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「もうすぐ国境を越えるな…」


そう言いながら俺は、客室にある列車の窓を見ていた。

ノーザンデリアからレコンキスタまでは、丸2日かかる。

そのため俺は昔、通っていた頃と同じように列車で寝泊りしていた。


窓を見ると、山をくり抜いたようなトンネルが見えてくる。

レコンキスタは山々に囲まれており、その中で人々は暮らしている。


長い真っ暗なトンネルを抜けると、赤いレンガ作りの雪国特有の雪に埋もれ、角度のある尖がった屋根の家がちらほら見えてきた。

今は雪に埋れているが、それが溶けるとカラフルな屋根が見えるだろう。

レコンキスタは涼しい夏と寒い冬しかなく、ノーザンデリアのように四季はない。


その後、列車は首都であるカヌイに到着し、俺は郊外にある平民達が暮らす区画へと足を運んだ。

細い路地を通り、一つの小さな平家の前に立ち止まる。

俺はコートのポケットから鍵を取り出し、扉を開けた。

(もう8年前になるんだな、ここを出たのは…)


扉を開けるとテーブルの上で家計簿か何かを書いている、俺の母親ケイトの姿を見つけた。

俺と同じ赤茶色の髪に、眼鏡をかけその瞳は夕日のように暖かい橙色の瞳をしている。

「あら、お帰りなさい。オズモンド」

昔から変わらないその声に、俺は安心する。


その後母親から挨拶のハグをされるが、子供の様に泣き出してしまった。

「母さん。俺、俺!」

母は何かを察したのか俺の顔を肩に乗せ、ポンポンと頭を撫でてくれた。

               

その後、なんとか落ち着き母が座っていた反対側の席へ案内される。

「何か、温かい飲み物でも飲む?外は寒かったでしょ?」

「母さん、俺が猫舌なの知ってるだろ」

「あら、じゃあ女王様と一緒にお茶をする時はどうしているのかしら?」

「会話をして、紅茶が冷めるまで誤魔化してる」

そういうと、2人でクスクスと笑い合っていた。


「でも嬉しいわ、もう帰って来ないと思ってたから」

「…母さんは俺が何で帰ってきたのか、とか聞かないのか」

「別に。貴方が帰って来るなんてよっぽどの事でしょ。言いたくないなら、言わなくていいのよ」

「…ありがとう、母さん」


「そうね。貴方が帰って来てるんだったら、貴方のお父さんも会いたがっているんじゃないかしら?」

「親父が!?そんな事…」

「わからないけどね、まぁゆっくりしていきなさい」


そう言われ、俺は自分の部屋に行く。

ノーザンデリアに婿に行く前、俺は母と一緒にこの家で平民と同じように暮していた。

勿論、城へ習い事や家庭教師がいたのでその時は城へいったが、食事や基本的な生活はここでしていた。

その理由に母が、城での生活を好まず俺と一緒に隠れて穏やかに過ごしたいと考えていたからだ。

だから俺も城での生活に慣れず、ノーザンデリアでも城にいるより、市街を歩いている方が居心地が良かった。


(まぁ…、城にいる理由もリリアンヌ様がいたからみたいなものだし)

どんなに居心地が悪いと思っても、俺は城で過ごしてきた。

それは、リリアンヌ様がいたからだ。

彼女がここにいる意味を作ってくれたし、ここにいてもいいと認めてくれたからだ。

(…まぁ、ここでリリアンヌ様の事を考えてもしょうがないよな)

そう思いながら、当時と変わらない自室で眠りに着いた。


そして次の日の昼間、王宮の使者より

「明日の午後12時より、謁見の間へ参上する様にと国王陛下より伝言を預かりました」

と言われ俺は驚いていた。

何故俺がこちらいる事が、親父に分かったのかはわからない。


俺はトランクからいつも着ている、黒をベースに赤いラインが所々に入っている騎士団の正装を取り出す。

(もういらないと思っていたけど、持って来ておいてよかった)

本当は騎士団の青と白の正装でなければいけないのだが、中々馴染めず。

リリアンヌ様から、「無理せず、着やすい色でいいですよ」と言われ色違いの物を作って貰った。

俺はそれを明日、着れるようにハンガーにかけておいた。


そして、次の日赤いレンガ作りの重厚な城へと向かう。

11時頃と早めに着いたので、ある人の部屋へ挨拶に向かう。


その部屋をノックすると、深海の様に暗い青の瞳と綺麗な黒髪を持った女性が出てきた。

しかし、それは俺が探している人ではなかったが見た事のある人だった。


「どなたですか、敵?侵入者ですか?」

と抑揚のない声で言う。

この方は王太子妃フロイラ様だ。


「前に一度だけお会いしたんですが、オズモンドです。第二王子の」

そう話していると部屋の中から、

「フロイラどうしたんだい?あれ、オズモンドじゃないか!?こっちにおいで」

とゴホゴホと咳き込みながら優しい声で話かけてくる。

                         

