②
(あそこ、苦手なんだよな。親父の性格もあるけど雰囲気が怖い…)
俺の父バートラム王は基本的に無表情で、言葉数が少ない人だ。
だから普段、何を考えているのかわからないと臣下達から言われている。
それでも、王妃様や兄上が父の表情を読み取り、臣下達に上手く伝えているので何とかなっていると思う。
俺からみた父は、とても繊細で責任感があり、常に自分個人ではなく王としての役割を全うしようと生きておられると思う。
相手が思っている以上に相手や周りを見ているし、よく考えて行動している。
謁見の間へ着くと、城の者に案内される。
扉が開けられ、俺はその赤い絨毯の上を歩く。
そのあと王の前で膝を着き、頭を垂れる。
「ノーザンデリア王国の王配、オズモンド・ノーザンデリア。国王陛下の命令により謁見の間に参上いたしました」
「うむ、面をあげよ」
そう言われ、俺は顔を上げる。
俺と同じ、緑色の瞳をしたバートラム王が目の前の玉座に座っていた。
「オズモンドよ、この度はご苦労であった。元気そうで何より」
「はっ、父上もご健勝のことと存じ上げます」
そのあと、少し静かな空気になったが父上が口を開いた。
「この度謁見の間に参上させたのは、今夜開かれる王宮での舞踏会に王太子代理として出席して貰う為だ」
「はっ、畏まりました」
王太子代理、これはいつもの事で、兄上が体調の優れない時に、俺やアルトが代理として何回も出席している。
(…というか、ノーザンデリアでの事は聞かないんだな)
俺は、父の心の声なんてわからないので、その言葉通り頷くしかなかった。
そのあと父の側近から来客リストを貰い、それを暗記するため暖かい暖炉とソファーが置かれているスペースに移動する。
「うゎ、これ3分の1はメンバーが変わってるな」
と過去の来客リストを思い出しながら、来客数を数えている時。
「あれ、異母兄上!こちらにいたんですね!」
と声変わりした、声が聞こえてくる。
8年前は9歳だったので、当時と比べれば背格好も違う俺の異母弟のアルト王子だった。
王妃様と同じ赤毛に、俺と同じ緑色の瞳をしている。
「あっ、丁度よかった。アルトに用事があるんだ」
と言って俺の隣に座るように指示する。
「今、そちらに行きますね」
とソファーに近づいた瞬間、俺はアルトに組みつきをした。
「兄上、痛い!!痛い!!痛い!!」
「王太子命令だからな、俺も騎士団で相手にされないから丁度よかった」
「は!?あの腹黒兄貴!!痛い!!痛い!!痛い!!」
ソファーの上で組みつかれ、ギブアップだと言いながらパンパンとソファーを叩いていた。
冬場だと言うのに顔を赤くし、息も乱れている。まったくもってだらしない。
そのあとアルトが、俺の見ていた来客リストを覗いている。
「あぁ、今夜の来客リストですか」
「あぁ、さっき父上に言われてな。王太子代理だとよ」
「なら、父上は兄上に長い話があるんでしょうね」
「?、どう言う事だ」
「実は僕も兄さんと父上が書簡を見ている所を見かけて、兄上を謁見の間に呼ぶと聞いていたので。そこで話すなら手短な話ですし、場所を移すなら長い話かなと思っていたんです」
「なるほど、俺はお前達兄弟が羨ましいよ。全然わからなかった」
「今回、兄上を王太子代理にしたのも。個人の時間が取れない父上が、兄上と抜け出して2人きりになれるのは舞踏会しか無いと思ったんでしょうね」
「でも、兄上が代理になってくれるなら良かったです。今夜はぐっすり眠れますね」
「そんなこと言ってると父上は勿論、兄上にも怒られるぞ」
「だから、兄上に言っているんでしょ。僕だって公務が面倒臭いと思う時ぐらいありますよ」
「気持ちはわからなくないが、王族として生まれた身なんだからその任は全うしないと」
「ホントに兄上はクソ真面目というか、責任感が強すぎますよ」
と呆れた様子で言っている。
そのあと、心配そうに俺に話かけてきた。
「というか兄上、これからどうするんですか?ノーザンデリアも兄上が居なくなって混乱しているみたいだし、この帰省は一時的なものですよね?」
「わからない、父上次第だな」
