザーがニコリと笑ってアベルを見た。
「うん?…ああ、ピエルマーニ先生も来ていたのか。うむ分かった頼まれよう」
胸がざわついた。アベルの方が齢も近いし…僕より仲良くしないで
「マリーウェザー!僕と踊ってくれるかい?」
「はい」
向かい合って手を添える…身長差が開いてる?あっ…マリーウェザーより僕の方が大きくなったんだ。
くるりと持ち上げて回ると、ニコリと笑って僕を見上げる。
キラキラと夜空のような深い瞳に吸い込まれそうだ
奇跡と魔法の秘密は僕と君だけ、だったのになぁ
「マリーウェザー、アベルといつから仲良くなったの?」
あっ…咎めるような言い方してしまった(※ドキドキ)
「はい?そこまで仲良くないですよ?面倒を押し付けられてるだけです。アイザック様と違って我儘で自己中です」ズバッ
「へぇー、アベルの我儘を聞いてるんだね」
「自国じゃないですからね、それなりに気を使います」
お腹の辺りがモヤモヤする。
僕も我儘になっていいの?だけど、我儘を言って困らせたくない
君はきっと美しく成長する…その時に僕が側にいるかな?
僕の知らない所へ行かないで、君と同じ所に連れてってよ
「マリーウェザー、僕と…」
その時だった、ざわりと会場がざわめいた
スコットとその婚約者マリアが入ってきた。
マリアは黒髪を結い上げて、背中の開いたセクシーな赤いドレスを着ている
「マリアは恐ろしく美人ですね、何で目立とうとするのかしら?」
「スコットの婚約者だからだろう?これが社交界デビューなんじゃないかい?」
「美人が目立っても良いことないと思います」
「妬まれるから?」
「変な人に付け込まれると思います、心配だわ」
「スコットがいれば大丈夫ではないかい?自分の婚約者は守るだろう?」
「不敬と怒らないで下さいね?……レイナルド殿下がマリアを狙ってると思います!」
「ん?…あぁ、そう言えばそうかもしれない。マディリーン嬢では社交が不安だと言ってたから。マリーウェザーも逃げたしね」
「逃げますよ、私より相応しい人がいますよね?」
「さあ、どうかな?マリーウェザーより素敵なレディは見かけないなぁ…。
なるほど、そこでマリア嬢か。商人の彼女なら外交に向いてるだろうし、スコットの妻になれば兄上が連れ歩いても良い身分になるね」
「本人は望まないと思いますわ」
「僕は夫婦で兄上を支えてくれたら…と思うけどね」
そこで音楽が丁度終わった。
もう一曲踊って欲しいけど…アベルがこちらに来た。
すると、横からサイモンが来て「お嬢様次は僕とお願いします!」と手を差し出した。
「サイモン、あなた大きくなったから身長差が」
「問題ありません!手をつないで回れば大丈夫です!」
「え、あ、ちょっと」
マリーウェザーはサイモンに抱えられるようにダンスの輪のなかに…
マリーウェザーを眺めていたかったけど、姉上に呼ばれて挨拶回りをした。
可愛い弟だと紹介され、頼りになる自慢の美しい姉ですと答えて回る
マリーウェザーは今度はミハイルと踊っていて、ヘンドリックや学友達と踊っていた
いつか君と続けて踊れる仲になりたい
挨拶回りが終わる頃には、マリーウェザーは疲れていた。
寄りかかっていいんだよ、僕の隣はいつだって君だけの特等席だから
胸が締め付けられて今日も夜が更ける




