ちっちゃな冒険
カラっと晴れた昼頃、皆が勉学に励んでいる中、私は優雅に一人、ベッドの上で目を覚ました。
この学校も日曜日は休みだ。それから日曜日以外の日に学校に行かないのは創立記念日のような指で数えれるような日にちしかない。
だからかもしれない。皆が学校に行っている間、こうしてまだ自分の部屋にいることにとてつもない優越感を感じるのは。
なにせ私は元気だ。ほぼズル休みと言っても過言ではない。
「何しよっかなぁー」
思わず一人ニヤけてしまう。
取り敢えず行動する前の腹ごしらえをしようと、一人、シーンとした部屋でモグモグとスライスチーズをのせて焼いた食パンを一枚食べていると、嫌でも思い出してしまうのがあのこと。
ティナ=シーナの話は正直、信憑性が薄い。
『それは確かよ』とか言ってたけど、だいたい本人経験ないのに何で分かるんだ? って話だし。
でも、それでも、少しでもまたイヨちゃんに会える可能性があるのなら、私はーー……。
***
「しっかし、ここは本当に広いなー!!」
青空を覆うほど高い木だらけの中、ぐるりと周りを見渡し呟いた。
部屋にこもっているとどうしても暗くなるため外に出ようと思いつき、部屋を抜け出すことにした。
正面から堂々と寮から出て学校に向かうのはさすがに誰かに止められる為、そぉーっと誰にも見つからないように非常階段から出て来たのだ。校舎近くにいると先生に見つかりそうだから奥の方に来たはいいけど……もう、もはやここが何処か分からない。
そして帰り方も分からない。
「ま、いっか。ここ船の上だし進めばどっかぶち当たるだろうしー」
ーーーなんて思っていた数時間前の自分を往復ビンタしたい。
「これはあれだ、どっかにぶち当たる前に足が停止するわ」
アップダウンの激しい坂道はネカル先生の体育の授業よりキツい。もう足が産まれたての子鹿のようにガタブルになっている。
「ちょ、マジで……どっか休める所と…水!!」
ゼーハー言いながら坂を上りきると近くに白い建物が見えた。白い建物の青い屋根に十字架があるところから推測すると、恐らく教会だろう。
なぜ教会が?
と思わなかったわけじゃない。けどそれ以上に私は水分に飢えていた。
「あぁ! メシア!」
ガタブルの足に鞭を打ち気分ダッシュで教会の中に入った。
**
教会の中はホコリっぽくて、いかにここを使う人が少ないことを教えてくれた。
中に入るとまず目に付いたのは、迫力のある綺麗なステンドガラスだ。その近くには大きなパイプオルガンがあった。
こんなに立派なのに使う人がいないなんて勿体無い。
と、祭壇の前でお祈りをした後だったのだろうか、男子生徒が一人立っていた。その男子生徒は私が入ってきた音に気付き振り向き、目を見開いて固まった。
「……ちょっと、何でここにいるわけ?」
……やー、まー、そーなりますよねぇー。
「ルーナンこそまだ学校じゃないの?」
「授業ならもう終わったけど? ていうかもう部活も終わってるし」
「なんだって!?」
どうやら私がさ迷っていた間に学校の活動が終わっていたようだ。
「取り敢えず座ったら? さっきから足の主張が激しいんだけど」
とても哀れの目で見られた。
「スミミセン、お見苦しいものをお見せして」
近くの長椅子に腰をかけることにした。
「っふー!! 足が楽だ!」
足を思いっきり伸ばし、ガタブルから解放された喜びに少し泣きそうになっていると、隣に腰掛けたルーナンに少し冷たい目をされた。
そういえば、何気にルーナンと二人っきりになるのなんてお初じゃない?
いつもよりほんの少し緊張しているのを誤魔化すため、そっと隣に座るルーナンの見ると、パチリと目が合った。なんてこった。逸らすべきか、そのままにしておくべきか悩んでいると、ルーナンの口が開いた。
「ティナ風邪は?」
「か、風邪!? あ、あぁ! それがもー、すっかり良くなりまして」
あ、ちょ、ルーナン、「だろうね」みたいな顔やめて!?
「まぁ良かった」
「あ、ルーナン、もしかして心配してくれたー?」
「はぁ!? 何でそうなるわけ!? 」
心外だ、と言いたげな目と、いつもの絶対零度の視線のスペシャルバージョンだった。
「調子に乗ってスンマセン」
初めて味わうスペシャルバージョンは呆気なく私に白旗を上げさせた。
「……目の前で倒れられたら誰でも心配ぐらいはするんじゃないの」
と、肘掛に肘をついて顔を背け、ボソリと呟いたルーナン。
はい、久々のルーナンのツンデレ頂きました!
一人ニヤニヤしていると、ふとここに入った時に見た光景を思い出した。
「そういえば、ルーナンっていつもここに来てるの?」
「まぁ、たまに」
サラリとそう返したルーナンへの視線を下にずらすと、ルーナンのホコリで少し汚れている制服のズボンが見えた。
「お祈りするため?」
「………アンタには関係ないでしょ」
なんて、目の前に大きな壁を作られた。隣にいるハズのルーナンが遠くにいるような錯覚に陥る。
「そう…だねー」
うん、確かに私には関係のないことだ。彼らと深く関われるのはこの世界のヒロイン、エリちゃんだけなんだから。
「ーー……っ!?」
もう少しで出そうになった言葉をバッと口を塞ぐことで強制的に押し留めた。
「ちょっと、いきなりどうしたワケ?」
驚いた顔でそう尋ねるルーナンにぶんぶんと首を振り、何でもない、と伝えた。
「ふーん、まぁいいけど。
それよりティナは? なんか急いでたみたいだったけど?」
ルーナンの質問に少し前のことを遡って思い出す。
「私? ……あー!! そうそう!水、水が欲しくて!」
本来の目的をやっと思い出した。
「水? 水ならそこの部屋に給水器があったと思うけど」
そう言って祭壇の近くにある扉を指さした。
「本当!?」
「たぶんね」
**
ルーナンの言葉を信じ、行ってみると本当にあった。
「この教会って素晴らしい!!」
そんなことを一人で言いながら腰に手を当てて、水をゴクゴクと飲む。
それにしてもルーナンがこの話題を出してくれて本当に良かった。お陰で一人、ゆっくり頭を冷やせる。
フーッと、水を飲み終え使ったグラスを洗っていると、窓の外に人影を見つけた。
「ん? あれって確か、ソフィアの元ペアのー
……ジャルくん?」
こんな所で何してるんだろ? ていうか、なんか暗くない!?
下向いて歩いてるから余計に何か思い詰めてるように見える。
え、まだソフィアのこと引きずってる感じ? 長くない? ほらジャルくん、次だよ、次! 時間は待ってくれないんだから早く次行かなきゃ!
そうエールを送っていると当の本人とパチッと目が合った。目を見開いたジャルくんに、物は試しにへらっと笑ってみると、物凄い形相で睨まれた。
「えぇー……」
彼はプイッと私から顔を逸らすと顔を上げてスタスタとどこかに向かって歩きだした。
予想外の行動に戸惑ってしまったのは仕方ない。
〜おまけ〜
ウィル「ティナ? どうしたの?」
ティナ「うーん、学校あんまし探検出来なかった」
ウィル「ああ、ここ広いからね」
ティナ「うん。だからまた探検しようと思う!」
ウィル「あはは、それはやめて」
ティナ「えー……」
ウィル「やめて」
ティナ「ハイ」
真っ黒のオーラが怖すぎた。