部屋の中に入り会いたかったその人、俺の異母兄である王太子バスティオールがベッドの上で横になっていた。

父と同じ黒髪を持ち、王妃様と同じ空色の瞳をしている。

兄上は生まれつき病弱な方で、成人男性にもかかわらずその体は女性のように細く寝たきりの生活をしている。


「ごめんね、せっかく会えたのにこんな状態で」

とフロイラ妃に支えられながら体を起こしている。

フロイラ妃は、医療関係の人物を輩出する伯爵家の出身で。

自身も軍医という王太子妃としては特殊な経歴を持っている。


「いえ、兄上の楽な姿勢でいいですから」

「ありがとう、これから父上の所へ?」

「はい、昨日母の家に使者が来まして」

「実は、その事については私も知っているんだ。父上と話をしている時に、ノーザンデリアの公爵の方かな?から書簡が届いて、リリアンヌ女王陛下が倒れた事や。王配の行方がわからないと書いてあってね。でも、城の者から幸運にも私達と同じレコンキスタ出身の人がいて最後に君に会った時、こちらに来ているのではないかと書かれていたんだ」

(リリアンヌ様が倒れた!?)


その兄上の言葉に、彼女の事が心配になるがそれを抑える。

「そうだったのですか。皆、私を探して」

「父上も眉をピクピクされていたからね、ただ事じゃないと思ったよ」

「本当に兄上は父上の事を、良く見ていらっしゃいますね」

「まあね」


きっと兄上の観察眼は、母で王妃であるアゼット様に似たのだろう。

俺は彼女の事を「もう一人の母」だと思っている。

王妃様が亡くなる前、俺とリリアンヌ様の結婚が決まった時、病に床つきながら俺の手を握りこう言ってくれた。

「オズモンド、結婚おめでとう。どうか、自分のお嫁さんを大切にしてあげてね」

その母の言葉を忘れた事はない。

彼女は俺の結婚を見届けるように、亡くなってしまった。


こうして異母兄弟にもかかわらず、気軽に話が出来ているのは王妃様が俺たちの仲を取り持ってくれたおかげだ。

実の母は城に行くのを嫌がり、習い事はわざわざ王妃様が見学してくれた。

兄上と同じように病弱ながらも、体調が良い時はピアノやダンスを教えてくれた。


「これはね、貴方のお母さんから教わったの。貴方に教えられて嬉しいわ」

と昔、母が家庭教師をしていた事を教えてくれた。

母は過去のこと、家庭教師をしていた事を話してくれなかったので、全部王妃様から聞いた話だった。


「お嫁さんを大切にして欲しい」

王妃様の立場を考えれば、これ以上ない重い言葉だ。

だから俺はその言葉通り、リリアンヌ様を大切にして来た。

しかし、今はどうだ。

天国にいる王妃様も泣いておられるだろう。


「まぁ、詳しい話は父上から何かあるだろうけど会えて嬉しいよ。何も音沙汰がないから上手くやっているのかなと思っていたけど、入婿はどの身分でも苦労するし、オズモンドも大変だっただろう」

と俺を労る様に言ってくれる。

「いや…、そうなのかもしれませんね。何もなかった訳ではありませんから」


「素直でよろしい。そうだ、アルトも会いたがっていたよ。後であってくれないかな?」

アルト、第三王子のアルト王子の事だ。

兄上と同じ王妃様の子で、俺の異母弟になる。


「わかりました父上に会った後、会いに行ってきます」

「そうだ、お願いがあるんだ。アイツ構って欲しいのか毎朝、私の布団を()いでくるんだよね。後で、ボコボコにして貰えるかな?」

「畏まりました。王太子のご命令なら仕方ありませんね」

「頼みましたぞ、王配殿下」

と二人でニヤニヤしながら言っていた。

それを見たフロイラ妃が心配そうにしている。


そのあと、部屋から出て謁見の間へと向かった。






Ep9の①を読んでいただきありがとうございました。

次回、「アルト王子 死す」じゃなかった。

Ep9「里帰り」②をお送りします。

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