曖昧な彼女ー4ー 提案
大変遅くなりました!
「ふーん」
話し終えた私に掛けたティナ=シーナの最初の言葉はそれだった。
「何? もっと感動しておけば良かったかしら?」
不満げな顔をしていたのだろうか、ふわりと優しく笑いながらそう言われた。
「いや、十分です……」
その迫力にチキンな私の心は素晴らしい速さで白旗をあげた。
やっぱ本物は迫力が違うね、迫力が。
それにしても、私って本当にキイだったんだなぁー。
ティナ=シーナに話していて、改めてそう思った。
イヨちゃんが病室で目を覚まさなかった時の不安も、イヨちゃんが笑わなくなった時の胸の苦しみも、全部、全部覚えてる。
どうして今まで忘れていたんだろうって思うぐらいに。
……ああ、もうなんで。
なんで、彼女を一人にさせてしまったんだろう。
「どういうこと? 貴女別に一人にしていないじゃない」
唇をキュッと強く噛み締めている私を見て、ティナ=シーナは心底不思議そうにそう尋ねてきた。
どうやら彼女は私の心の声も聞こえるらしい。
「……私は…キイは死んでなかったんだよ」
そう、私はあの事故の後、半分生きて半分死んだまま病室のベッドで横たわっていたのだ。
「意味が分かるように言ってくれない?」
「……つまり植物状態になったんだよ、私。
イヨちゃんは死んじゃったのにね」
思わず嘲笑が漏れた。
何が『一人にしない』だ。
結局私はイヨちゃんを一人で死なせた。
こんな大事なことをどうして今まで忘れていたのだろう?
「まぁ、いいじゃない」
自己嫌悪に陥っている私に自分の前髪を整えながらそう言った。
「……へ?」
「あら間抜け顔。
だってそうじゃない、その記憶全部前世の話なんでしょ? だったら今ここで後悔したところで何のメリットもないじゃな……」
「……やめて!!」
ティナ=シーナが前髪をいじる手を止め、私を凝視しているのが分かる。
「『過去のこと』なんて簡単な言葉で済まさないで! そんなので割り切れない……っ!」
肩で息をしてそう言い切ると、何か温かいものが頬を伝った。
「あ、れ……?」
「……はぁ、また泣くのね」
彼女に言われてやっと、自分が涙を流していることに気付いた。
と、同時にずっとずっと溜めていた思いが溢れ出た。
「……っイヨちゃん、会いたい……っ…笑顔をまた見たい…っ」
……ああ、そうか。今やっと分かった。
どうして今までイヨちゃんのことを忘れていたのかが。
きっと直感的に分かっていたんだ。
イヨちゃんのことを思い出してしまったら、もう会えない彼女に会いたくて、会いたくて堪らなくなってしまうことに。
立っていられなくなって、その場に座り込んだ。
「……会えるわよ」
「……っえ…!?」
ぐちゃぐちゃの顔のままガバッと見上げると、もう一度彼女は真っ直ぐ目を見て「会えるわよ」と繰り返した。
「……どういう、こと?」
目に溜まった涙をそのままに、その意味を尋ねた。
「ここにある一定の時間ずっといると、魂が浄化されて上に連れて行かれるのよ」
そう言って綺麗な指をピッと上に向けた。
「う、上って……天国みたいな?」
「さぁ? 詳しくは知らないわ。まぁ、あの世と呼ぶのに近いところなのは確かね」
「イヨちゃんに……死者に会えるの?」
ドクドクと鼓動が自然と早くなる。
「ええ、それは確かよ」
即答だった。
「ねぇ、ここで提案なんだけれど、ティナ=シーナ私に頂戴?」
「……え?」
突然の提案に頭が真っ白になった。
「あら、悪い話じゃないと思うわよ?
ティナ=シーナの身体を私に渡せば、貴女はここに来る。
それからここで少し時間を過ごせば念願の『イヨちゃん』に会える」
「あ……」
「ね? 悪い話じゃないでしょ?」と優しく微笑んで言う彼女に私は何も言えなかった。
「ふふっ、まぁ今すぐに答えを出せなんてそんな鬼畜なことは言わないわ。続きはまた今度」
そう言った直後、彼女と花畑の風景がボヤけ始め、私は彼女の提案をもう一度心の中で咀嚼しながらそっと目を閉じた。




