曖昧な彼女ー2ー 目覚め
「ん……」
飛行機事故が起こった次の日の朝、私は病室で目を覚ました。
病室に連れてきてくれた先生にお願いして病院に泊まらせてもらったのだ。
「イヨちゃん、おはよー。コンビニ行ってくんね」
寝起きの頭でまだ目を覚まさないイヨちゃんに声をかけ病室を出た。
***
「パンか、おにぎり……」
病室を出た私はは、病院内にあるコンビニで片手に焼きそばパン、もう一方の手にかやくおにぎりを持ち頭を悩ませていた。
「……よし決めた」
両方買うことにしよう。
迷うならどっちも買えばいいじゃない精神でおにぎりとパン、それから今日の新聞を持ってレジに行き、コンビニ袋をブラブラと前後に揺らしながらコンビニを出た。
「ただいまー」
返事が返ってこない病室に入り、備え付きの椅子に腰を下ろした。
「パンパン焼きそばパンー」
作詞作曲自分の歌を歌いながら買った新聞を広げ、パンをかじった。
「……っ!!」
パラパラと新聞をめくっていた時、イヨちゃんのベッドの方から布の音がした。
ビクッとして、音のした方を見ると、イヨちゃんが目を覚ましていた。
「なぁーんだ、イヨちゃんが起きた音だったのかー」
そう胸をなで下ろし、再び新聞に目を向けた。
ん? ちょっと待てよ、イヨちゃん? ん?
「イ、イヨちゃんっ!?」
マッハで新聞を畳んで机の上に放り投げ、食べかけの焼きそばパンを片手にベッドに駆け寄った。
「……キイ?」
何回か口を開いたり閉じたりした後、耳を澄ましてやっと聞こえるボリュームで私の名前を呼んだ。
「イヨちゃん……!」
「イヨちゃん、痛くない!? 痛いよね!? あっ、お医者さん呼ばないと!!」
自分の目の前が霞んでるのを無視して、ワタワタとベッドにぶら下がっているナースコールを押した。
**
バタバタと慌ただしい足音を鳴らしながら白衣を着た男性と看護師さんが数人やって来た。
「……皆は?」
お医者さん達の検査が終わり「意識が戻ってよかった」と和やかな雰囲気が漂っている中、イヨちゃんが目が覚めてから二回目の言葉を発した。
「えっと……」
その疑問に誰もが口を噤んだ。
「アカリは?」
思わずイヨちゃんから目をそらしてしまった。
イヨちゃんはそんな私の行動に何かを察し、「新聞」と呟いた。
「新聞見せて」
「イ、イヨちゃん……」
「見せて!!」
大きな声に思わず肩が跳ねた。
机の上に置いていた新聞をそっとイヨちゃんに差し出した。
イヨちゃんはそれを受け取ると、新聞に目を落とした。
ページをめくる必要はない。
あんな大きな事故が見出しに載らないハズがないんだから。
「……」
しばらくの無言の後、イヨちゃんは息をひとつ吐いた。
ふと周りを見れば気を利かせたのか、お医者さん達はいつの間にか病室を出て、いなくなっていた。
イヨちゃんと二人っきりだ。
今は沈黙がやけに苦しい。
「イヨちゃ……」
沈黙に耐えれなくって声を掛けようとして、手を口に当てとめた。
「……ふ、……く…っ」
イヨちゃんは肩を揺らして泣いていた。
声を殺して泣いていた。
イヨちゃんの手元にある新聞はクシャクシャだ。
「……っ」
堪らなくなってイヨちゃんの頭を引き寄せた。
「……っキイ」
イヨちゃんの涙で胸元が濡れた。
何も答えずギュッと頭を抱く腕に少しだけ力を込めた。
「ア、アカリ……っ、ミナっ、ハヤトっ……」
イヨちゃんの口からたくさんの人の名前がポロポロと零れ落ちていく。
おそらく、この事故で亡くしたイヨちゃんのクラスメイト。
その時私はやっと気付いたんだ。
昨日看護師さんが『目を覚まさない方がいい』って言った意味に。
「キイ、お願い、キイだけは私を置いていかないで」
暫くして落ち着くと、イヨちゃんはポツリとそう縋るようにそう言って疲れたのか目を閉じだ。
「うん、大丈夫。私はイヨちゃんを一人にしない。イヨちゃんに嫌がられて拒否られても傍にいるよ」
泣き疲れて眠っているイヨちゃんをそっとベッドに戻しながらそう一人つぶやいた。
もう少し過去編続きます!