「それはそうですけど、でも兄上がどうされたいのかが一番じゃないですか?どうするんですか、こちらで王様にでもなるつもりですか?前、王位継承権もってたでしょ?レコンキスタで今、王太子の兄さんと僕どちらを時期王にするか揉めているんで、間をとって兄上がなりますか?」
「それは前の話だろ、父上に言って結婚した時に他国に嫁ぐし、混乱するから俺を除いてくれと言っている」
「でも、僕を差し置いて2位ですよ!2位!」
とピースサインを見せつけながら言っている。
確かに俺は婿入りする前、次男だったので王位継承権2位の立場にいた。
でも実質、母の出身や後ろ盾で決まる為、兄弟の中だと優先度が一番低い。
「俺なんかより下に妹も2人いるし、後ろ盾もないからな王様になんかなれないぞ」
「でも母上が、兄上を王様にできる様にプランは考えてくれたじゃないですか?」
「まぁ…、確かにそうだけど」
生前王妃様は自分の息子達に何かあった場合、俺を王妃様の養子にして実家や貴族達を説得し、俺を王にできるよう考えてくれた。
しかし今は王妃様も亡くなっているし、俺は入婿になっているので後ろ盾もない。
「とはいえ、うちは長子継承ですからね。全員、王位継承権を持っていますし候補なら腐る程いますよ」
そう、レコンキスタでは珍しいが男女共に王位継承権が持てる長子継承になっている。
第一子が一位となっているので、父の前の代は第一子であった祖母が女王として即位している。
「というか、大丈夫なのか?兄弟で継承者争いなんて…」
「心配には及びませんよ、三人だけで集まってきちんと話ましたから。確かに兄さんは病弱で、公務もまともに出来ないから「名ばかり」だと言われますけど。僕は兄さんが王に相応しいと考えていますから」
「そうか、それならよかった」
「兄さんはね、確かに誰かに支えて貰わないといけないかもしれない。でも、王は一人ではなれないんです。兄さんはそう言った支えてくれる人に感謝し、そのありがたみを知っています。だから、僕は兄さんを支えたい。僕は宰相になって兄さんを支えます。勿論、兄さんに何かあっても即位できる様に準備しておきますけどね」
「きちんと考えているならいいんだ、俺は文句も言わない」
「でも、兄上のせいで僕の考えが崩れそうなんですよね」
「どう言う事だ?」
「だって、兄上が帰って来ちゃってるじゃないですか。ノーザンデリアの王配という枠は、同盟国のレコンキスタにとって同盟よりも強い結び付きになるんです。ですから、その枠を他国に取られる訳にはいかない。そうでしょ?」
「まぁ、確かに」
王族において婚姻は、政治的同盟や条約より強い結び付きになる。
俺の結婚だってレコンキスタとノーザンデリアの繋がりを血によって硬く結び付けるものだ。
王族でなくても、同じ事をやっている人は沢山いる。
「だからどうしても、王配にはレコンキスタの王子でなければいけないんです。兄上が帰って来たら次、僕が行かないといけなくなるじゃないですか!!」
「さっき宰相になるとか言ってなかったか!?父上だって俺を戻すより、俺をノーザンデリアに返すって言う考えの方が先に出るかもしれないだろう?」
「わかりませんよ?でも、入婿もいいかもしれませんね。リリアンヌ女王陛下も大人の女性には失礼ですが、可愛らしい方だと思っていたんですよ。いいですか兄上?」
「ダメだ、お前にはやらん」
「あはは、兄上はリリアンヌ様のお父さんですか?失礼、元旦那さんでしたね」
そのあとすぐ、アルトに組みついた。
「痛い!!痛い!!痛い!!」
と笑いながら組みつかれている、何が楽しいのか。
「そんなに思っていらっしゃるなら、側にいてあげればいいのに」
「…大人には、大人の事情があるんだ」
「ふ〜ん、そういえば兄上はあちらで「砦」と呼ばれているんでしたっけ?」
「…」
「兄上砦はね、守るべきものがあって初めてその効果を発揮するんです。それにこんなに遠くにあっても意味がないでしょ?リリアンヌ女王陛下も兄上にもっと近く、側で守って欲しいんじゃないですか?貴方の守るべき城はここではないでしょ?」
「…お前も、生意気言うようになったな」
そう言うと、アルトはニカッと笑ってそのまま立ち去ってしまった。
Ep9の②を読んでいただきありがとうございました。
次は、Ep9「里帰り」③をお送りします。
③でEp9はラストになりますのでよろしくお願いします。




