頼みー2ー
「何の話?」
もうここまできたら苦しくてもシラを切り通すしかない。
「往生際が悪いやつはモテねぇぜ?」
うっさいわ。関係ねぇよ。
「だから知らないってば。…はいこれ、ノートありがと」
借りていたノートを閉じてセオに渡す。
「どうしても言わねぇ気かよ」
自分に差し出されたノートを受け取って呆れたように言う。
その聞き分けのない子供を見るような目ヤメロ?
……でも、この際いい機会かもしれない。
そう思い直し口を開く。
「言わないよ。セオにだってあるでしょ? 踏み込んで欲しくないとこ」
私も踏み込まないからそっちも踏み込まないで。
そんなことを暗に言って線を引く。
「あ?」
そんな私の言葉にセオは意図が分かったのか、はたまた何か心当たりがあるのか、眉を寄せるこちらを睨んできた。
「だからこの話は終わり!」
普段より数倍人相が悪くなったヤツにそう言って、営業が終了した店みたいに、ガラガラーっとシャッターを降ろす動作をすれば、手をガシリと捕まれ下に降ろした手を無理やり上げようとしてきやがった。
「もうちょい営業してもらわないと困りますよぉ、おねーさん」
手に力を込めたまま、口の端を上げ意地の悪い笑みを浮かべたセオがそんな事を言い出した。
ガラ悪っ!
「お客さん困りますぅ。うちはもう終りなんでぇ」
「あれ? 二人揃って珍しいね」
セオにノリながら、自分も対抗して腰を少し浮かしぐぐっと手に力込めていれば、違う声が割って入ってきた。
「ウィル!」
見れば、ウィルが不思議そうにこちらを見ていた。
と、予期せぬウィルの登場に思わず今まで必死に込めてた手の力を抜いてしまったのが良くなかった。
「うぉ、っ!?」
「のわぉ、っ!?」
そうなると、私の腕はセオの上に向かう力に従うわけで、そしてそれはセオも同じわけで、次の瞬間、二人して思いっきり手を天に向けたバンザイの格好になった。
「「 、っ…!!!」」
思いっきり腕が上がったせいで、腕がもげたような痛みを覚え、二人して両腕を押さえて縮こまる。
「あはははっ!」
そんな私達を見て、ウィルが声を上げて笑いだした。
「ウ、ウィルくん! 笑っちゃダメだよ…」
ほんとにな。
って、今の声…
「ティナちゃん、大丈夫?」
ウィルの後ろからひょこりと顔を出し、こちらに駆け寄ってきたのはエリちゃんだった。
やっぱり!!
エリちゃん! 探しても会えなかったのに、今会えるってどうなの!?
「その組み合わせだけには言われたくねぇ」
なんて言いながらセオは痛そうに腕を摩った。
「何やってたの?」
ウィルがまだ口元に笑いを残しながらそう尋ねてきた。
「あ? あぁ、ちょっと頼まれてノート見せてやってたんだよ。つか、テメェいきなり力抜いてんじゃねぇよ」
額に青筋を立ててこっちを見るセオに今回ばかりは素直に謝ることにした。
「面目ない」
今のはとてつもなく痛かった。
「ティナちゃん、腕大丈夫?」
心配そうに様子を伺うエリちゃん。
この子は本当に天使なのではないだろうか? 変な格好をしていた私達を笑うことも無く、ただ心配してくれる優しさ。くぅ…っ、染みるぜ!
なんて、つらつらとオッサンみたいなことを心の中で言っていたのが悪かったのだろう。
完全にボーッとしていて周りの声が聞こえなくなっていた。
そんな私を現実に戻してくれたのはエリちゃんの声だった。
突然「ティナちゃんっ!」と間近でエリちゃんの声が聞こえ、ハッとして状況を確認すると、すぐ目の前にエリちゃんの顔があった。
エリちゃんって本当に顔整ってるなぁー。
ドアップでも可愛いいとかレベル高ぇ。
「もしかして、また熱ぶり返しちゃった?」
物凄く心配そうに上目遣いで尋ねるエリちゃんに「はぅっ」と胸を抑える。
「ティ、ティナちゃん!?」
美少女の上目遣いの威力をモロにくらい、見悶える私に、エリちゃんは何事かと驚く。
「大丈夫だよ、放っておいて。全く元気だから」
クスクスと笑いながらウィルがエリちゃんにそう伝えてくれた。
さすがウィルさん、よく分かっていらっしゃる。
「というか、トレドさん。そろそろ行かないと」
時計を指さしそう言うと、エリちゃんは「あ!」と声を上げた。
「ごめんなさい! 気付かなかった……」
「いや、大丈夫だよ。俺も今気付いたところだったし、ね?」
しゅんとしたエリちゃんをウィルがフォローするその図はなんとも絵になっていた。
「ありがとうっ! あ、ウィルくん、エリザでいいよ? そんな丁寧に扱わなくても大丈夫だから」
そう言ってフワリと笑うエリちゃん。
癒しだぁ。
「そう? じゃあエリザ、で」
「うんっ、あ! セオくんもそれで大丈夫だから!」
そのエリちゃんの言葉にセオはヒラヒラと手を動かしただけだった。
「つーか、お前らはどこ行くんだよ」
「ネカル先生のところだよ。呼ばれたんだ」
そのウィルの言葉にセオは「ほー」と興味無さそうな返事をした。
自分で聞いといてそれは無いだろう。
と思ったのはウィルもだったのか「そういえばセオ、ティナに悪知恵貸したよね?」と黒い笑顔でセオに一歩近付いた。
悪知恵、とは多分、私が昨日ウィルを苺で釣ろうとしたことだろう。
「は? 悪知恵?……あれか! え、マジでお前あれ使ったわけ? つか何でそれ俺って分かったんだよ!」
いや、どー考えてもセオしかいなくね?
自分以外の選択肢あったことに驚きだわ。
「あはは、セオしかいないと思うよ? あんなつまらないこと知ってるのなんて」
いよいよ黒いオーラ&毒舌まで出てきたウィルさん。
「いや、結構使える…って、ちょ、マジお前、待てって」
いっそう黒い笑みが深くなる物凄くテンパってるセオは見ていてとても子気味がいい。
人の、というかセオの不幸をニヤニヤと笑っていると、突然、襟首を掴まれウィルの前にセオを守る盾のように出された。
「ひょ!?」
意図せぬ声が出た。
「っちょちょちょ! セオ!? 何してんの!?」
私をウィルの前に出したのは他でもないセオだった。
ウィルの黒笑顔、近くで見ると本当に怖い。
シャレになんないくらい怖い!
「うっせ、元はと言えばおまえのせーだろうが。責任とれ」
え、待って何で? おかしいくない? おかしいよね!?
元を辿ってもセオのせいだと思うんだけど!?
逃げようと思ったが、肩をヤツにがっしりと掴まれているせいで一歩も動けない。
「ティナ、邪魔」
クイッと顎でどけと合図するウィル。
ヒィィ! とばっちりぃ!!
そんな半泣きの私を助けてくれたのは天使だった。
「ウ、ウィルくん! そろそろ本当に行かないと……!」
エリちゃんの言葉に「チッ」と一度だけ小さく舌打ちした後、黒いオーラを引っ込め、「じゃあ、二人ともまた明日」なんていつもの笑顔で言って二人はネカル先生の元へ向かって行った。
「た、助かったぁー」
「あっぶねー、あの小動物いい役してんじゃねーか」
ウィル達を見送りつつ、二人でホッと大きく安堵のため息を吐いたのだった。
ばんざーい




